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妻が30歳の記念に写真撮影

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2022/07/16 (Sat) 16:28:50


 10年という交際期間を経て夫婦となり、昨年の10月に結婚2年目を迎えた、私と妻の敦子です。

 私は以前から、寝取られや複数プレイなど強い興味を持っていましたが、どちらかと言えば性に関して真面目な妻に共感を得られる自信が無く、妄想だけに留め自分の中に仕舞っていました。

 先月、妻の誕生日、妻のある一言から始まりました。
 「あのね、30歳の記念に写真を撮りたいんだ・・・」
 妻の誕生日祝いにレストランで二人、ワインを飲んでいた時です。
 唐突な妻の言葉でしたが、特におかしな話でも無いのでうなずいて聞いていました。
 「いいんじゃない。何、俺が撮るの?」
 新しいデジカメを購入したばかりだったので、私はそういう話だと思ったのです。
 「ううん。そういうのじゃなくて、ちゃんとした・・・なんていうの、プロに撮ってもらいたいなぁって」
 妻の話では、同じ年の友人に聞いた話から影響を受けたらしく、友人は30歳の記念に自分だけの写真集を作ったのだそうです。
 妻が突然「30歳の記念に自らの裸の写真を残したい」と言い出したときは正直面くらいましたが、自分の前ではなく他人の前で裸体を晒す妻の姿を想像して、正直、言いようにないくらいの興奮を感じていました。
 当然妻は、私の考えているような猥褻な感情は少しもなく、昔からの友人であった美佳さんが作ったヌード写真集に感銘を覚え『自分も人生の節目の歳である30歳の記念に裸の姿を残しておきたい』と考えただけだったのです。

 「ヌード写真集って、いったいどのくらいかかるんだ?」
 私は自分の意とは反して何気なくそんな疑問を口にしていました。
 「うん、それがね、美佳は10万くらいかかったみたい」
 「じゅ、10万も!」
 「やっぱり無理だよね」
 妻は決して稼ぎの多くない私に気を使っているようでした。
 「いいよ。敦子がしたいというなら、そのくらいたいしたことないよ。俺も晩酌のビールを減らすから」
 「いいの?本当に?」
 「それに、俺も敦子のヌード写真集を見たいしね」
 「エッチ!」
 妻は小さな声でそう言うと、ほほを赤らめてグラスのワインを口にしました。
 「でも、ヌードなんて、本当にお前に出来るのか?」

 確かに妻は自分でいうのもなんですが、細身でスタイルもよく、世間的には美人に属するタイプではあったが、性格はとても控えめで、人前に出るのを極力避けるようなところがあった。
 反面、妻の友人の美佳さんというのは妻とは正反対の性格で、何事にも積極的で活発な女性という印象だった。
 そんな妻が他人に裸を晒して写真を撮らせるなどということが、本当に出来るのだろうか、私は素直にそんな疑問をもちました。
 「私も実際に撮影のことを考えると、足がすくんじゃう気がするけど、でも、それ以上に美佳の写真を見せてもらったときに、私も今のうちに若い自分の姿を残しておきたいと本気でそう思ったの」
 妻と美佳さんとは小学校からの友人で、性格はお互いに違うが、何故か二人とも気が合い息の長い友人関係を続けていて、お互いに結婚後もその関係は続いていた。
 「そっか、敦子がそこまで思ってるんだったら、思いっきりやってみればいい」
 「ありがとう」
 そう言うと、私たち二人は再びグラスをかさね、レストランで楽しい時間を過ごした。


 その日は家に帰ってからも私の興奮は収まりませんでした。

 私たちは交際約一年で結婚しましたが、お互いに内向的な性格なためか、夫婦になってからも、その性生活はとても淡白なものでした。
 セックスに積極的になれない妻に私も気を使いすぎ、自分の欲求を心の奥底に閉じ込めてしまっていました。
 妄想の中では、妻を淫らに犯すことが出来るのに、実際には愛撫ですら極度に恥ずかしがり、さらには抵抗するので、私はそんな妻を傷つけてはいけないものなんだと思い込み、いつの間にか自分の性的な欲求をしまい込んで妻と生活をしていました。
 いつしか私は自己の欲求をマスターベーションで果たすだけになり、夫婦生活は月に一度、いや2~3ヶ月に一度くらいのセックスレス夫婦になっていました。

 だからと言って私の妻への愛情が減ったわけではありませんでした。
 むしろ妻との満足なセックスが出来ない期間が続けば続くほど、私の妻への興味は増していきました。
 私の稚拙な性行為自体が妻の本当の欲求を引き出せないのだろうと、自分を責める日々が続きました。
 私ではなく、もっとセックスに精通した男性が相手だったら・・・
 私はそんな妄想をする事が多くなっていました。

 いつの間にか性的な話はタブーとなってしまっていた私たちの生活の中で、今回妻が突然「自分のヌード写真を撮りたい」と言い出したことは、私にとってこれ以上ない刺激になりました。
 今日なら妻を思いっきり抱ける。
 今までのような淡白なセックスではなく、動物の本能のままに愛する妻と性交渉が出来る。
 早く時間が過ぎないか、私はベッドにつくまでの時間、自らの興奮を抑えられないでいました。
 寝室はシングルベッドを二つ、ナイトテーブルを隔ててあり、私のベッドは奥側と決まっていました。

 その日私は早めに寝室に入り、ひたすら妻を待ちました。
 いつものように食事の後片付け、洗濯物のアイロンがけ、入浴を済ませてから寝室に入ってきたのは、私はベッドについてから2時間が経ってました。
 その間私は何度か睡魔に誘われたが、妻への性的欲求から眠りに付く事はありませんでした。
 「まだ起きてたの?明日も早いんでしょ」
 妻は寝室に入るなり明かりを消さずにベッドで寄りかかっている私を見て、そう言いました。
 「うん、なんか眠れなくて」
 「珍しいね。いつもこの時間ならいびきかいてるのに」
 そう言うと妻は自分のベッドに入りナイトテーブルの電気を消そうしました。
 「そっちに行っていいか?」
 「えっ?」
 結婚してから平日の夜に私から妻を求めることなんて、一度もなかったので妻は驚いた様子でした。
 「どうしたの?」
 「うん、今日は何か変な気分になったから、どうしても・・・その・・・」
 「いいよ・・・」
 そう言うと妻は掛け布団を少しめくり私を向かい入れてくれました。
 私は抑えられない興奮のまま妻のベッドに入り込みました。
 「どうしたの?」
 妻のパジャマを脱がし、一心不乱に覆いかぶさった私とは正反対に、妻はいつものように冷静な顔つきで私をなだめるようでした。
 妻の手がナイトテーブルにある電気スタンドのスイッチに手を伸ばすと、私はその手をつかみました。
 「お願い、電気消して・・・」
 「やだっ」
 妻との性交渉で初めて私は自分の要求を口にしました。
 「今日は敦子の裸をちゃんと見たい」
 「あなた・・・」
 「頼む・・・」
 「わかったわ、でも恥ずかしい事はしないで・・・」
 妻との性生活を明かりのあるところでするのはこの夜が初めてでした。
 スタンドの明かりに照らされて初めて見る妻の裸体は、息を飲み込むほど美しかった。
 恥ずかしながらその全身を見た瞬間に私は大量に果ててしまったのです。
 「ご、ごめん・・・」
 思いもよらない自分の身体の反応に、私は情けない気持ちで一杯になりました。
 「いいよ、久しぶりだったし、今日は少し飲みすぎたのよ」
 妻はそんな私にいつもと変わりないやさしい言葉をかけてくれました。

 私は自分のベッドに戻ると、静かにスタンドの明かりを消し目をつむりました。
 やっぱり俺ではダメなのか?
 敦子の本当の姿を見てみたい。
 性欲に溺れ、乱れていく敦子の姿を・・・
 隣りに寝ている妻は、無邪気な顔ですでに寝息をたてていました。
 その夜、私はそんな妻の寝姿を見ながら二度の自慰行為をしていました。


 あれから数日が過ぎ、いよいよ妻の友人である美佳さんが撮影を行った写真館に夫婦で出かける事にしました。
 今回は撮影の依頼と打ち合わせが目的です。
 写真館のオーナー兼カメラマンの高島という男性は、50代後半の白髪で髭をたくわえた紳士でした。
 私たち夫婦にコーヒーとお茶菓子を用意して笑顔で応対する姿は、とてもカメラマンという芸術家風ではなく、その物腰は丁寧な営業マンのような感じでした。

 「浜崎さんからお話は伺っていましたよ」
 本題の撮影の話を始めると、高島氏は笑顔で語りました。
 「奥様は先日30歳になったばかりということで・・・それはお誕生日おめでとうございます」
 30歳おめでとうと他人から言われ、気恥ずかしさで顔を赤らめて下を向く妻とその横に座っている私に高島氏は話を続けました。
 「わたしも昔はプロの有名なカメラマンを志望していましたけど、上手くいくのは選ばれたほんの一握りの人間だけで、結局私はこのような写真館をするのが精一杯でしたよ。それでもいい写真を撮りたいという情熱は、今でも少しも冷めていないですけどね」
 高島氏は私立の有名な幼稚園や小学校での専属カメラマンでもあり、自宅を改装したスタジオで記念撮影などをしていた。
 最近はデジタルカメラの普及で、写真の現像などの仕事はほとんどなくなってしまっが、その分カメラマンとしての仕事に再び情熱をもって打ち込めるようになったと言っていました。
 「あの、ヌード写真の依頼って結構あるんですか?」
 私は興味本位ではなく、実際に妻のようなまったくの素人が本当にヌード撮影をお願いすることがあるのだろうかと、素直な疑問をぶつけてみました。
 「そうですね。うちみたいな家族写真とかを主に扱っている所にはなかなかそのようなお客さんは来てくれませんけど、最近ではヌード写真を専門に扱っているスタジオが盛況をはくしていると聞きますよ。20歳の記念ヌードとか、奥様のように30歳の記念ヌードとかは、全然珍しいことではないですね。それに還暦を記念して自分のヌード写真を撮る人もいるとか・・・」
 高島氏は笑顔でそう語っていました。
 「か、還暦記念ヌードですか」
 「そう、女性はいくつになっても自分の美への欲求があるのでしょうね」
 仕事で若い女性のヌードを見られるカメラマンをうらやましいとも思ったが、60歳の還暦ヌードは勘弁して欲しい、ともその時なんとなく思っていた。

 「あのー、一つ質問なんですが、撮影の当日私も見学させてもらってもいいですか?」
 他人に撮影される妻の姿を生で見なければ、私の欲求を果たすことは出来ません。
 今回の件で私が一番気にしていた事なので、はっきりとそのことだけは確認しておきたかったのです。
 「もちろんですよ。大切な奥様の撮影なんですから、ご主人には立ち会ってもらわなくてはね」
 高島氏の言葉は私を安心させるには充分でした。
 「それに、女性は見られれば見られるほど美しくなるんですよ。だから撮影の時には、ご夫婦が信頼できる安全な方なら、どなたでも見学してもらってかまいませんよ。その方がきっと美しい写真ができるはずですから」
 書類を整理しながら話す高島氏の言葉に、私たち二人はびっくりしました。
 「えっ!他の人に見学を?」
 私は思いもしない高島氏の言葉に、心臓を一刺しされたくらいの衝撃を受けました。
 「そ、そんな・・・無理です・・・」
 妻は消え入りそうな声でそう答えました。
 「確かに自分の裸をご主人以外の人間に見せるなんて、日常にはあり得ませんよね。でも、あなたは今のその素の姿を記録に残しておきたいと考えたんですよね」
 「え、ええ・・・」
 「だったら出来るだけ美しい姿を残しましょうよ」
 高島氏は妻の正面に座りなおすと、真剣なまなざしを妻へ向けてそう語りました。
 「でも、見学させるだなんて・・・」
 「まあ、ちょっと乱暴な言い方でしたね。実際にはご家族や恋人以外の方を連れてこられる方はいませんよ。でも、見学者がいるくらいの方がスリル感があり、より美しい写真を残せるのですけどね。それに、自分への戒めのためにもね」
 「戒め?」
 私は高島氏の言葉の意味を問いただしました。
 「そう、こう見えても私も男性ですから。こんな美しいご婦人が自分の目の前で裸になれば、変な気分になってしまうものです。でもギャラリーがいればカメラマンとしての自制心を失わなくてすむ。なんてね。でも任してください。ギャラリーがご主人だけでもあなたならきっと美しい写真が撮れる。私のカメラマンとしての直感でそう確信できますから」
 高島氏にそう言われると、妻は恥ずかしそうにうつむくばかりでした。


 撮影の段取り、撮影が終わってから写真集が出来上がるまでの工程、費用のことなど、高島氏からもろもろの説明を受け、私たちの不安も少しずつ解消し、妻にも緊張がいくぶんほどけて笑顔が見られるようになった時でした。

 「ただいまっ。花園小学校の音楽会の写真の件、打ち合わせしてきました」
 突然写真館に突然入ってきたのは、背の高い若い男性でした。
 「あっ、お客さんでしたか。失礼しました」
 そう言うとその男性は私たちに頭を下げると、中に入っていきました。
 「彼はうちで働いてくれてる三上くんだ。大学を出てきちんとした会社に就職してたのに、カメラマンの夢が捨てられず、その会社を辞めて専門学校で勉強しながらうちで働いているんだ」
 高島氏は突然入ってきた若い男性の紹介をしてくれました。

 「先生、今日の資料です。後で目を通しておいて下さい」
 奥から顔を出したその男性は、高島氏に書類のような物を手渡すと、写真館の機材の整理などをしていました。
 見た目にも清潔感のあるその男性とも、私たちは会話を交わすようになり、笑い声なども混じって場がとてもなごやかになってきた頃でした。

 「ねえ、先生の作品、見せてもらいました?」
 「おいおい、いいよ、そんなの・・・」
 突然三上氏が私たちに聞いてきました。
 「こうやって口コミでも、先生の撮影を希望される方が増えてきたのは、あの受賞があってからじゃないですか」
 私たちは三上氏が何を言っているのか、全く理解ができませんでした。
 ただ、高島氏が写真で何らかの賞を貰う人だったということは、そこで初めて解りました。

 「このパネルを見て下さい」
 三上氏はそう言うと一枚の大きなモノクロ写真が入ったパネルを私たちに見せてくれました。
 それは男女が裸のまま向かい合って立っている写真でした。
 女性は言いようにない快楽の表情を浮かべ、天を仰いでいます。
 男女の腰の位置は密着していて、男性の引き締まった臀部が印象的でした。
 まさに立位で繋がっているようにも見えます。
 「これは先生が一年前にフランスの有名な写真展に出品した作品で、先生はこれで入賞をとられたんですよ」
 三上氏は自分のことのような嬉しそうな顔でそう話しました。

 そしてさらに一冊の大きなアルバムを私たちの前に置きました。
 「これはその時に撮った写真を収めたものです。中をご覧になりますか?」
 私たちはそのアルバムの中を見てみる事にしました。
 中にはやはりモノクロの写真で、男女が写っていました。
 どのポーズもセックスを連想させるような写真だったが、いわゆるアダルト雑誌などに載っているような猥褻感は一切なく、男女の芸術美に引き込まれるような写真ばかりでした。
 どの写真も女性は歓喜の表情を浮かべていて、男性はその筋肉が強調されるものばかりです。
 女性は明らかに日本人のようなのに、まるでギリシャ彫刻を見ているようでした。
 東洋人のきめ細かい肌がモノクロ写真でも良くわかり、とても美しく写っていました。

 「すごくきれい・・・」
 妻は写真にみとれ、おもわず口にしました。
 「でしょ、先生はね、絶対に有名なカメラマンになれる人なんですよ」
 「まだまだ、それは未完なんだから、あまり大げさに宣伝しないでくれよ」
 高島氏は照れながらそう言うとアルバムを持っていきました。
 「けど、さっきの写真、男の人は顔が写っていなかったですね」
 写真の美しさに魅了された妻とはまるで違う発想をしていた私は、やはり芸術を理解するセンスはなかったのでしょう。
 まるでトンチンカンな言葉を口にしてしまいました。
 「あれ、実は僕なんですよ。実は僕もアルバイトでモデルの仕事をしてるんです」
 三上氏の突然のカミングアウトに私たちは、目をシロクロさせてしまいました。
 「ここでの仕事で、なんとか生活をすることはできるのですけど、僕も先生のように本気でカメラマンになりたいと思っていまして。撮影する側の立場だけじゃなく、モデルの気持ちも理解できるようになりたくて、いい勉強させてもらってます。若いうちにもっと自分の可能性を広めておきたいから。もちろん先生にも賛成をもらってます」

 三上氏はここでの仕事、また専門学校に通う傍ら、女子美大などでデッサンのモデルのバイトもこなしていると言います。
 もちろん美術モデルなのでヌードになる事がほとんどとのようです。
 モデルについていろいろ語る三上氏を見ていて、若い女子大生の前で裸を晒す気分というのはいったいどういうものなのだろう?
 私にはそんな疑問が浮かんできました。
 屈託なくそう話す三上氏に妻もなんとなく心を許し始めていました。
 「でも、女の人の前で裸になるってどんな気分なの?」
 私はついそんな疑問を口にしていました。
 「もちろん興奮しますよ。考えても見て下さい。異性の前で裸になる時というのは、まあ病院での診察とか特殊な場合は除いたとして、そのほとんどは性交渉の時ですよね」
 あっけらかんと語る三上氏とは反対に、私たちは何となく気恥ずかしい思いを感じてしまいました。
 「これは先生の受け売りなんですが、私たち地球に住む生物が神様から与えられた最大の使命って何だと思います?それは子孫を残すことですよ。神様は私たち人間に、その子孫を残す行為に最大の悦びを与えてくださった。その時の表情にこそ、人間の本当の美の姿があるのです。だから僕はモデルをしている時に、たとえ性的に興奮してしまったとしても決して恥ずかしいとは、思わないんです。それにデッサンしている方も筆がのるみたいですしね。カメラマンだって同じなんですよ。モデルが性的に興奮している時こそが最大のシャッターチャンスなんです」
 「敦子さん、今度の撮影はすべて先生に任せて、いい写真にしてくださいね」
 三上氏は申込書に書いてある妻の名前を見てそう言うと、その場を後にしてさがっていきました。


 その日の夜は美佳さん夫妻と一緒に食事をすることになっていました。
 7時に待ち合わせた居酒屋に行くと、すでに美佳さん夫妻は店にいました。
 店の奥にある小あがりの小部屋に通されると、美佳さんの旦那さんである信吾さんが笑顔で迎えてくれました。

 「久しぶりだね、相変わらず敦ちゃんは綺麗だね」
 「あんた、またやらしい目で・・・今日はご主人もいるんだからね」
 信吾さんのお世辞とも思える挨拶に美佳さんが、すかさずちゃちゃを入れます。
 「ねえ、どうだった?」
 頼んだ料理もすべて運ばれ、一通り盛り上がって話しをした後、美佳さんが今日の写真館での打ち合わせのことを尋ねてきました。
 「う、うん、まあね・・・」
 妻は居酒屋の軽いカクテルを口にしながら、言葉を濁してそう答えました。
 「まあねって、なによ敦子。それより高島先生の写真見せてもらった?」
 美佳さんの言った写真というのは、あの海外での写真展で入賞した作品だということはすぐにわかりました。
 「うん、見せてもらった・・・」
 「すごく素敵でしょ?」
 「う、うん・・・素敵だった・・・」
 「私ね、思うんだ。あの先生はあんな所で子供の運動会の写真とか撮ってる人じゃないって。きっとそのうち、私たちなんか近寄れないくらいの有名な写真家になるんじゃないかってね。だって、あんな素敵な写真が撮れるんだもん」
 美佳さんは得意げにそう語ると、美味しそうにチュウハイを飲み干した。
 「お前の写真を撮った事が、あの先生の一生の汚点にならなきゃいいけどな」
 「もー何よそれー、失礼ねー」
 すぐさま、隣りにいた信吾さんは、タバコの灰を灰皿に落としながら、美佳さんにちゃちゃを入れます。
 そんな信吾さんに美佳さんが身体をぶつけると、信吾さんは倒れて壁に頭をぶつけます。
 「いてーなー、何すんだよー」

 似たもの夫婦というのはこういう夫婦のことなのだろうか。
 私たちは結婚して2年が経つというのに、このように無邪気にじゃれあったことなど一度もありませんでした。
 私は自分たちとは違う目の前の夫婦が心底うらやましいと思いました。

 「これ、私の写真集。誠さんも見てみて」
 突然美佳さん後ろに置いてあったカバンの中から、自分の写真集を私の前に差し出しました。
 「えっ!美佳、いいの?」
 妻は美佳さんの突然の行動に驚きました。
 「いいのいいの、別に減るもんじゃないし。それにね、私この写真を撮ったこと本当に良かったと思ってるの。だって私みたいな身体でも、こんなに綺麗に撮ってもらえたんだから・・・一生の宝物よ。日本中の男に見てもらいたいと思ってるんだから」

 自分の裸の写真集を親友の旦那に見てくれと頼む美佳さんは、まさに自由奔放というか、いわゆる世間の常識など全く気にしないのでしょう。
 世間体を気にして生きてきた私は、そんな美佳さんに敗北の念を抱く思いがしました。
 しかし、そのとなりには美佳さんのご主人である信吾さんがいるのです。
 私は目の前に置かれた美佳さんの写真集の表紙を眺めながらどうしたらよいのか思慮していました。

 「別に俺のことは気にしなくていいんだよ。むしろ俺も誠くんに美佳の写真集を
見てもらいと思ってるくらいだから」
 美佳さんの隣りにいたご主人の信吾さんまでもが私にその写真を見るように勧めてきたのでした。
 私は横にいた敦子に視線を向けると、黙ったままうなずく敦子にうながされ、写真集を手に取りました。

 最初の数枚は、洋服のまま笑顔を見せる美佳さんの写真が数ページ続き、その後、真っ赤な下着を身に着けただけの写真が出てきました。
 その姿はまさに妖艶と表現してぴったりするものでした。
 そしてページを進めていくと、ついにはバストトップを晒した美佳さんの写真が出てきました。
 美佳さんの乳房は、敦子のものより大きくて柔らかそうなのがわかります。
 大きめの乳輪やその先端も決して品を損なわずに、美しいと素直に思えるようなカットでした。
 そして、アンダーヘアーもはっきり映し出してある全身写真。
 美佳さんの表情は自信に満ちた顔をしていました。
 この撮影で男にはわからない女性の誇りを確信できたのでしょう。
 私は写真集の全てのページに目を通すと静かにそれを閉じました。

 「ご夫婦を目の前にして言いづらいけど、美佳さんの女性としての誇りが詰まっているような写真ですね」
 私は写真集を見た率直な感想を口にしました。
 「うれしいー、やっぱり誠さんだわ。言う事に品があるもん。あんたとは全然違う」
 美佳さんはそう言うと信吾さんにひじてつをして、すぐに敦子に向き直った。
 「ねえ、撮影はいつなの?」
 「今度の土曜日・・・」
 「誠さんも一緒に行くんでしょ?」
 今度は私に向き尋ねてきた。
 「うん・・・」
 「ねえ、私も行っていい?」
 「えっ、美佳も?」
 「だって敦子なら私よりもずっと美人だから、見てみたいじゃない」
 焼酎をもう3杯も飲んでいる美佳さんは少し酔っているようでした。
 「いいんじゃないか、だって先生も他に見学者がいれば、もっと綺麗な写真が撮れるって言ってたし」
 美佳さんの裸の写真を見たばかりの私は、酔いなどほとんど吹き飛んでいました。
 「そんな事言ってたんだ、やっぱりあの先生ただものじゃないわ」
 口調もだらしなくなった美佳さんは、写真集の顔とは別人のような酔いどれ女に変貌していました。

 「おいおい、いいなあ、俺も仲間に入れてくれよ」
 美佳さんの話に割って入ってきた信吾さんも、見てみれば充分に酔いが回ってるようでした。
 「ねえ敦子、うちの旦那も一緒に連れてってもいい?」
 「えっ、そ、そんな・・・」
 「誠さんだって私の裸を見たんだから、信吾にも見せてあげてもいいんじゃない?」
 「無理よ、そんな・・・」

 なんだか会がだんだん乱れていくようでした。
 美佳さん夫婦だけが、気持ちよく酒に酔い、私たち夫婦はそれに反して冷めているような感じがしていました。
 私を除く3人の声がだんだん反響するように聞こえだし、私自身も酒の毒が体中を駆け巡るような感覚になっていきました。
 結局妻は、撮影時に信吾さんの同席をはっきりと許可したわけではなかったが、その場では今度の土曜日の撮影に、4人が行く事になってしたようです。
 あいまいにしたまま、その夜の私たちの会食は終わることになりました。


 美佳さん夫妻との夕食を終え、私たちは家路に向かいました。
 今日は、妻が希望していた写真撮影の打ち合わせをして、その後、妻はエステに行き、美容院にも行った。
 さらに夜には妻の昔からの友人と食事もした。
 妻のために使った一日だったが、何故か帰りの電車の中ではずっと無言のまま表情のさえないままでした。

 その夜、家に帰っても妻はなんとなくふさぎ込んでいるような表情をしていました。
 「どうした?何か、うかない表情だけど・・・」
 そんな妻を気にして私は声をかけてみました。
 「うん、私ね、やっぱり今回の撮影をした方が良いのか迷ってるの・・・」
 妻はしばらく考えこんだ後、私にそう言いました。
 「えっ!どうして??だって敦子から言い出した話だよ」
 私は突然の妻の言葉に動揺してしまいました。
 「確かに美佳の写真を見た時は、私もあんな写真を残してみたいと本気で思ったわ、でも・・・」
 妻は言葉に詰まったようにそう言いました。
 「でも?」
 「信吾さんまで見学することになるなんて・・・私そんな事をするつもりじゃなかったから・・・」

 やはり、妻は簡単に人前で肌を露出することなんて出来ない人間なのです。
 妻に限らず、たいていの女性ならそうでしょう。
 旦那である私や、幼馴染の同姓の友達の前ならともかく、以前から知っている男性の前で、一度も見せたことのない裸を見せるなんて、到底納得できる話ではありませんでした。

 「それなら美佳さんたちに断るかい?」
 私は妻が嫌がるのに、無理やりそのような事をするつもりは毛頭ありませんでした。
 しかし、今日高島氏が言っていた事が頭の中から離れないでいたのです。
 『女性は見られれば見られるほど美しくなる』
 私以外の第三者の人間、特に男性がいれば、妻は普段の殻を破り、もっともっと淫らになれるんじゃないだろうか。
 そんな欲情した妻を一度でいいからこの目に焼き付けたい。
 愛する私の妻、敦子が、他人にその肌を晒し淫らに欲情していく。
 そんな姿が見られるのなら、私はどんな犠牲を払ってもいい。
 私は底知れぬ自分の欲求を満たしたいとその時思っていたのです。
 「う、うん・・・」
 妻は私の言葉にうなずきました。
 私は次の言葉を探さなければなりません。
 「でも、敦子が写真を撮る事はもう美佳さんや信吾さんにも分ってしまってることだろ。だとしたら出来上がった写真は、美佳さんや信吾さんも見ることになるんじゃないのか?」
 「・・・・」
 妻は返事を出来ないまま、私の言葉を聞いていました。
 「遅かれ早かれ、敦子のヌードは美佳さんたちの目にも触れる事になるんじゃないのか?」
 「・・・・あなたはいいの?私の裸を他の男性に見られても?」
 「そりゃ少しは嫉妬するけど、カメラマンの高島さんだって男性だよ。それに今日美佳さんの写真集を見て思ったんだ。こんな言い方したら美佳さんに悪いけど、敦子だったらきっと美佳さんの写真集の何倍もいいものになるって」
 「あなた・・・」
 「それに高島さんも言ってたじゃないか。他人に見られれば見られるほど、女性は美しくなるって。遅かれ早かれ美佳さんたちに見られるんだったら、撮影の当日に見学してもらおうよ。その方がきっといい写真ができるはずだよ」
 「・・・・」

 妻は黙ったまま私の言葉を聞き、まだ迷っているようでした。
 私は焦りました。
 「敦子の30歳という節目の歳に作るこの世でたった一つの写真集なんだよ。だったら出来るだけ良いものにしようよ」
 私は無心で妻を説得していました。
 何度も言葉を変え、妻を励ましながら・・・
 「わかったわ、あなたがそこまで言うなら」
 妻は自分の中で大きな決心をしたようでした。

 始めは妻から言い出したヌード写真集の話だったが、いつしか、それに対する情熱は、妻のものよりはるかに私のものが大きく上回っていました。
 私は揺れ動く妻の心を思うと、締め付けられるほどせつない思いが込み上げてきて、今すぐにでも妻を抱きしめたい気持ちにかられました。
 いつもの時間に寝室に入ると、私は自分の興奮を鎮めるようにベッドで静かに目をつむりました。

 三上氏の筋肉質な裸体の前に立つ全裸の妻。
 二人は立ったまま向かい合い、唇を重ねる。
 妻の口からは甘い吐息が漏れ、恍惚の表情を見せていく。
 三上氏の手は妻の乳房をつかむと、その先端のつぼみをつまむ。
 それに反応した妻は大きな吐息を漏らして天を仰ぐ。
 三上氏はそのつぼみを舌で転がしながらその手を妻の秘部に差し込む。
 そこで私は目が覚めました。

 隣りには静かに寝息をたてている妻がいます。
 私は今すぐに妻のベッドに入り込みたい気持ちで一杯でした。
 寝ている妻を起こし、私の性欲を果たしたい。
 我慢できず、私は自分のベッドから出ようとしました。
 しかしその瞬間、別のことが私の頭をよぎったのです。
 私はやはり今回のことを自分の性的欲求に使ってるだけなのか、妻の純粋な気持ちを踏みにじって。
 今ここで妻と交われば、さっき言った言葉は全て虚になってしまう。
 私は踏みとどまりました。
 そして、撮影が終わるまでは決して妻の身体には触れないと、心に誓いました。


 いよいよ撮影の当日になりました。
 その日は10月の下旬というのに小春日和の汗ばむ陽気でした。
 身支度を整え、9時に写真館に向かうとすでに美佳さんや信吾さんもいました。
 妻は緊張のせいか朝からほとんど言葉を出す事はありませんでした。
 こころなしか上気したように見える妻の顔は、はりつめたような美しさが漂っていました。
 写真館に到着し、挨拶もそこそこに私たちは写真館のスタジオに通されました。

 「それじゃ奥様はあちらで仕度してきましょう。僕はこれでもスタイリストの勉強もしてますから」
 三上氏はそう言うと妻をエスコートして奥の控え室に入っていきました。
 プロのカメラマンを目指し働きながら専門学校に通い、自らもモデルをしたり、またスタイリストの勉強までしている。
 私は自分よりも若い三上氏の引き出しの多さにただ感心するだけでした。

 「ちょっと、あんたは無理言って見学させてもらってる身なんだから、興奮しすぎて変な事しないでよね!」
 「わかってるって!いちいちうるせーなー」
 私たちはスタジオの後ろに置かれていたパイプイスに腰をおろして、これから行われる撮影を静かに待つだけでした。
 「今日は私も助手の三上くんも気合が入っています。電話でもお伝えしましたが、今日は衣装などの撮影は予定していません。ヌードメインで行きますが、モデルさんの気持ちがのるまでは、今日の洋服のまま。それでは準備が出来るまで、もう少しそのままでお待ちください」
 高島氏は私たち三人にそう言うと、妻のいる控え室に下がっていきました。
 「ちょっと、あんたどこ押えてるのよ。もう興奮してるの?今朝2回もしてきたくせに!」
 「るせーなー、男のさがなんだからしかたねーだろー!」
 言いたい事を本気で言い合える美佳さん夫婦は、はためにはコミカルに見えるでしょうが、やはり私にとってはうらやましいご夫婦でした。

 ほどなくすると三上氏が妻を連れて控え室から出てきました。
 三上氏の手によってヘアースタイルや薄化粧が整えられ、
 さらに妻の美しさが強調されていました。

 まずは撮影に慣れてもらうため、洋服を着たまま妻の撮影が始まりました。
 「いいですよ。そう、とても綺麗だ」
 高島氏はスタンドに立てられたカメラのシャッターを切り始めました。
 「バシッ、バシッ」と大きなシャッター音と共に、明るくたかれるストロボの光。
 私たちはいよいよ始まった創作の現場を目のあたりにして、ただ息を飲み込むだけでした。
 三上氏はその間も、妻のヘアースタイルを直したり、露出計で明かりを測定したり、照明のセッティングを変えたり、スタジオ内の装飾品を変えたりと、休むことなく動いていました。
 「そう、今の笑顔、いい表情ですよ」
 撮影中、高島氏は絶え間なく妻に声をかけ続けます。

 女性は誰であっても『自分が主役になってスターのように注目されてみたい』と考えたことがあると聞いた事があります。
 今まさに妻はその時にいました。
 絶え間なくたかれるフラッシュの中で、グラビアモデルのように妻は大きくはばたいていくようでした。
 「だいぶ慣れてきたみたいですね。いい表情だ」
 30分近く費やされた洋服を着たままの撮影で、妻の表情はすっかりやわらかく変わり、いつも以上にやさしさに包まれた妻の美しい姿が、引き出されていました。

 「よし!それでは奥様、いよいよ本番にしましょう。あちらで洋服をすべて脱いで裸になってきてください」
 高島氏の言葉で、撮影になれて笑顔を取り戻していた妻の表情がいっぺんにこわばりました。
 「・・・はい・・・」
 妻は小さくそう言うと、三上氏と共に控え室へ下がっていきました。

 妻は今何を思っているのだろう。
 あの控え室の中で、いよいよ妻は服を脱ぎ捨てて、その綺麗な裸を晒しているか。
 私の妻、私だけの妻が・・・
 私は妻の裸を頭の中で想像しながら、息が詰まる思いでその時を待っていました。


 妻と三上氏が控え室に下がっていくと、高島氏は慌ただしく次の撮影の準備をしています。
 床には毛の長い白い絨毯を敷き詰め、装飾品もシンプルなもに変えていきました。
 あっという間に先ほどのスタジオとは、まるで違う雰囲気になっていました。
 私たちはただ黙ってそれを見ているだけでした。

 あの控え室の中で、最初に妻の裸を見るのは三上氏なのか。
 私の心の中で小さな嫉妬心がわいてきたのと同時に、それ以上に興奮する思いがありました。
 10分が過ぎ、15分が過ぎても、なかなか妻は控え室から出てきませんでした。
 高島氏は一つも慌てる様子もなく、静かに準備をすすめています。

 控え室に入ってから20分以上が過ぎた時、突然そこから三上氏だけが出てきました。
 三上氏は高島氏のそばに行くと、こちらには聞こえない声で耳打ちをしていました。
 高島氏はそれをうなずきながら聞き終わると、ゆっくりとこちらに顔を向けました。
 「まだ奥様の決心が揺らいでいるようです。初めてのモデルさんにはよくあることです。もう少しお待ちください」
 高島氏はそう言うと、三上氏と共に妻のいる控え室へ入っていきました。
 高島氏はその状況をわかりやすく説明してくれました。

 横に座っている美佳さん夫妻は、少しがっかりした表情をして夫婦間の会話をしていましたが、私にはそんな余裕はありませんでした。
 『妻が拒否している!!』
 私は妻の今の気持ちを思うと激しく胸が締め付けられました。
 刹那と表現するのは、まさにこの時の私の気持ちです。
 切ない気持ちが込み上げてきて今にも嘔吐しそうな気分でした。
 『やはり夫として止めるべきだったのか?』
 確かに今回の話は、妻自身が「ヌード写真を撮ってみたい」と私に打ち明けて始まったものだったが、私は純粋だった妻の気持ちを裏切り、自らの性的な欲求を今回の撮影に託してしまっていました。
 30歳を向えたばかりの妻は、ひっそりと記念の写真を残しておきたかったにすぎなかったのに、美佳さんのご主人である信吾さんまで同席させるように仕組み、さらに私は妄想の中で、撮影中に他人に抱かれ悦びの表情をする妻を想像までしていました。
 そんなことあり得ないのに。
 私は激しく自分を責め続けました。
 なんて自分は不純な人間なんだと。
 そのことで、妻は今苦しんでいるんだ。
 私は頭の中で延々と自分をののしり、責め続けていました。
 高島氏が控え室に入ってから10分以上過ぎた頃だったと思います。
 『止めさせよう!今妻を助けられるのは夫である自分だけじゃないか!』
 私はそう言い聞かせると、意を決して席を立ちました。

 それとほとんど同時に控え室のドアが開き、中から高島氏、三上氏に続き、
ブルーのバスローブに身を包んだ妻が出てきました。
 『あっ!』
 私は心の中で叫んでいました。
 三上氏の後をうつむきながら出てきた妻は、スタジオに入る時に顔を上げました。
 その表情は清楚で、清らかで、凛とした美しさがみなぎっていました。
 三上氏は妻の前にしゃがみこむと、妻がはいていた部屋履きを受け取りました。
 バスローブの裾からは、妻の真っ白い生足が伸びています。
 その素足はやわらかい絨毯を一歩一歩踏みしめ、妻はカメラの前に立ちました。

 三上氏が妻の髪などをなおすと、すぐに高島氏のカメラがシャッターを切りました。
さっきとはうって変わって、高島氏は無言のまま真剣なまなざしで妻にカメラのレンズを向けます。
 バシッ、バシッと大きなストロボの音がスタジオ中に響いていました。

 「それじゃ敦子さん、バスローブの帯をほどいて」
 高島氏の声は、この日一番低い声で響きました。
 高島氏が妻を見つめてうなずくと、妻もそれに応じてコクリとうなずきました。
 こわばった表情のまま、妻は震える手をバスローブの帯の結び目にもっていきましたが、なかなかそれをほどくことができませんでした。
 高島氏は静かに三上氏に目配せをすると、三上氏はそれにこたえ妻の前に行きました。
 「失礼します」
 三上氏の手が妻のバスローブの帯の結び目にかかります。
 「自分で脱ぎます」
 妻の前でひざまずく三上氏の手を制した妻が、はっきりと口にしました。
 「失礼しました」
 三上氏がそう言って静かに下がっていくと、スタジオにいた全ての人間が妻の次の行動に注視しました。
 妻の指先に力がこめられると、帯の結び目はやわらかくふくらみ、やがてタオル地がこすれる音がしたのち、結び目が解かれた帯は一本の紐となって妻の足元に落ちていきました。


 バスローブを締め付けていた帯がなくなると、その襟元は左右に開かれ妻の素肌の胸元があらわになりました。
 妻がいよいよ私たちの前で、その素肌を晒す時がきました。
 緩めた襟元から妻の細い肩がスタジオのライトに晒されるのと同時に、形のよいの乳房、そして黒々としたアンダーヘアーが現れ、バスローブは妻の背中をつたって足元に落とされました。

 スタジオ中の人の目がいっせいに妻の身体に視線を向ける中、私の妻、敦子は、ついに生まれたままの姿をその場に晒したのです。
 その白い肌は一点のしみも傷もありません。
 二つの丸みを帯びた乳房はまだ10代とも思える張りを残し、それぞれの中央には、控えめではあるけど、しっかりと主張をしているつぼみが突き出ていて、それはすべての男性のみならず、女性までもが性的な興奮を掻き立てるには充分に魅力的でした。
 細くくびれた腰には、必要な脂肪はきちんと残され、決して貧弱な印象などなく、女性らしい温かい丸みは損なわれてはいません。
 妻の控えめなおへその下には、少し濃い目に密集したの恥毛が、その境い目をはっきりさせて縦長に茂り、奥の秘部を隠して私たちを誘惑します。
 臀部から太ももにかけての曲線は、まさに女性の神秘、美しさの象徴です。
 頭の先から、足の先まで完璧とも言えるその肉体は、見る人の呼吸をも忘れさせてしまうものでした。

 妻の裸体に見とれた私たちは、その時間までもが止まったように感じていました。
 あの高島氏ですら、カメラのシャッターをきるのを、忘れて見とれてしまっていたのですから。
 「先生・・・」
 三上氏の言葉に自分を取り戻した高島氏は、再びプロのカメラマンに戻るとそのレンズを妻に向けました。
 「バシッ、バシッ・・・」

 先程までと同じ大きな音がスタジオに響いていたはずでしたが、私にはその場面は静寂で、物音一つも聞こえてきませんでした。
 ゆっくりと妻の顔がこちらに向いてきました。
 そして、その視線が私と合うと、妻は何かを語りかけるように、そのままの表情を変えず黙って私を見据えました。
 私も妻から視線をそらさず、黙ってうなずきました。
 『すごく綺麗だよ』
 私の心の中の言葉が妻に通じると、妻は再びレンズに視線を向け高島氏の言葉どおりに撮影を続けました。

 三脚を立てたままカメラの位置を少しずつ変え、高島氏は妻が行うさまざまなポーズを、そのレンズの中に収めていきました。
 カメラの位置を変えるたびに、三上氏は妻に近寄りスタイルを整えます。
 それほど乱れてもいないヘアースタイルにブラシを当てた後、そのまま妻のアンダーヘアーに手を伸ばしています。
 優しい手つきで素早くそれを整えると、ファインダーの視界から消えていきます。

 「あっ、あいつ・・・うらやましいなぁ・・・」
 「しっ、ちょっと、あんた、声出さないで!」
 時間が経過して、私の聴力も正常に戻ってきたようでした。
 その後、私と妻とが目を合わす事はありませんでした。
 私とだけではなく、おそらく妻は意識して、私たちに視線を向けなかったのでしょう。

 三上氏が持ってきたソファの上で、妻は膝をついて背中を向けています。
 高島氏の指示通り、髪の毛をかきあげる仕草のあと、顔をレンズに向けたまま臀部を突き出しました。
 妻の大切な部分が見えました。
 『敦子が感じている・・・』
 やはり妻も一人の女なのだと初めて実感しました。
 私たちの視線の中で裸の妻の身体は明らかに変化し、女となっていたのです。
 それ以上に私は興奮していました。

 約一時間に及んだ、妻の裸の写真撮影は終わりに近づいていました。
 「はい、じゃあこれで終了。お疲れ様でした」
 高島氏のその言葉で、ついに長い妻のヌード撮影は終わりました。

 三上氏が妻に近づき、バスローブをそっとその細い肩にかけました。
 妻はタオル地のその衣類で素肌を包むと、やっと顔を私に向けてくれました。
 私たちは自然と手を叩き、妻に近づいていきました。
 「敦子、すっごく綺麗だったよ」
 美佳さんの最初の言葉に私も無言でうなづくと、妻は笑顔のまま一筋の涙を流しました。
 バスローブに身を包んだその姿は、何者にもかなわないくらい美しいと感じました。
 この場で強く妻を抱きしめたい気持ちで一杯でした。
 「ご、ごめん、なんか、急に涙が出ちゃって」
 妻はバスローブの袖でその涙をぬぐうと、再び笑顔を私たちに顔を向けてくれました。

 「みなさん、今日はありがとうございました」
 撮影をしてくれた高島氏が、私たちに向かって礼を言ってくれました。
 「こちらこそありがとうございます。とてもいい記念になります」
 私は高島氏に素直に感謝の意を伝えました。
 妻から言い出した30歳の記念のヌード撮影。
 私は妻の純粋な思いをゆがめ、自己の性的妄想を募らせて今回の撮影を待ち続けましたが『芸術というのは、そんな不道徳な考えを一蹴してしまうものだ』と思い知らされました。
 私はなんて浅はかな人間なんだと、つくづく自分が小さな人間に見えてなりませんでした。
 宇宙の神秘に匹敵するような妻の芸術美を、目の当たりに出来た幸せだけで、私のつまらない欲求など、もうどうでも良いと考えていた時です。

 「終わったばかりだと言うのに、とてもこんな事を言うのは恐縮なのですが、少し私の話を聞いてもらえないでしょうか?」
 高島氏の顔が笑顔から真剣なまなざしに変わると、私たちは彼が何を言おうとしているのか、恐ろしくもなりながら聞かずにはいられませんでした。
 「私はまだまだ無名のカメラマンに過ぎません。いや、この先も無名のまま終わるしがない芸術家でしょう。しかし、敦子さんを初めてこの目で見たとき、私が追求する芸術を表現できる唯一の女性だと直感しました。そして、今日ファインダーごしに敦子さんを見て、その直感は確信に変わりました。こんなあつかましいお願いをする身分ではないことは、充分に理解しています。どうかみなさん無礼を許してください」
 高島氏は改まってそう言うと、私たちに頭を下げたのです。
 そして、再び頭を上げてから言った高島氏の言葉に、私は胸を打ち抜かれてしまいました。
 「敦子さんに今から、私の作品のモデルをお願いしたいのです」


 私たちは、高島氏の突然の申し出に、完全に言葉を失っていました。
 「・・・えっ・・・・な、なんて?」
 自身のヌード撮影の直後で正常な思考能力のない妻は、高島氏のその言葉をとっさに理解することは出来なかったのだと思います。
 バスローズだけを身につけ、毛の長い絨毯に腰を下ろし、半身を投げ出している妻は、私たちに顔を向け高島氏の言葉の意味を聞いてきました。
 しばらくの間、私たちは誰もが言葉を失っていました。
 高島氏の作品というのは、全裸の男女による性的な表現のポーズ。
 裸のまま男女がからみ合い、歓喜の表情をあげる女性の妖艶な姿とたくましい男性の勇姿。
 人間が神から与えられた最大のよろこびの姿を表現するものなのです。

 長い沈黙の間、その静寂を破ったのは妻の親友である美佳さんでした。
 「敦子・・・せっかくのチャンスだからやってみたら・・・」
 「う、うん・・・敦っちゃん、やろう!」
 「あんたは黙ってて!」
 私はまだ言葉を出す事が出来ませんでした。
 妻が私の目の前で他の男に抱かれる。
 私が妄想していたことが今現実に起ころうとしていました。
 私の心臓は今にも口の中から飛び出してきて、その拍動で床をはい回るのではないかと思ったくらいです。

 「ちょ、ちょっと待って、今はまだ何も考えられないの・・・・少し考えさせて・・・」
 少しずつ正気を取り戻してきている妻は、その状況を理解しつつあるようでした。
 あり得もしない高島氏の申し出を断る言葉が見つからない妻は、慌ててその場を取りつくろうために、だた考えさせてと言ったに過ぎませんでしたが、高島氏の情熱はそんな妻の思いを知る由もないのです。
 「どうかお考えにならないで下さい。頭で考えてはダメなのです。あなたのその身体、本能のままの女性の美、それが私の求めている究極の美しさなのです。私はそんなあなたを撮りたい。どうか何も考えず、今のあなたの魂を包み隠さず私にぶつけてきて欲しいのです」
 高島氏はそう言うと、やさしい視線を妻に向けました。

 妻はゆっくりと高島氏を見上げると、目を見開いたままその申し出に答えることが出来ませんでした。
 考えてはいけない。
 高島氏の求める芸術には、人間の思考などじゃまになるだけなのです。
 答えは早く出さなければいけないということでした。
 「わかりました。先生がそこまで思っていただいているのなら・・・」
 私は高島氏に返答ができずに固まっている妻に代わって、静かにそう言っていました。
 「あ、あなた・・・」
 妻はただ驚いた様子で、その美しい顔を私に向けました。
 「敦子、もう一つ今日の記念を残してもらおう。心の中から湧き出てくる、僕も見たことがない敦子の本当の姿を・・・」
 私はそう言って妻の手を握りました。
 「ありがとうございます。ご主人のご理解ある決断を、決して無駄にしない芸術作品を作ります」

 その場ではもう妻の意思などは関係ないようでした。
 そう、妻はもう考えてはいけないのです。
 私たちに生まれたままの姿を晒して感じた思いを、そのまま高島氏の前で見せればいいのです。
 すべて高島氏に任せれば、妻は女として、人間として、今まで一度も味わったことのない神から与えられたよろこびを感じられるはずなのです。

 「さあ、敦子さん。もう舞台の幕は上がっていますよ」
 いつの間にか上半身裸になっている三上氏は、その厚い胸板を妻に向けてしゃがみ込み、やさしく妻の肩を抱きました。
 思考能力を失った妻はその腕に引かれるように、ゆっくりと立ち上がりました。
 高島氏はいつの間にかフリーでカメラをかまえ、二人をファインダーの中に捕らえていました。
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2022/07/17 (Sun) 17:12:14


 私たち三人は、すでに撮影が始まったことを悟り、再びスタジオの隅にその身を隠しました。

 スタジオ中央で三上氏と妻は向かい合って立っています。
 三上氏の下半身はジーンズだけで、上半身は裸です。
 盛り上がった背筋と均整のとれた逆三角形の身体が、洋服を着ていた時のイメージとはまるで違って、男性の逞しさがはっきりと伺えます。
 妻はバスローズに袖を通していますが、帯は巻かれていません。
 その裾が広がらないように、胸元で襟を握り締めている姿が、妻の現在の心細さを物語っていました。

 三上氏は妻の細い肩に両手をかけました。
 『キシーン・キシーン・キシーン・・・』
 連射モードの高島氏のカメラが二人を捕らえ、高速で記録していきます。
 「今度は先生のカメラを意識しないで下さい・・・あたなのシャッターチャンスは僕が演出しますから・・・」
 三上氏はそう言うと肩にかけていた両手を、バスローブの襟を握り締めている妻の両手に添えました。
 力の抜けた妻は三上氏に抵抗すらできません。

 三上氏はあっさりと妻の手からバスローブの襟を奪うと、自分の目の前で大きくそれを広げ妻の身体からバスローブを剥がし取りました。
 私たちの見てる前で、妻は再び全裸を晒されたのです。
しかし、先ほどのヌード撮影の時の妻の身体とは明らかに違って見えました。
 まるで今から始まる性なる儀式を待ち望んでいるかのように、妻の身体は準備を始めているように感じました。

 『キシーン・キシーン・キシーン・・・』
 先ほどの撮影とは違い、高島氏は大きなストロボを使用せずにカメラのシャッターを切り続けます。
 三上氏は妻から取り去ったバスローブを手に取ると、それを丸めてスタジオの隅にあるバスケットに入れました。
 そして自らもジーンズも脱ぐと、その下に着けていた黒のビキニパンツまでもあっさり脱いだのでした。
 三上氏の下半身には、今まで見たことのないくらいに大きく、そして堅く怒張したペニスが天を突き刺すかのような勢いでそびえ立っていました。
 三上氏はそれを少しも隠さず、再び妻の前に立ちました。

 私たちが見守る中、ついに2人は生まれたままの姿で向かい合いました。
 私は息が詰まるおもいで、2人を見守るだけでした。
 女性としては背の高い方である妻ですが、三上氏と向かい合うと両者の背丈がとても良いバランスであることを改めて感じ、いっそう私の嫉妬心をかき立てました。

 三上氏と向かい合った妻は、自分の胸を隠すかのように両手を胸元でしっかり結んでいました。
 「さぁ、素直に感じてください・・・頭で考えてはいけません・・・」
 三上氏はそう言うと胸元で結んでいる妻の両手をその手でやさしく包み込みました。
 そのまま首を傾け、妻の首筋にそっと自分の唇をつけました。
 「んっ・・・」
 すぐさま妻は三上氏の行為に反応を見せました。
 高島氏はそんな2人をいろいろな角度でカメラに収めていきます。
 三上氏の動きはまるでスローモーションのようにゆっくりとしています。
 妻の耳たぶから肩にかけて何度も唇でかみます。
 その行為はあくまでも優しい動きです。
 そのたびに妻は目を閉じてかすかな吐息をもらしました。

 ほどなくすると、三上氏は大股を拡げて妻の背後に回りました。
 三上氏の片方の手は妻の結ばれた両手を握ったまま、もう片方の手を反対側から回して妻のもう一方の腕を取りました。
 三上氏の両手は背後から妻の両腕を握り、胸元で結んでいたその手はあっさり引き離されてしまいました。

 「いやっ・・・」
 私たちの目、さらに高島氏のカメラの前には、隠す物がなくなった妻の全身が飛び込んできました。
 妻の両乳房の中央にある小指大の乳首は、これまでにないくらい堅く尖っていて、輝いて見えます。
 三上氏の唇が再び妻の肩をついばみ始めると、1瞬入った力が、妻の身体から抜けていくのがよくわかりました。
 2人の手はしだいにその指をからめていたのです。
 大きく怒張した三上氏のペニスは、妻の背後でそのくびれた腰に触れているのではと気になりましたがこちらからはよく見えません。
 高島氏は左右に動きながら妻の前身を撮影していきます。
 三上氏は妻の両手を離さないまま、妻の首、肩、そして背中に唇を交わしていきます。
 もろく壊れてしまいそうな妻の白く細い肩に向かってついばむような口づけは『ちゅっ、ちゅっ』とかすかな音をたてては、カメラが発する連射のモータ音にかき消されて聞こえなくなっていきます。

 「・・・んっ・・・」
 妻の顔が歪んだように反応すると、高島氏のカメラがその表情をタイミング良くカメラに収めていきます。
 三上氏はその口での愛撫をとぎることなく、今度は妻の背中からその位置を少しずつ下の方に向かっていきます。
 妻は三上氏の唇から逃れるかのように、少しずつ、少しずつ、後ろに手を取られたまま前かがみの態勢になります。

 「敦子さん、顔をあげてごらん」
 三上氏は妻にそう言うと、ゆっくりとその顔を上げていきました。
 その表情はすでに私が1度も見たことがない、恍惚の表情をしていました。
 高島氏はその状況を逃すことなくカメラに収めます。
 「そう、素敵ですよ。あなたは今からもっと素敵になりますよ」
 三上氏はそう言うと、再び再び妻の背中に唇を這わせていきました。

 私の妻、敦子が見せるこの表情は、まだ序章に過ぎないのか。
 私はこれから妻がどんな風に変わってしまっていくのか、不安を感じずにはいられませんでしたが、それを見届けたい気持ちが、私の不安に打ち勝ってしまっていました。


 『キシーン。キシーン・キシーン・・・』
 高島氏はカメラの何度も角度を変え、妻の表情をレンズに収めていきます。
 先程までの撮影では『静』のカメラマンでしたが、今はその身体を年齢を感じさせないほどに、アグレッシブに動かす『動』のカメラマンになっていました。
 あの作品から出てくる迫力は、まさにこの動きから生み出されたものなのだと、改めて芸術家の底知れぬ欲求の奥深さに恐ろしさすら感じていました。
 まるで肉食動物のように、今そのレンズが狙っているのは、私の愛する妻なのですから。

 高島氏が二人の反対側に回り込むと、写真の背景を気にしてなのか、三上氏はゆっくりと背中をこちらに向けるように妻の向きを変えていきました。
 高島氏もその動きに合わせて移動します。
 ファインダーの背景から、不要な景色が取り除かれる位置になると、再びシャッター音が連射し始めます。
 三上氏のペニスは、今にも妻の秘部を捕えるかのように反り返っているのがよく見えました。
 妻の背中全体にあくまでもやさしく三上氏の唇は触れては離れ、触れては離れしていました。
 「・・・んっ・・・」
 時より聞こえてくる妻の声に、私はどうしようもないくらいの嫉妬と興奮を覚えますが、その場から動くことは出来ませんでした。
 私の隣りでは、同じように息を飲み、身動きできない美佳さん夫婦がいるはずでしたが、私はその二人の存在など全く視界に入る余地はありませんでした。

 長々と続いた背中への愛撫の後、三上氏は妻の両手を開放すると、今度は妻の腰に手を当てました。
 よく見ると、その手つきは触れるか触れないかのような位置で上下に動いています。
 そして、三上氏は妻の臀部に唇を這わせます。
 先ほどと同じように『ちゅっ、ちゅっ』と小さな音を立てて。
 妻は苦しそうな声を上げて顔を上げます。
 高島氏のカメラはそんな妻の表情を、その背中越しから収めていきます。
 私の位置からは、妻の臀部がよく見えます。
 それは三上氏につけられた唾液でキラキラと光っています。

 二人の角度がまたすこし変わります。
 三上氏は、妻の臀部に口づけを繰り返すと、今度をおもむろにその口から舌を伸ばしました。
 堅く尖ったその舌先が、妻の臀部の割れ目上部の先端を捕えると、舌先を伸ばしながらすーっと割れ目を下がっていきました。
 「・・・んっ・・・あっ・・・」
 三上氏の口は、妻の臀部の割れ目の最下部にきたところで大きく開かれ、そこから出ている舌をさらに伸ばして大きく広げると、軽い顎の動きと合わせて妻の臀部を舐め上げました。
 「あぁぁ・・・」
 妻は私たちにもはっきり聞こえるくらいの声を出していました。
 三上氏はゆっくりとその動作を何度も繰り返しながら、高島氏の位置に合わせて、再び妻の前面をこちらの方へ向かせていきます。

 私と妻の夫婦生活のでは1度もされたことのない三上氏の行為に、反応している妻の顔が見えてきました。
 「・・・んっ・・・んっ・・・はぁ・・・」
 私たちの夫婦生活の中では、いわゆるオーラルセックスなどは皆無でした。
 普段の生活でも異常なまでに潔癖な妻は、セックスでも排泄器官を舐めるなどという行為を受け入れることなど決してありませんでした。
 しかし、現在私の目の前では、先日知り合ったばかりの男性に、自らの肛門をいくどとなく舐め上げられて、妻は今まで味わったことのないその快感に酔いしれているのです。
 私はそんな妻の姿に、これまでにない激しい衝撃を受けていました。
 そんな私の衝撃を知っているのか、三上氏は妻の臀部を何度も何度も舐め上げています。
 高島氏が放つカメラの連射音のわずかな隙間から、三上氏の口から、湿った音が聞こえては消えていきます。

 三上氏が再び妻の後ろで立ち上がると、妻の肩を持ち、くるりと自分の方へ向けました。
 私の位置からは、三上氏の視線が妻の瞳にそそがれているのが手に取るようにわかります。
 妻も動こうとはしていません。
 妻の両肩に手をかけたまま、三上氏はゆっくりと目を閉じ、その首を傾けながら妻に近づいていきました。

 私はその態勢を見た瞬間に次に起る事を悟り、心臓が止まる思いがしました。
 そうです。
 三上氏はそのまま妻に口づけをしたのです。
 三上氏のその行為に妻の背筋が一瞬ビクンと反応しましたが、その表情はこちらからうかがい知ることができません。
 私の心臓は止まるどころか、規則的に激しい音で鼓動を繰り返していました。
 『ドキン・ドキン・ドキン・ドキン・・・』
 すべての時間が止まっているかのような静寂の中、私の心臓は激しい音を立てていたのです。

 「ルール違反だよ・・・」
 高島氏は持っていたカメラを下に下げて三上氏にそう言いました。
 「す、すみません・・・」
 高島氏の言葉で三上氏はすぐに妻の顔から離れました。
 一瞬、撮影は中断されました。
 妻の充血した背中ごしに、三上氏のこわばった表情が見え隠れしていました。


 「あと数枚満足できるカットを撮影できたら終わりにしますので、敦子さん、もう少しがんばってください」
 高島氏は、唇を奪われた妻を気遣うようにやさしい口調でそう言いました。

 しかし、そこにはその夫である私がすぐそばにいるのです。
 そんな私の気持ちなどはまるで無視しているかのようでした。
 『今あなたたちが好きなように撮影しているのは、俺の妻なんだぞ!』
 私はそんなやるせない気持ちで1杯になっていましたが、舞台では私の存在など何処にもありませせん。
 演者とカメラマン以外にこの場には誰もいないのです。
 私は自分の無力さを思い知るだけでした。
 しかし一方で私は、高島氏と三上氏の間で決められたルールとはいったい何なのか、考えていました。
 ただ欲情を追い続け、淫らな女性の姿だけを追及するだけに過ぎないと勘違いしていた私は、そこに秩序があることを初めて知りました。
 何が許されて、何が許されないのか?
 それがどんなルールなのかは私の知る由ではありませんですが、少なくとも妻への口づけはそのルールに入っていなかったと言う事を知り、私の気持ちは少し落ち着きを取り戻しました。

 なすがまま三上氏の行為を受け入れてしまっている妻は、もう抵抗することなど出来なくなっています。
 そのルールがなければ二人は行き着くところまで行ってしまう。
 その場で見ているものには明らかでした。
 私はそんな心細い担保を得た1方で、心の奥底に別の感情が沸いてくるのを必死で押さえ込もうとしていました。

 撮影が再開され、三上氏は妻の肩をやさしく抱きながら、目を閉じ顔を横にして妻の首元に口を這わしていました。
 しかし、その仕草は先ほどとは変わってどこかぎこちなく感じられました。
 高島氏のシャッター音が心なしか減ったようにも感じます。
 高島氏は私たちから見て2人が横に向かい合って並んで見えるような位置に変えました。
 妻の乳房の盛り上がりとその先端の突起がはっきりと分る立ち位置です。
 シャッター音がするのと同時に、三上氏が再び妻にかぶさり、その肩に口を這わせます。
 あくまでもやさしいその口技に、妻の身体に再びその血液が巡っていくのがわかりました。
 「・・・あっ・・・んっ・・・」
 妻は何故こんなに感じてしまっているのだろう?
 今まで私の前では一度も見せたことのない姿を、ここでは妻はさんざん私に見せ付けている。
 しかも私だけではなく、子供の頃からの友人である美佳さんや、その旦那さんの信吾さんの前で。

 三上氏の口が妻の素肌に接するのと同時に見せる妻の妖艶な反応。
 妻を知らない男性なら、その姿は性的魅力を掻き立てるには充分だが、今まで自分との性交渉の中で1度もそのような姿を見せたことのない今の妻に現実感を奪われ、疑問にすら思うようになっていました。
 『妻は演技している?』
 普段から控えめな妻が、こうして全裸をさらけ出し、夫の前で他の男の愛撫を受けている姿を見せるということは、妻にとって耐えがたい苦痛なはず。
 しかしこの現状から抜け出すには、少しでも早く撮影を終了させるしかないのです。
 妻はその為に、高島氏が納得できるカットを身を切る思いで演じているのでは。
 私はそう思うと、再び心が締め付けられるような切ない気持ちになりました。
 『悦びなんかじゃない、 敦子は必死に耐えているのでは?』

 高島氏がカメラのシャッターボタンから手を離すと、無言のままその手で妻の腹部を円を描くように三上氏に指示を与えました。
 三上氏はそれを見ると、妻の首筋に這わせていた口を徐々に下に下げていきました。
 妻の臀部を愛撫した時と同じように、三上氏の口から舌が伸びると、その尖った舌先を妻の素肌に接触させながら下へ移動させていきます。
 「・・・あっ・・・」
 妻が思わず声を上げます。
 三上氏の口は妻の二つの乳房の間を通り、さらにゆっくりと下へ向かっていきます。
 「・・・あっ・・・あっ・・・」
 肩を震わせながら妻はそんな三上氏の頭を見下ろし、時より顔を上げ、声を漏らしています。

 三上氏の尖った舌先が妻のへそに引っかかります。
 「・・・んっ・・・」
 三上氏は一旦その舌を自らの口の中にしまい込むと、口をつむんで唾液を飲み込み、再びその口を開きました。
 その舌先は妻の臍の下からさらに下がっていきます。
 「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」
 困惑するような妻の表情ですが、その姿は三上氏の次の行為を受け入れる覚悟が出来ているようにも見えます。
 その証拠に妻の身体は『ビクッ、ビクッ』と反応を示していました。
 三上氏の舌がさらに下がっていきました。

 私は完全に覚悟していました。
 三上氏の舌が妻の秘部に差し込まれることを。
 しかし、その舌の先端が妻の陰部を覆うヘアーの先端に差し掛かると、その方向を逆にして今度は上がっていったのです。
 妻は一瞬にして脱力し、肩の力が抜けていきます。
 しかし、三上氏の動きは止まることなく妻の身体を上がっていきました。
 時間をおかず、再び妻の身体に電流が流れ込んでいくようでした。
 「・・・んっ・・・はぁ・・・」

 三上氏の舌が妻の胸の間にさしかかると、三上氏は閉じていた瞳を開き、高島氏にその視線をむけました。
 その瞳はまるでしかられた親に許しを請う子供のように私には見えました。
 そしてまた瞳を閉じると、その位置を横にずらしたのです。
 形の崩れていない妻の左乳房の下に三上氏の舌が接すると、その頂点に向かって動き出しました。
 その日まだ三上氏に触れられていない妻のつぼみに向かって。
 三上氏が伸ばした舌が妻の乳首の下先に触れると、その突起物をいとおしむように口に含みました。
 「・・・あぁぁ・・・」
 その瞬間、妻の身体は痙攣するかのように反応し、その上半身を大きくのけぞりました。

 ひざまつくような体勢で妻の前でしゃがみ、妻と同じように無駄毛の1本もない三上氏の美しい太ももやふくらはぎの筋肉は力強く盛り上がり、精悍な顔にある瞳は閉じて、目の前にいる女性の乳房に口をつけています。
 その女性は均整のとれた身体を弓のように大きく後ろにそらし、その顔は天を仰いで恍惚の表情をうかべ小さく口を開いています。
 その二人の姿は、まさに天から与えられた最大の悦びをかみしめた、人間の聖なる美しさを表現しています。
 気がつくと、高島氏のシャッター音が今まで以上に大きく響いていました。
 三上氏の男性自身は、再び勢いを増し、徐々にその姿を現すと、先ほどよりも力強く生命力をたたえて、神様のいる天に向かってそびえ立っていきました。

 私はその2人の美しい姿を目に焼き付けると、自然と頭の中でモノクロ写真にして大きく引き伸ばしていました。


 天を仰いだ妻はそのまま力を失い、倒れ崩れていくのを三上氏が抱き寄せました。
 「大丈夫ですか?」
 充血した妻の頬に前髪がかかると、震える手で妻はそれをそっと掻き上げ、三上氏の言葉に無言のままうなずきました。
 しかし妻の身体はもう限界なのはよくわかりました。
 息が乱れ、大きく肩を揺らしています。
 足元はふらつき、三上氏に支えてもらわなければ、1人で立つ事も出来ないようでした。
 「モデルさんはかなり疲労している。最後のポーズでもう終わりにしよう」
 高島氏はファインダーから目を離すと三上氏にそう言いました。

 時間がどれほど経過したのか全くわかりませんでしたが、高島氏の言葉で撮影が最終段階を向かえていることが分りました。
 何より妻の身体はもう限界であることは見ている私たちにも良くわかり、もう充分だという思いで一杯でした。
 究極の芸術の追求のためとはいえ、素人である妻は本当によくやりました。
 私はあと少しで終わる撮影の後、妻をこの手で思いっきり抱きしめてあげるつもりでした。

 「は、はい・・・」
 三上氏は高島氏の言葉にそう答えると、妻の両肩を支えながら私たちにその筋肉質な背中を向けて再び妻と向き合いました。
 三上氏の背中はその汗でしっとりと湿っていて、男の目から見てもセクシーだと思えました。
 「・・・じゃあ、これで最後のポーズします。できるだけ良い表情をして下さい・・・」
 三上氏は静かに妻にそう言うと、妻はよろける身体を精一杯の力で支え、コクリと三上氏にうなずきました。

 高島氏のカメラの前に立つ二人は、まるで恋人のようです。
 私にとってそれは最も恐れていました。
 妻の心が三上氏に奪われてしまうことを。
 私の目には自然と涙がたまっていきました。
 三上氏は一歩足を進め、身体をさらに妻に近づけると、その腰を妻に密着させていきました。
 そう、あのパネルにあった写真の姿です。

 「・・・んっ・・・」
 妻は目をつむると、静かにのけぞるように反応しました。
 妻の両腕が三上氏の背中にまわされるの見ると、私はいたたまれない気持ちで一杯になっていきます。
 「・・・はぁ・・・あぁ・・・」
 三上氏の腰が微妙に動くたびに、妻の身体は明らかに今までとは違った反応を示します。
 密着された妻と三上氏の間には、大きく怒張した三上氏のペニスが挟まれているはずです。
 妻はその感触を自らの下腹部で感じているのです。

 高島氏は左右に大きく動きながら、二人を連射していきます。
 「・・・んっ・・・んっ・・・あっ・・・いっ・・・」
 妻の表情は今にも快楽の頂点を極めるかのようでした。
 激しいシャッター音が響き、これが高島氏が求めていた究極の芸術なのか?
 私の頭は混乱しなが必死で考えていました。
 妻がまさに女として初めて経験する快楽の頂点を、まるで高島氏のカメラは待ち受けているかのように思えてきました。

 三上氏の腰が一度妻から離れました。
 一瞬、妻の腰がそれを追いかけるように見え、私の心を激しく揺さぶりました。
 そして三上氏は、右手で妻の左太ももを抱えるようにして軽く持ち上げると、再び自分の腰を妻の腰に密着させていきました。
 「んっ・・・」
 妻の表情が今までとはまるで違う反応を見せました。
 「あっ・・・いっ・・・」
 妻が言葉ともならない声を上げていました。
 三上氏の腰はゆっくりと、その逞しい臀部の筋肉を収縮させながら妻の身体にぶるけるように動いています。
 三上氏に抱えられた妻の左足はだらりと下がり、まるで三上氏の身体を自ら抱え込むようにも見えました。

 「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
 妻はその動きと同じリズムで苦しそうな息をあげますが、その表情は恍惚としていて、まさに神から授かった悦びをあじわっているかのようでした。
 その時妻の視線が私を捕らえました。
 私は固まったまま妻に言葉をかけてあげることができませんでした。
 その時妻は私に何を語りかけようとしていたのか、私には分らなかったのです。
 「うんっ・・・」
 三上氏の力んだ声も、妻の声と調律が合わされていました。
 「あぁ・・・あぁ・・・あぁ・・・んっ・・・あぁぁ・・・」
 必死に耐えている妻でしたが、いつしかはっきりと声を漏らすようになり、その綺麗な表情が乱れていきます。
 「・・・だ、だめっ・・・あっ・・・んーーーっ・・・」
 ひとしきり大きな声を上げると、妻はガクッと自分を支える力を失いそのまま三上氏にもたれ掛かっていきました。

 そうです。
 この時妻は生まれて初めて絶頂を感じたのでした。
 『妻が逝ってしまった・・・擬似セックスで・・・』
 突然妻に体重を預けられ、三上氏は一瞬よろけましたが、体勢を立て直すと妻を抱えながらゆっくりとしゃがみ、妻を絨毯の上に寝かせます。
 三上氏の腰は妻と密着したままでした。
 体勢が変わったことで、その部分が私たちにもはっきり見えてきました。
 『三上氏のペニスがないっ!』
 密着した二人の間に、三上氏のペニスが見えていません。
 私の動揺は言葉にならないほどです。

 三上氏は両手を絨毯につけて自分の身体を支えると、その下にはぐったりと生気を失った妻が大きく足を開かされて寝かされています。
 そして三上氏は、開かれた妻の両足の間にある自分の腰を、もう一度ゆっくり突き上げると、妻は重く苦しそうなうめき声を上げました。
 三上氏は上体を上げながら、ゆっくりとその腰を妻から離していきました。

 すると妻と三上氏の身体の間から、妻の愛液で輝いている三上氏の充血した肉棒が徐々に姿を現しました。
 『な、なにっ!!!!』
 私はそれを見た時、私はその日一番の衝撃を受けました。
 頭が真っ白になる。
 目の前が真っ暗になる。
 そんな言葉では言い表すことができません。
 私は目の当たりにした現実を直視したまま、自分の身体を何一つ動かすことが出来なかったのです。
 同時に「ひゃっ」っと声を上げた美佳さんは、その大きく開いた口を手でふさいでいました。
 すぐ横に立っている高島氏は、構えていたカメラをだらりと下げて二人を見つめています。

 三上氏ペニスの先端が妻の身体からゆっくり引き抜かれると、妻の愛液で糸を引きながら、ペニスは大きく飛び跳ねるように上を向きました。
 「せ、先生・・・すみません・・・」
 三上氏は小さな声でそう言うと、すぐさまバスケットに脱ぎ捨てた自分の衣類を丸めて抱え、背中を小さく丸めながらその場を去っていきました。
 その姿は先ほどの勇姿とはまるで別人のようでした。

 スタジオの中央に取り残された全裸の妻はぐったりと横たわっていました。
 誰もがそれを眺めたまま凍りついていました。
 そう、高島氏までも。
 妻は顔を向こうに向けて、肩を揺らしながら泣いています。
 この時、何故私はいち早く妻にかけ寄り、抱きしめてあげられなかったのかと、今でも後悔しています。
 しかしその時の私は、目の前で他人の肉棒を挿入されて絶頂に達してしまった妻の姿を目の当たりにして、自分の身体がバラバラに砕けるような衝撃で身動きが出来なかったのです。


 あれから高島氏は毎日のように謝罪をしに私たちのところにやってきました。
 当事者である三上氏に代わって。
 しかし、妻は決して話を聞こうとはしませんでした。
 あの時ことを自分の記憶から、今すぐにでも抹殺しようと苦しんでいました。
 警察に届けるとか、裁判を起こすということは、妻にとっても耐えがたい苦痛を引きずる事になり、私も妻も望んでいませんでした。

 高島氏は最初、慰謝料という名目ではなく、報酬という名目で多額の金額を私たちに支払うと言ってきましたが、妻は私に決してそれを受け取ろうとはしませんでした。
 おそらくそれを受け取れば、妻はお金で身体を買われたということを認めてしまうからです。
 妻はあの日に撮影した全ての映像を抹消することだけを高島氏に強く要求しました。
 そう、妻の30歳の記念の写真までも全てです。

 高島氏は来るたびに、申し訳ないと頭を下げ、肩を落としたまま帰っていきました。
 そんなある日、高島氏は平日の昼間に正装して私の仕事場を訪ねてきました。
 私は、昼休みの時間に高島氏と会うことにしました。
 待ち合わせた喫茶店で高島氏は額に汗をにじませながら、今回の経緯を私に説明しだしました。

 高島氏はあの日、語った通り、妻を初めて見た時に自分の芸術を完成させることの出来る女性だと直感したようでした。
 その想いは三上氏も同じで、妄想のまま次回作の構想を二人で話したりしたそうです。
 次第に高島氏の想いは強くなっていき、同時に現実を考えてその妄想を頭から打ち消そうとしたそうです。
 三上氏はそんな高島氏に、ダメでもともとだからと、妻に打ち明けてみてはと説得してきたそうです。
 高島氏は何度もそれを打ち明けようと撮影まで眠れない日々が続いていて、苦しんだそうです。
 三上氏はそんな高島氏の姿をみて、とても心配してくれたのです。
 意を決して何度か妻に電話をしたそうですが、結局素人の人妻にそんなことを言い出せることが出来ず、打ち合わせの時に言い忘れていた簡単な撮影の話などをして電話を切ってしまっていたようです。

 とうとう言い出せないまま撮影の当日を向かえ、高島氏は妻の30歳の記念撮影を始めました。
 しかし、妻の裸を目の当たりにして、自分の心から沸いてくる創作意欲を抑えることが出来なくなっていったようです。
 私が言ってしまった軽率な言葉で、高島氏と三上氏は自然と行動に移し、撮影は始まりました。
 撮影の冒頭から三上氏の様子が違っていた事を高島氏は分っていたようです。
 しかし妻を撮影できる喜びから、それを咎めることができなかったと言いました。
 だから今回のすべての責任は自分にあるのだと言って三上氏をかばっていました。
 三上氏はもうじき結婚するフィアンセもいて、仕事では常に冷静で高島氏の指示に従ってくれていたので、その時少し暴走気味でも、決して過ちを犯す人間ではないと信用していたようでした。

 私はただ黙って高島氏の話を聞きました。
 「慰謝料として受け取ってください」
 高島氏はそう言うと、内ポケットから300万の小切手を私の前に差し出しました。
 私は、妻の意思を尊重して、決してそれを受け取ることはしませんでした。
 「写真はもう全部なくしてしまったんですか?」
 私は高島氏に尋ねました。
 妻は高島氏に撮影した写真を全て抹消することだけを要求し、高島氏もそれを承諾していたので、本当に抹消してしまったのか確認したかったのです。
 「い、いえ・・・でも、必ずすべて抹消します・・・」
 高島氏はそう答えました。
 「よかった。ならば最後に僕の願いを聞いてもらえないですか?」
 突然の私の言葉に高島氏は驚いたように顔を上げました。
 「妻の写真集を作って欲しいのです」
 私はきっぱりと高島氏にそう言いました。
 「で、でも・・・奥様が・・・」
 高島氏は私の言葉に困惑してそう口にしました。
 「もちろん妻には内緒です。でも、私たちがこの先何十年かして、お互いが老人になった時、妻の傷が癒されていたなら、その写真集を二人で見てみたいのです。あの美しかった妻の写真を・・・」
 私がそう言うと、高島氏は人目もはばからずその場で涙を流しました。
 喫茶店を出る時に高島氏は私に尋ねてきました。
 「あなたは何故そんなにやさしいのですか?」
 「それは・・・私はこの世で一番妻を愛している人間ですから・・・」
 私は高島氏にそう答えました。

 数日後、休日に私はあの写真館で妻の写真集の製作に携わりました。
もちろん妻には言っていません。
 写真館の正面には張り紙がしてありました。
 「都合により営業を休みます」
 薄汚れたその張り紙から、高島氏はあれから店を閉めていた事をはじめて知りました。
 写真館の中に入ると、高島氏が一人で仕事をしています。
 パソコンの画像には妻の姿が映っていました。
 無数の写真の中から1点、1点私の納得する写真を選び、時間をかけ私は写真集の構成まで行いました。
 深夜にまで及んだその作業の中で、私と高島氏の間には太い絆のような物が生まれていったのです。

 1週間後、高島氏は再び私の職場に姿をみせました。
 手には大きな妻の写真集があります。
 私は出来上がったその写真集にとても満足し、高島氏と堅い握手をかわしました。
 「ありがとうございます」
 私が高島氏にそう言うと、彼は私に持っていたカバンを渡しました。
 その中には、フィルムのネガやデジタルデータを収めたチップが数枚、打ち合わせの時の資料、さらには妻があの時着ていたバスローブまでもが入っていました。
 そして、内容証明書が添えられていて、あの時記録した物がすべてその中にあり、複写物などは一切存在しないという内容が高島氏の直筆で書かれていました。
 高島氏の表情から、そのことに疑いの余地がないことを悟り、私はそれを受け取りました。

 別れ際、私は高島氏に向かって言いました。
 「高島さん、写真・・・続けてくださいね」
 「ありがとうございます・・・」
 高島氏は、その場を去っていく私に、いつまでも頭を下げていました。

 出来上がった妻の写真集。
 30歳の妻の恥じらいととまどいをたたえた表情。
 30年間生きてきた女性としての誇りをもった表情。
 子供の頃から変わっていないと思われる無邪気な笑顔。
 人生を経験してきた妖艶な女の輝き。
 妻の30歳の記念の写真集は、そのカットのすべてがこの上なく美しい裸体です。
 そしてその最後のページは、妻がバスローブを脱ぎ捨てる瞬間の写真です。
 そして、こう記していました。
 「敦子、誠の永遠の愛はここから始まる・・・」
 モノクロのその写真は、男性の手によってやさしく脱がされる妻の姿でした。


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