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妻とのダイアログ

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2022/06/01 (Wed) 15:56:09

①出会い
 私が就職して5年目に、ヨーロッパのある支店に赴任することになりました。
 両親はこれを機に身を固めさせたい意向が強く、知人の最上氏を介して現在の妻とお見合いをしました。
 彼女は私の赴任地に本部のあるミッション系某女子大の4年生で、まだ学業を6ヶ月も残しています。
 彼女の実家の在る某地方都市のホテルのティールームで、双方の両親と最上氏夫妻を交え、本人とはじめて顔を合わせました。
 オリーブグリーン色の薄手のスーツを身につけた彼女は、態度が非常に落ち着いており、女子大生というより良家の初々しい若妻の風情であった。
 しばしの語らいのあと、2人は最上氏の手配してくれた車でドライブに出掛けますが、シフトチェンジをするたびに、タイトスカートから露出している彼女の膝頭に目が行きます。
 そんな気配を感じたのかどうかは分かりませんが、彼女は時折スカートの裾に手をやり、居ずまいを正します。
 俯き加減になったうりざね顔の額から髪のはえぎわ、目鼻立ちと申し分のない美形です。
 私は『どんな男が彼女と結婚するのかなー』とまるで人ごとのように羨望の念で思いました。
 途中、道を間違え田舎道を切り返しでUターンをするさい、誤って左後車輪を側溝に落とすというハプニングもありましたが、ほぼ予定通りに目的地に到着しました。
 昼食をとってから釣堀でニジマス釣りをしましたが、ほどなく彼女の竿に大物が掛かり、縦横無尽に水中を走りまわり、隣にいる私の釣り糸にも絡みます。
 彼女は両手を前に突き出しカラダをくの字にして、手首から先が竿の動きにつれて左右に揺れます。
 「アラ、ダメヨー。・・・助けて、ね、お願い」と初めて女子大生の顔をのぞかせ、私のほうを見ますが、私は張りつめた彼女のヒップラインにみとれていました。
 「奥さん!カラダを真っ直ぐにして、そのまま腕を挙げて」と遠くから管理人のおじさんの大きな声がします。
 周りの視線を1身に集めた彼女は恥ずかしそうに「ハァーイ」とこたえますが、首筋から耳たぶがほんのり桜色に染まります。
 「もっと挙げて」と管理人は網をもって彼女のそばに来ると、簡単に30センチくらいのニジマスを取り込みます。
 そして針を外しながら「奥さん、これくらいなら、塩焼きよりフライにすると旨いよ。フライにするならさばいてあげるけど、どうする?」と彼女に問いかけます。
 彼女は当惑しながら私のほうを見るので、目線で頷くと「じゃー、お願いしょうかしら」と落ち着いた声でこたえます。
 この『奥さん』誤称事件を契機に初対面という垣根は自然となくなり、帰りの車中では女子大生の乗りで、いろいろ話かけてきます。
 「山本さん、あちらにはどのくらいおいでになるの?」
 「4,5年らしいけど。・・・2年で戻った先輩もいたし」
 「フランス語、お出来になるのでしょ?」と顔をのぞきこむようにしてきくので、まったく出来ない旨を伝えます。
 「わたし、高校のときから必修でしたの」とからかうようないたずら顔で私を見ます。
 「1緒に来てくれると助かるね。でもこればっかりは神のみぞ知るですね」と私は自分の気持ちをやんわり伝えますが、彼女は前を向いたまま何も答えません。
 その後、彼女の提案で駅前の喫茶店に入ります。
 マスターと顔馴染みらしく、挨拶を交わすと、店内の2、3人の客にも目礼を送ります。
 彼女の学生生活など、とりとめのない話を30分くらいして店を出ますが、通い慣れた喫茶店に私を案内したことで、先ほどの婉曲なプロポーズに『彼女なりの意思表示をしているのかな』と思うと、自分のカラダが自分でないような不思議な感覚に襲われました。

②妻とのダイアログ
 結婚10年目に妻が子供のピアノの先生(某大学の講師48歳)に言い寄られる事件が起こりました。
 発表会の打ち合わせということで1人で自宅を訪ねると、奥さんが不在の様子なのでいやな予感がしたそうです。
 以前、先生のリサイタルのとき受付を任され、その打ち上会で「ありがとう」と必要以上に手を握られたことがあったようです。
 楽譜を渡し、妻にひと通り弾かせると、今度は1小節ごとに曲想をどう表現するか文字通り手を取るように、彼女がスキンシップをどこまで許すかを、瀬踏みするような感じで指導したそうです。
 スコアーと演奏テープを応接セットのテーブルに置くと、回り込むようにして妻の隣に座り、楽譜を目で追い、注意事項を説明しながら書き込みをします。
 「3週間、お子さんを指導したらよこしてください。様子をみますから。発表会には中田教授も見えますから、紹介します」とテープとスコアーを妻に手渡します。
 妻が礼を言いながら、それをバックに入れようとしていると「ところで奥さん『色白は7難を隠す』という意味を知っていますか?」と唐突に言い出します。
 妻が「何でしょうか?」といぶかしげに聞くと「それはね、こういうことですよ」といきなり強引に抱き寄せられ、キスをされそうになったそうです。
 「もういやだわ、つぎは何をされるか怖いわ」
 「音楽家はそういうシチュエーションを芸術的発露のエネルギー源にしている人も多いよ。挨拶がわりだよ」
 「今度も受付を頼まれたのよ。『来年は親子で連弾に挑戦しましょう』ですって。私は先生のお弟子でもないのにね。失礼しちゃうわ」言いながらも満更でもない様子。
 「状況によっては相手の意に沿ってあげたら」と軽く言うと「あなた本気で云ってるの!」と少し気色ばります。
 「もちろん。今日みたいに詳細に事後の報告をしてもらう、という条件付だがね」と動揺を悟られないように、落ち着いて答えます。
 「あなたは、女がどういうものか分っていないのよ。もしその人を本気で好きになったら、あなたどうするの。家庭崩壊ですよ。私は自分の性格が分かっているから怖いの。男の人に興味がないという訳ではないのよ。向こうにいる時だって・・・」
 「暢子が受験のとき、教授になっているかもしれないし。この世界コネだとか後ろ楯はあったほうがいいからね」と私は言います。
 「どんな宗教でも、姦淫を戒めのひとつとしているでしょう。人間の長い営みのなかでつちかわれた真実なのよ」
 「ひとに迷惑を掛けない範囲なら『夫婦生活にタブーはない』ということも普遍的な認識になっているね。夫が認めても姦淫になるのかなー」と私は切り返し「戒律を破るという禁断の木の実の甘さを知っているのも人間だけだし・・・」と付け加えます。
 「とにかく、私はそういうこと否定する環境で育ったのよ。結婚前は、何人かの男性とお付き合いはしましたけど、カラダを求められても許さなかったの。どうしてかわかります?」と私をのぞきこむようにいいます。
 「子供の頃からオバーチャンに『女のカラダは大事な嫁入り道具だから、お医者さん以外の他人には触らせちゃだめよ』といわれて育ったの」
 「君が処女であったことは神に感謝している。結婚以来、真白いキャンバスを自分の色で精1杯染め上げることが出来たからね。しかし、その絵を見てみると清楚で整った感じだが、何かが足らないような気がしてならない。筆のタッチか、色使いか。もう自分の能力を超えているよ。他の人に、もっとメリハリの利いた筆つかいで加筆修正してもらえれば、もっとすばらしい絵になるのにというのが僕の心境だよ」
 「あら、ものは言い様ね。その白いキャンバスさんが『清楚のままにしておいて』といっているのよ、あなた」といっこうにかみ合いません。
 このようなやり取りを繰り返しながら3年が経過します。

 昨年、取引先の大手上場会社の部長を接待した帰りの車中で、部長が「ところで奥さん元気。いつだったかなー、君に奥さんのおのろけ話を随分聞かされたなー。写真まで持ち出して」と思い起こすように言い「ああいうときは、冗談でも『宜しかったらお味見をどうぞ』というのが気配りだよ君。お土産あっての土産話だよ」と2本目のウヰスキーのミニボトルを開けながら云います。
 「それはどうも至りませんで。来月で35歳になる妻ですが、よろしければいかようにとも」と応じます。
 部長は瞑目しながら2度、3度頷きながら「ちょっと酔っているけど、まじめな話だから良く聞いて」と私の耳元に口先をもってきて「1度でいいから奥さんとやらして」と囁きます。
 「もちろん奥さんの意向もあるから。・・・魚心あれば水心だよ。この線で奥さん説得してみてよ。美人妻を持つと気骨がおれるね」と私の心中を見透かすように言います。
 このイキサツを妻に話すと「あなたが持ち掛けたのではないのでしょうね?」と言い、それを否定すると、ほっとした面持ちになります。
 「響子、今までのことは置いといて頼むよ。相手は三井社の重役候補の部長だよ。紳士だよ。大学時代はラクビーの花形選手だよ。2人目の男として君にふさわしいよ」
 「紳士が何故そんな要求をするの。だいたいあなたが軽率なのよ写真を見せるなんて」
 「軽率だったことは謝る。とにかく、相手が君の事を見染めてしまたんだからね。1度でいいから。仕事の上でプラスになることは君にとってもプラスになることだから」と両手をついてアタマを下げます。
 しばらくの沈黙があって「あなた、本当に1度だけですからね。あなたの趣味にお付き合いするのは」と意を決した表情で言います。
 「絶対に約束する。部長だって健全な家庭人だし、後腐れはないよ」といいながら妻の手を取ろうとすると、それを遮るようにして「あなた、今日から私が部長さんの1夜妻として抱かれるまでは指1本触れないでください。これは女としての私のケジメですから。部長さんにあなたの誠意を汲みとっていただくためにもね」と私を諭します。
 2人は別室で寝起きして3週間の禁欲生活をすることになります。
 この間、私は妄想に悩まされ寝不足気味で体調不良になりますが、妻の方はいつもより生き生きして見えるので「ホルモンの分泌がいいみたいだね。髪の艶もいいし、化粧の乗りもいい。毎晩、部長に抱かれるイメージトレーニングでもしているの?」と揶揄すると、図星を指されたのか「あなたのためにね」と顔を赤らめます。
 「入浴のときお塩で全身を磨き込んでいるのよ。足の裏や膝の角質もとれてすべすべよ。カラダが引締まっていくのが分かるの」と嬉しそうに話します。
 毎日サウナに通い、肉と魚を断ってパンと野菜と果物を主食に4キロの減量を果たします。
 「やっと元のカラダにもどれたわ。ねー、あなた、今日サウナにいったら私のカラダ、オレンジの香りがするのよ。明日大丈夫かなー」と心配そうに言います。
 「心配ないよ。部長にそれとなく話しておくから。あそこも同じ匂いがするのかなー」
 「いやーねー、あなたたら!」と私に流し目を送ります。
 「ところで顔を見たこともない男に嫁ぐ心境はどう?男と女の間には禁じ手はないからね。大人の世界だからね。男の下半身には人格はないから。ピアノの先生を見ればわかるでしょ」と妻に言い聞かせます。
 「心配だわー。ちゃんとお給仕できるかしら」
 「心配ないよ。君のほうから動くことはないからね。初夜の花嫁でいいから。部長のリードに身を任せて。夫婦の間では当たり前の行為も、初対面の男にとするときは恥ずかしいのが普通だからね。戸惑いとか、恥じらいとか、君のありのままを出せばいよ。行為の最中は『夫のために戒律を破っているのだ』という意識を頭の片隅に持つと、情感が高まるよ。甘さをより引き出す為に塩を加える感じ」
 「いやだわー、そんなこと」
 「経験したことのないような行為を要求された場合は『許して』とか『堪忍して』とかやんわり甘えるように断ってね。そうすれば流れが止まらないし、部長も次の手がうてるから。男は君が思っている以上にナイーブだからね」
 「例えばどんなこと?」
 「小道具を使うとか、アナルをもとめるとか。そんな性癖はないとおもうけど、『下半身に人格なし』だからね」
 「いやーよー、そんなこと。あなた立ち会ってくださいね」と本当に不安げな顔で言うので  「君さえ良ければ、願ったり叶ったりだね」と本音を言います。
 「私、本当にあなたの為にするのですからね」とすがりつくような目で念をおします。
 「お嬢さん育ちの君に辛い思いをさせて『すまない』と思っている。神様はすべてご存知だからね。僕の責任だから」
 こんな会話をした翌日、その日を迎えました。

 妻が部長の枕席に侍り、夜伽(1夜妻)をする様子は『③案ずるよりも産むが易し』に記載します。

③案ずるよりも産むが易し
 結婚して13年目の39才と35才の夫婦です。
 夫婦生活は円満で順調にいっていますが、妻は私以外に男性経験がありません。
 妻の32才の誕生日記念に私のほうから3P・SW等の世界を紹介し、以来3年がかりで説得していましたが、なかなか了承が得れずにいました。
 過日、彼女に内緒でネットの掲示板に投稿したところ、多くの方から熱心なオファーをいただきましたが、いっこうに関心を示しません。
 ところが先日、取引先の大手上場会社の部長を接待した帰りの車中で「商談がまとまったら、妻と1度だけでいいからデートさせろ」と耳元で冗談めかして要求されました。
 アルコールが入っているといえ、冗談でいえることではないことは私にも分かりました。
 妻と部長の接点はいままでなく、私が何年かまえゴルフの帰りに、車の中で家族の写真を見せたことがあるくらいです。
 この契約が取れれば、30代で部長昇進も夢ではありません。
 早速、妻にこの経緯を話すと、以外にも渋々ではありますが、若干の条件を出して私の提案を受入れてくれました。
 当日は品川のパシフィックホテルで部長と待ち合わせ、妻を紹介し、ラウンジで軽く1杯やってから、2人を部屋まで案内しました。
 1泊5万円の部屋は彼女には内緒ですが、私がアレンジしたものです。
 当初は私を含めた3Pが妻の条件でしたが、彼女がシャワー使っているあいだに、部長から「部屋の鍵は開けて置くから、15分くらいかけてタバコでも買いに行ってくれ」と頼まれそれに従いました。
 この15分がどれほど長く感じられたことか。
 部屋の前に立ちドアーを少し開けると、衣擦れの音と妻のすすり泣くような声が部屋の中から漏れてきます。
 私は、1瞬、脳天がしびれて、その場に立ちつくしましたが、すぐ我に返り、辺りに人の気配のないことを確認してから、2人に気づかれないように忍び込むように部屋の中に入りました。
 壁際から覗いてみますと、フローアーランプの明かりの中、そこはもう彼女と部長の世界がダブルベット1杯にくりひろげられていました。
 妻が上になっての69の最中でした。
 下から攻められながら、部長のものを含み、嗚咽の声もくぐもって聞こえます。
 時には感極まって、くわえたものを離し「あー、あー」と喘ぎ声を発し、また気を取り直しては含みます。
 もう、私の入っていくタイミングも余地もありません。
 しかたがないので、デスクの椅子に座って妻と部長のやり取りを耳で聴いていました。
 『覗きだとか盗聴もなかなか趣があるなー』と感心しつつも、15分であそこまで登り詰めた妻も妻だが、その気にさせた部長も噂に違わぬ『凄腕だなー』と妙なところに感心したりしました。
 数分して、妻が「許してー、許してー」と彼女独自の慣用句を発しているのが聞こえてきます。
 それに呼応して部長が「ペニスを入れてほしい」と妻に確認します。
 コンドームの袋を破る音がして、しばらくしてから、部長の「入っているー、ねー入っているー」と妻に確認させる猫なで声がします。
 そういえば部長は「太鼓腹のため、普通の体勢では深い挿入感が得られない」とのうちあけ話しを思い出したりしました。
 どんな様子かなと覗いて見ますと、妻は両脚を部長の両肩に担がれ、大腿部が自分の胸に接するくらいの海老固めに近い、屈曲した姿勢をとらされていました。
 私との間では深く入りすぎて痛いからと、なかなか許さない体位です。
 しかも、両腕を部長の首に回し部長と見つめあってる妻、ゆっくりした律動に同期する妻の表情、私は今まで自分が引き出せなった彼女の情感たっぷりの身のこなしや表情、声に感動しながら、指定席へ戻った。
 よく女性を楽器にたとえた話がありますが、奏者によってこれほど音色に変化がでるとは、部長には少なからず嫉妬を感じたことはいうまでもありません。
 ベットの軋むリズムと妻の弾む声、肉体のぶつかる音から、同じ体勢が続いていることがわかります。
 そのうち部長も妻の反応に自信を持ったのか、彼女に猥褻な言葉を言わそうと努め、機嫌を損ねないよう精1杯それに答える妻。
 妻の口から出たその言葉にさらに刺激される2人。
 私も聞いた事もない男女のやり取りに、部長のしたたかな計算と経験を感知して、言葉の世界がこれほど刺激的だとは想像の域を超えていました。
 部長は『私が気を利かして部屋に戻っていない』と思ってか、喘ぐ妻に今度は2人きりで会おうと盛んに誘います。
 「堪忍して」と哀願する妻がいじらしい。
 腰を使いながら今度は「お父さんよりいい」て言ってと要求する部長。
 ふるえる声で「お父さんよりいいわー」と応じる妻。
 部長の1物の抜き差しに、妻の体液がピチャピチャと反応している音が悩ましい。
 その後、頂点に登り詰めた妻の「部長さん許してー、許して」の声に、部長は「行っちゃう、行っちゃう」を連呼して果てた模様。
 私はそっと部屋を出て10分後に部屋に戻ったが、こんどは妻が仰向けになった部長の脇に左肘をついて横たわり、ディープキッスを与えながら萎えた部長のペニスを右手でゆっくり包み込むように愛撫していました。
 ときには頭を起こし、部長の1物に視線を送ります。
 そのたびにセミロングの彼女の髪が部長の胸元を走り、そしてまたキッスに戻ります。
 しばらくして、部長がやや堅さを取り戻すと、迷うことなく右手でペニスを支えながらフェラチオに移行しました。
 妻のすぼめた口元がゆっくりと上下に動くたびに、つくり出される頬の陰影が何となくエロチックであった。
 ややして部長も完全復活したのか、彼女の上下運動も大きくなり、添えていた右手を股間に移動し、左手は部長に両手でつかまれていました。
 動きにつれて揺れる妻の髪が、フロアーランプの灯りでベット際の壁に映っているのが、アイスキャンデーを子供がしゃぶっているような音とあいっまって、印象的であった。
 彼女が攻守ところを変えたように積極的になったのは、夫の要請とはいえセカンドバージンを男に与えたのか奪われたのかはともかく、1線を越えたという開き直りか自信みたいなものを掴んだのだと思います。
 頭を少しあげて、妻の口元を覗く部長に、その気配を察した彼女が目を開き「見ないでください」というサインを目線と左手で出すが「奥さん綺麗ですよ。みとれています」と意にかいしません。
 そして彼女の左手をたぐり寄せるようにして半身を起こすと、右手で髪をつかみ妻のフェラチオのリズムをコントロールしながら、左手で彼女の髪を掻きあげ顔を覗きこみます。
 そのとき壁際から半身なって覗いている私と、部長の視線が合いました。
 私が見ていることに気が付いた部長は、私に何のサインも送ることなく、自分は元の位置に戻ると顔の上をまたぐように妻に要請します。
 「恥ずかしいわー」と甘えるようにいいながらもそれに従う妻。
 前回と同じ69体勢ですが、今度は妻の表情が斜め前から観察できる位置です。
 気づかれないように身を隠すと、前と同じ経過をたどりながらコンドームを装着して挿入となりました。
 妻の両脚を双肩に抱えての部長得意の体勢です。
 「奥さん綺麗ですよー。奥さん本当に綺麗ですよー」とのささやきに「いいわー。いいわー」とうわごとのように応じる妻。
 部長は私に2人の結合部分がよく見えるようにと、両脚を肩に担いだまま、両手を妻の肩にかけ体の位置をベットの斜め中央に移動しました。
 小刻みな出し入れに素直に反応する妻の表情を確かめながら、部長は私にそばにくるようにと手で合図を送ってきますので、靴を脱いで、4つん這いになりながらベッドサイドまでたどりつきました。
 部長の律動に合わせ花弁が開き、はざまから愛液がキラキラ光りながら流れ出ているのを目にしました。
 私がそばにきたのを確認した部長はいっそう抽送を強めると、妻は「許してー、許してー」と哀願するように声を震わしました。
 担がれた両足の親指ば中に反り返り、両手は万歳の形で投げ出したまま、相当登り詰めた様子でした。
 部長は妻の反応をみながら「お父さんに来てもらう?」と彼女に聞きながら、携帯に手を伸ばそうとします。
 妻は1瞬我に返り、その手を押さえて「堪忍して」と首を振って訴えます。
 ゆっくり腰を使いながら「本当に私1人でいいんですね」と念を押す部長に、うなずく妻。
 「本当に奥さんを愛しちゃいますよ。いいんですね」と自分の言葉の調子とリズムに合わせて抽送を繰り返す部長に、足の裏全体を硬直させながら「いいわー、いいわー」と震えた声で答える妻に、感極まったのか「奥さんのあそこが動いている。奥さんのが動いているよー。いく。いく、いくよー」と果てた。
 部長の巨体に組み敷かれた妻が、両手を彼のうなじに当てながら余韻にひったっている様子を見ながら、気づかれないように部屋を出た。
 1時間後に部屋に戻ったが、2人とも身繕いをすました後だった。
 部長は私にオケーサインを指で示すと「奥さんとごゆっくり」と耳元で囁くと、出口に向かいました。
 見送る妻をドアーの前で振り向きざまに抱きしめると「ありがとう」といって深々とキスをした。
 相手の首に両腕を回し、それに応じる妻。
 180cmの部長、162cmの妻。
 つま先立ったふくらはぎがこんなに美しいとは。
 その後、2人で食事をして9時頃ホテルの部屋に戻りましたが、食事の間は部長とのことは1切話題になりませんでした。
 Wベットのシーツの中央が、妻の体液で座布団大の範囲で濡れているのが悩ましい。
 私との14年の結婚生活では、シーツが濡れるなんてことわあまりないのに。
 このことを彼女にただしますと、自分でも分からないとのことでした。
 ただ部長の言葉と動き、そして自分が夫以外の男に身を捧げているとの思いで今までにないほど興奮したそうです。
 3Pが妻の条件でしたので約束違反を謝ると、恥ずかしそうにため息まじりに「大変だったのよ」と答える目に、私は実は見ていたんだとは言えませんでした。
 妻の告白と濡れた瞳に興奮した私は、彼女を抱き寄せ、ベットに倒し、ワンピースの裾をたくしあげてそっと泉に手を遣ると、そこはもうあふれていました。
 そのことを告げると「ごめんねー」と謝る彼女の表情は満ち足りていた。
 私はセカンドバージン喪失記念と称して、ベットの上でワンピース姿の写真を数枚とると2人でホテルを後にしました。
 勿論大きなシミも入れて撮ったことは言うまでもありません。

④部長の後日談
 写真より美人なので驚いたよ。
 高松宮妃殿下といった感じだもん。
 育ちがいいのだね、奥さん。
 子供のときから、人の視線を感じながら成長したのだよ。
 そんな感じがするなー。
 あの最中にことばを投げかけると、奥さんのカラダが緊張するのが分かるよ。
 名器だね。
 神は2物を与え賜うか。
 「だめよー、許してー」なんてあの表情で言われと、男なら誰でも我慢出来ないね。
 アダルトビデオのからみなんて、もう馬鹿らしくて見られないよ。
 君も頑張って出世しなくちゃ。
 奥さんを世俗の垢に染めちゃだめよ。
 僕もできる限り協力するから。

⑤ソフトレイプされる妻
 妻は35歳ですが、昨年3年越しの私の要請を受け入れて、取引先の部長にセカンドバージンをささげました。
 この間の経緯は「3.案ずるよりも産むが易し」で記述したとおりです。
 彼女にとって忘れがたい体験だったらしく、思い出すと時と場所を選ばず濡れてくるそうです。
 私との交渉中も「部長とどうだった」などと耳元でささやくと、いっきにのぼりつめてしまいます。
 そんな妻の変わりようが嬉しくもありますが「1度だけよ」と私に約束させておいて、その後も部長と逢っているのではと、嫉妬まで感じてしまいます。
 妻の本質が知りたくなり、彼女の意に反して男に抱かれたら、どのような反応を示すのか、あれこれ妄想しているうちに、これはもうやってみるしかないと決心しました。
 格好の相手に心当たりがあったからです。
 私が大阪支社に単身赴任中に、同じ単身赴任のよしみから親しくさせていだだいた取引先の与田氏(45歳)を思いだしたからです。
 酒席での話ですが、与田氏によればセックスの醍醐味は他人の妻を盗むことに尽きるそうで、これは古今東西の共通認識であることは諸々の文献で明らかだそうです。
 酔いが進むにつれ、彼はいくつかの体験談を手振り身振りを交え、微に入り細にわたり語り、私は良い聞役に廻りました。

 成功の要点を要約すると
 ①相手に尊敬の念をもって接し、抱きつくが暴力は振るわず、手心を加え、相手に抵抗する余地を残しながら、相手の美しさを称え、ひたすら懇願する。
 ②先を急がず相手を冷静に観察しながら、次の段階にすすむ。
 ③最初は不意をつかれ、1様に驚いた目つきだが、しばらくしてから、相手がある程度自分の置かれた状況を冷静に判断できる間をつくり、そこに憎悪の目があったら行為を中止し、平身低頭して謝罪する。
 あなたの魅力に平常心を失ったことを素直に詫び、相手の自尊心を満足させる。
 ④上記の目つきが戸惑いの表情ならば、迷わず強引にくちびるを奪い、様子を見てから次に進む。
 相手の着衣を損なってはいけない。
 ⑤詰めの段階では、必ず相手の同意を得ること。
 ⑥行為に及ぶ場所は必ず1流ホテルの1室。

 与田氏に電話して、ことの顛末を話し、私の要望を話したところ、若干の条件を付けて快諾してくれました。
 私の単身赴任中に妻が来阪したおり、1度、与田氏の案内で、3人で食事をしたことがあります。

 若干の条件とは次の通りです。
 ①ホテルは当方でセミスウィートを予約する。
 ②妻の安全日に実行する。
 ③状況設定は『与田氏に渡す契約書を私が自宅に忘れたまま出たことに気づき、妻にホテルにいる与田氏に指定時刻までに届けるよう電話で依頼する』である。
 ④穏便にソフトレイプを成功させる自信はあるが、万が1、収拾のつかなかった場合に備えて、私が別室に待機して様子をみる。

⑥ソフトレイプされた妻
 「⑤ソフトレイプされる妻」の続報です。
 私が支社に出張したさい、1席設けて与田氏に妻のセカンドバージン喪失の経緯(「3.案ずるよりも産むが易し」参照)とその後の様子を話すと、さもありなんといちいち頷くばかりであった。
 「差し詰め、平成の献妻物語ですな。この種の話は昔からいろいろあってね」と指折り数え、そのウンチクを語った。
 「私があやかりたかった」と恨み言をいわれたが「重役の椅子が約束された大企業の部長と、僕とじゃー、格も違うし、ご利益も違うからな」と自らを納得させていました。
 4年前、大阪に単身赴任中に来阪した妻を交えて、与田氏と食事をしたことがあります。
 その後、与田氏の案内でカラオケに行き盛り上がりましたが、私がトイレに行っている間に妻に無礼な行為に及んだことを「今だから言うが・・・」と告白されました。
 そのときのようすを問い質すと「奥さんはアタマ良くてふところが深い。男がどういうものか分かっていますよ」とそれ以上は語りませんでした。
 当日は与田氏に午前中に上京してもらい、新橋にある某ホテルで私と待ち合せ、ジュニアースイート(11:00~17:00 day use)の1室で最後の詰めをした結果、私が状況を判断して与田氏の携帯にスリーコール以内のシグナルを発信した場合は、それ以上先に進ませず事態を収束させることになります。
 部屋にはベットルームとリヴィングルームがあり、リビングの奥まったところにデスクがあり、その手前に応接セット、部屋の中央にはソファーが置かれています。
 当日の3日前に出張先から妻に電話をして、契約書を新橋の某ホテルに午後2時までに持参するように頼むと「その日は2時から教会のバザーがあるのよ。あなた、どうにかなりませんか」と少し迷惑そうな口ぶりであった。
 大口取引の契約書であり、次の人事異動で部長昇格の内示を受けている微妙な立場を説明すると「急げばどうにか間に合いそうね」と引き受けてくれました。
 そして渡す相手が大阪のあの時のあの人だといいますと「えー、あの時のかたですか」とちょっとびっくりした様子でしたが「とくかく頼むよ」と電話を切りました。
 「奥さん来るかな?」とつぶやく与田氏に「今朝電話でチェックを入れましたから、大丈夫ですよ。自宅からここまで電車で1時間弱だから、子供を送り出してから支度が1時間としても、11時~12時の間にきますよ」と言うと、バスルームへと向かいます。
 そして12時頃フロントより来客の知らせがあり、電話口でしばしやりとりがあったのち「とにかくロビーでは人目があって、奥さんにご迷惑をお掛けするといけません。部屋までご足労ねがいますか」と言って電話を置きます。
 与田氏は緊張した面持ちで「みえますよ」というと、スーツを身につけ、鞄をデスクからテーブルに運びます。
 私は打ち合わせ通りベッドルームに入り、扉を数センチ開けたままにしておきます。
 しばらくしてドアーがノックされたので、万が1を考えクローゼットに身を潜めます。
 それから5分位たってのぞいてみると、見覚えのある濃いグレーのニットスーツで装った妻が、話に相槌をうっているのが見えます。
 脇に置かれた青鼠のカシミヤコートのそばで淡い光沢を放つ膝頭が、これから起こるであろう事を想像すると悩ましく、また部屋のテレビがコマーシャルになると会話の内容が聞き取れないのがもどかしい。
 私は電話を握りしめています。
 与田さんは1礼して立ち上がり、出口に向かう妻に「奥さん本当にご苦労様でした」といいながらあとに従います。
 ソファーの前まで来ると「奥さん」と声を掛け、立ち止まったところを抱きつき「好きです。ごめんなさい、奥さん」といいながら脇の下から回した両手で胸を押さえます。
 不意をつかれた妻は、左手にバック、右手にコートと紙袋をもったまま動けません。
 数秒して「放してください、止めてください」とかすれた声で訴えますが、ぴったり抱きつかれているので面と向かって抗議できません。
 「奥さん、好きです。もうどうしようもないほど好きです。1度でいいから情けをください。1生の思い出をください」と耳元でささやきます。
 「冗談は止めてください」と肩をゆすって訴えますが「奥さん、男がこういう場所で冗談を言いますか」と下半身を密着させてきます。
 彼女は与田氏の股間の高まりを感じたのか、バックとコートを放すと、両手を使って束縛から逃れようとします。
 1方、与田氏はそのままの体勢でひざまずくと下半身にしがみつき、頬をウエストに付けながら「奥さんは最高の女性です。美しい。1度でいいからやらせてください」とせつなそうに訴えます。
 妻は上半身をひねり、与田氏を覗き込むように「与田さんお願いですから止めてください。お気持ち分かりましたから」とこころなしか涙声で哀願しますが「奥さん、男がこうゆう場所でこうなったら、後戻りができないことぐらいおわかりでしょう」と少し強面の調子で訴えます。
 彼女は自分の置かれた現実に気がついたのか、カラダを前かがみにして与田氏の手を振りほどこうとします。
 「奥さん、本当に1度でいいですから」と膝上を強く抱きしめられると、バランスを失ってゆっくりとそばのソファーに倒れこみ、カラダが小さくバウンドしたさいに右足の靴がとびます。
 与田氏は立ち上がり、妻を見おろしながら上着を脱ぎ、応接セットの上に投げ込むと、ネクタイをはずしながら「ごめんねー。絶対に悪いようにしないからねー」と語りかけますが、脳しんとうでもおこしたのか、あるいは観念して身を任す気になったのか、何の反応もありません。
 ソファーの肘掛にかくれて妻の顔がみえないので、わたしは化粧台の椅子を戸口に置き、その上に載ります。
 与田氏は両膝をつき、片方の靴を脱がすと「びっくりさせてごめんねー。やさしくするからね」と右手で妻の膝上辺りを撫でながら「中には出さないから安心してね。悪い病気もないしね」と言いながら、右手をゆっくり先に進めます。
 生々しいことばに我に返った妻は身を突っ張るようにして、両手でスカートの上から右手の侵入を押さえながら「与田さん、そこはだめ。許して!」とかすれ声で必死に哀願します。
 「じゃー、キスならいいの」と右手はそのままに、左手を首の下に差し入れて、やさしく迫りますが、顔を左右に振って許しません。
 業を煮やした与田氏は右手をすばやく抜くと、両手でこめかみを押さえ、1気にくちびるを奪います。
 しばらくはあいての手首をつかんだり、胸を押したり、歯を食い縛って抵抗しますが、貪るような唾液を送り込むような長い接吻に疲れたのか、息苦しくなったのか、右手をソファーの外にダラリと落し、左手は与田氏の肩に無気力におかれています。
 相手の欲情に身を任せ、嵐のすぎさるのを待つ風情です。
 そんな気配を感じたのか、与田氏は身体を起こし「奥さん素敵ですよー。ルージュを全部頂きましたよ」と言うと、妻が何か言ったようですが聞き取れません。
 「表に札が架けてあるから誰も来ませんよ。でも念のためロックしておきます」と言って、その場を離れるとすぐ戻り、テレビの電源を切ります。
 妻は身動きひとつしません。
 「奥さん、泣いているの。ごめんねー」と言いながら歩み寄り、目尻から伝う涙を唇でぬぐいます。
 「こんなにハッピーな僕が奥さんを悲しくするのね」と独り言のように呟き、やさしくキスをすると妻も肩にそっと手をそえます。
 そして、相手の舌を受け入れているのだろうか、妻の頬のうごめきが顔に微妙な陰影をつくりだしています。
 妻の反応を5感で確かめながら乳房をつかむと、その手を両手で押さえ込むようにして、拒絶しているようです。
 しかし「汚れるといけないからね」と言って、スーツとブラウスのフックをはずしにかかると、なんの抵抗もしません。
 インナーの胸紐を解き、ブラを上にあげ「奥さん乳首がカタクなっていますよ。あの時と同じですね」といいながら指先でつまみ「奥さんのバストが格好よすぎるから、本物かなーと。・・・つい発作的にね。男のさがだね」と過去を述懐します。
 そして1方の乳房を口に含みながら、他方はてのひらで揉み上げるようにして、獲物の感触をたしかめる与田氏は、妻が1瞬アクメに達したのを見逃しません。
 再びスカートの中に右手を入れようとしますが「それはだめ。ね、ね。・・・許して」と両足首を交差し、両膝を蜜着させながら両手で押し戻します。
 「こうならいいの?」と今度はスカートの上から目的と思しき箇所をさすります。
 妻はなにも言わず両脚の力をぬき、与田氏の申し出を受け入れます。
 さらに「奥さん、この足を下ろしてもらえますか?」と言われ、ゆっくりと右足を床に着ける妻。
 腿の半ばまであらわにして、膝先からソファーの外にこぼれている足と、その先に転がっている靴が艶めかしい。
 かたちの良いフクラハギを愛でるような愛撫をしながら、その手は膝裏を伝ってももに移ります。
 「柔らかいねー。ほら奥さん、てのひらに吸い付くよ」と彼女の反応を確かめながら、さらに奥をうかがうと、妻はその手を無言で制します。
 「これならいいですよね」といって、乳房を吸いながら、右足の奥まったところをスカートの上からつかみます。
 そして、その指をそのまま深く埋没させ、ゆっくり揉みくだします。
 手の動きにつれ、ニットのスカート地はせり上がり、薄いグレーの下着が見え隠れするまでになりますが、妻は目を閉じてじっとしています。
 しばらくすると、耐えかねたのか切羽詰った声で「許して、与田さん。許してー」といいながら、右手を与田氏の後頭部に置き、だきしめます。
 「許してー」が彼女の登りつめるときの常套句なので『妻が往かされるのだなー』と思うと虚脱感がわたしの全身を包みます。
 与田氏は乳房にハナを圧迫されて苦しいのか、アタマの位置をすこしかえ、上目使いにようすをさぐりますが、その結果に満足して体を起こします。
 「奥さん、往ったね。ねえー、本気で往ったでしょう」と耳元でささやくが、なんの反応もないのを見て、手を右足の内ももに導きます。
 「ほら、ここがヒクヒク動いているのがわかりますか?」といい、恥ずかしそうに黙っていると、左手で乳房をつかみながら「奥さんのオッパイ格好いいねー。手に吸い付くもん。ほらつかみきれないよ。ここだけでいけるの、感度抜群ですねー。ご主人が羨ましいな」と妻を見つめます。
 そして左手を額におくと「ごめんねー。もうなにもしないからね」とセミロングの髪を愛しむように、その手をかたぐちまですべらせて、妻を抱き起こします。
 ソファーの肘掛によりかかり、伸びきった両足をひきよせると、しどろにされた着衣をなおす妻と、それを離れたところから見つめている与田氏。
 衣服の乱れを直し終わると、足を揃えソファーからすべらすようにして下ろし、ゆっくり立ち上ります。
 そして両手をアタマの後ろに回し、髪の結びを解くと、アタマを左右に振り、栗色のベルベットリボンをクチビルの端に咥えます。
 それから両手で髪を数回すくいとり、アタマの後で束ねると、それを左手に委ね、右手にリボンをつかみ手際よくまとめあげます。
 そんな後ろ姿を見ていると、1連の身のこなしから、解放された安堵感、女として気をやらされた倦怠感、男を夢中にさせた充足感、まだ物足りない不満感等を読み取れないこともありません。
 中肉中背(163cm、56kg)の均整がとれた妻の佇まいと身のこなしは、何か男心をそそるものがあり、私は新しい発見にぞくぞくします。
 とりわけ左足に重心を置き、右のカカトを床からちょっと浮かせ、上半身を精1杯そり返しながら、アタマを俯き加減にして、両手で髪をまとめようとしている後姿は、与田氏を挑発しているようにも思えます。
 私と同じような角度から立居振る舞いを見ていた与田氏は、ツカツカと歩み寄り、靴を履こうと中腰になって屈んでいる妻のヒップをつかむなり「やっぱりだめだ。奥さん、我慢できない」といいながら、強引にソファーに押し倒します。
 左腕を背中に回し、覆いかぶさるように身を預け、相手の口を塞ぐようなヘビーなキスをしながら、すばやくスカートの奥に右手をさしこみます。
 右手は与田氏の体に、左手は左手で押さえられ身動きが取れません。
 与田氏のてのひらは妻の秘所を抑え、指先がそれぞれ狼藉を働いています。
 膝をたてたり伸ばしたりして、指先の進入を防いでいるうちにスカートは腰までめくれ、下半身もあらわになってきます。
 そのことに気がついたのか、与田氏の気迫に圧倒されたのか、妻はあがらうのを止め、もうされるままになっています。
 息の止まるようなキスから妻を解放した与田氏は、右手をそのまま動かしながら「4年も前から三浦さんの奥さんのことを想いながら、オナニーをしていたのよー。奥さんのここを想像しながらですよ。お宝をくださいねー。ほらもうこんなにぬれていますよ、奥さん」と言って「いいですね、やさしくしますからね」と耳元でささやきます。
 妻は自由になった両手で、与田氏の右手をスカートの上から押さえますが、それは弱々しくただ手を副えているにすぎません。
 「中には出さないから安心してね、絶対にね。かみさん以外とは10年以上ご無沙汰なの。興奮してごめんね。これからもご主人をサポートしますからね、いいですね?」と畳み込むようにいうと、妻は2言、3言、与田氏に言ったが、そのときは聞き取れません。
 帰り際に与田氏に聞いたところ「シャワーを浴びてからベッドで」といったそうです。
 「奥さん、じらさないでくださいよ。どれだけ我慢していると思います。もう弾けそうですよ」と、有無をいわさず妻の腰に手を差し入れ「ストッキングが破れるといけないから、ちょっと腰を浮かせてもらいますか」といいながら、手馴れた手つきで1気に下着を取り去ります。
 そしてスーツ姿の妻を抱きかかえ、カーペットのうえに寝かすと、自らも側に片肘をついて横たわり「奥さん、綺麗ですよー。めちゃメチャ綺麗ですよー」と溜め息まじりにいうと唇を重ね、右手をスカートの中へすべりこませます。
 「奥さん、もうヌレヌレですよ、これが濡れるといけないから少し上げましょう」といってスカートの裾に手をやります。
 「恥ずかしいわー」といいながらも両ひざを立て、腰を浮かし協力する妻がいじらしい。
 与田氏はベルトを緩め、下半身をあらわにすると妻のカラダに割って入り、両手を肩口に置いて「奥さん行きますよ」と言うと、与田氏の肩に両手を副え、静かに目をとじます。
 それを見てから、腰をひとひねりさせると、1物が妻の中に納まります。
 「あっ!」と息を洩らすと緊張が走り、肩に置いた手が1瞬爪先たちますが、ゆっくりと元に戻ります。
 与田氏は挿入の余韻をかみしめているかのように動きません。
 「奥さん1発で入ったね。相性が合うよ。中は熱いね」と言いながらじっとしています。
 「奥さんのあそこ具合がいいよ。動くよ。・・・ああー、動いちゃーだめだよー。動かれると往きそうだからね。感度抜群だねー、奥さん」といいながらゆっくり腰を使いはじめます。
 「痛かったらいってね。加減するから。フィナーレのときは我慢してね」の呼びかけにいちいち頷く妻が痛々しい。
 与田氏のゆっくりした出し入れにあわせて「あー、あー」と反応する妻に「奥さん、いいの」と問いかける与田氏。
 「いいわー、いいわー」と喘ぎ声で答える妻。
 与田氏の繰り出す素早いショートブローに同期して「あっ、あっ、あっ」と声を弾ませ、息も絶え絶えの様子に「奥さんもう少し我慢してねー。1緒にねー。もう少しだからねー」と妻をなだめながら徐々にロングブローに切り替えます。
 感極まった妻は「許してー、与田さん許してー」とうわごとのようにツブヤキ、アタマをのけぞらせ膝をたてて上にせりあがろうとしますが「奥さん、動かないで。ね、ね」と声もウワズリながら、必死で両肩を抑えます。
 「許してー。だめよー。与田さん許してー」とハナに抜けるような声で訴える妻。
 「ああー、もうだめ。奥さんのあそこが、あそこが」といいながら腰のリズムに合わせ相手の両肩をひきつけ、妻のカラダを呼び込みます。
 眉間にシワをよせて、与田氏の手首を押さえながら「許してー、許してー」と訴える妻。
 「奥さん行きますよ。中に出しますよ、いいですか」といいながら、妻の肯くのを合図に2人はいっきに頂上に駆け上ります。
 そして肉体がぶつかりあう「パーン、パーン」という乾いた音と体液がまじりあう「ピチャ、ピチャ」という湿った音をベースに、すすり泣くような声と荒い吐息が部屋のなかでとけあいます。
 時計は12時50分を指しています。

あとがき
 上記はあるホテルの1室での40分間わたる出来事を、できるだけ客観的に描写したものです。
 私はこの後、妻がシャワールームに入るのを機に与田氏に挨拶して、ホテルを後にしています。

 19時過ぎに新幹線の車中から、与田氏より次のような内容の電話がありました。
 *妻がシャワーを使ってる間にルームサービスを注文し、それを口実に半ば強引に食事につきあわせ、飲めない妻にワインを飲ませた。
 *食事が終り、帰ろうとすると「それは奥さん殺生だ」とからみ「さっきのセックスはあっという間で、物足りねー」とすごんでベッドルームにつれこんだ。
 *「奥さんは1日でソフトとハードを経験してショックをうけているから、ケアーしてね」といって電話は切れた。
 *しばらくして再び電話があり「さっきのは冗談ですよ。念のため、奥さんによろしく」といってきた。

 私が帰宅すると「お帰りなさい」とソファーから起き上がる妻がいて、右手を首の後ろに、左手を腰に当てながら「ここがちょっと痛いのよ。熱ぽいし、流感かな」と首を2度、3度回してから思い出したように「あなた、あれ今日お届けしましたからね」と言った。
 「君のほうは間に合ったの?」と聞くと「朝から、カラダがだるくて食欲もないのよ。行くのを止めたの。あした早起き会もあるしね」と言った。
 そして、お茶を入れてから「今日はお風呂に入りませんから、後をお願いしますね」と言い残して、2階に上がった。
 私は食卓のコンビニ弁当を食べて寝た。
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2022/06/01 (Wed) 16:46:28

⑦妻と部長のコンチェルト
 1年前に35歳の妻を強引に説得して、取引先の部長と1夜を共にさせて、私以外の男を初めて経験させた経緯は「3.案ずるより産むが易し」に記載した通りです。
 その後の妻の変化に、部長との仲を疑った私は、知人の与田氏に妻をソフトレイプしてもらい妻の本質を知り、疑念が晴れます。(「3.ソフトレイプされた妻」参照)
 今回はその後の妻と部長について記述します。
 その部長が、海外拠点の責任者としてこの春正式に決まりました。
 お祝いのゴルフコンペの帰りの車中で、運転している私に、後部座席から「奥さんにはいろいろお世話になったね。・・・お礼も言いたいしご尊顔も拝したいなー。どう、1席設けるから都合してもらえるかなー」と呼びかけます。
 「部長の栄転を非常に喜んでいましたから。・・・1回でも情を交わすとやはり女ですね。見直しました」と返答を曖昧にします。
 「社交辞令でなく、まじめな話だからね。2人の都合の良い日を連絡してよ」と部長が念を押します。
 「ありがとうございます。明日、必ずご連絡をいれます」と答えます。
 帰って妻にこの件を話すと「お断りできるの?」といぶかしそうに聞きます。
 「ご招待だから難しいね」
 「お食事だけでしょう?私、あとは責任もてないわよ」と静かに言います。
 1年前の部長の印象が良かったようなので、私としては想定内の妻の答えだった。
 「部長が君のご尊顔をどの距離で拝したいかが問題だね」と茶化します。
 「何を着て行こうかしら?」と妻。
 「取締役になるお祝いの意味でのご招待だから、和装がいいかな。男は女性の和服姿が好きだしね」と私が答えます。
 当日は6時頃、指定された飯田橋にある待合風の割烹旅館に部長を訪ねると、1風呂浴びて浴衣に丹前姿の部長がいます。
 1通りの挨拶が終ると、飲んでいたベルモットを私たちのグラスに注ぎ「食前酒ですが、取りあえず3人の再会を祝して乾杯」とグラスを飲み干します。
 そのごは部長が1年前の太鼓腹から引き締まった体に変身しているのを見た妻が、ダイエットの苦労話を部長に語らせ座を保ちます。
 昨年、海外赴任の内示を極秘に受けた際、上司から注意されたのが動機らしい。
 そんな話を10分くらいしたあとで「お風呂に入ってさっぱりしてきたら。着替えて大いに語ろうよ。奥さんは着物姿だからそうはいかないけど。それから料理をはこばせるから」と私に入浴を勧めます。
 私はふすまを開け、隣室にある脱衣部屋で服を脱ぎ、浴室に入りますが、ヒノキの大きな浴槽から湯が溢れ湯気が充満して息苦しいほどです。
 湯加減は熱すぎてすぐには入れそうもなく、シャワーを使って汗を流し、脱衣室に戻ると浴室の湯気が流れ込み、姿見が曇ります。
 湯気を逃がそうと入口の引戸を開けると、ふすまの向こうから部長の押し殺したような声が漏れてきますが、元々地声が高いため言っていることが良く聴き取れます。
 「大丈夫ですよ。ほら、そんなに動くと着崩れしますよ」と部長のなだめすかす声と、畳と衣服が擦れ合う音が聞こえます。
 「・・・。・・・」と妻のあらがうような声と、座卓に手足がぶつかるような音がします。
 「ほんの挨拶だけですから、奥さん。すぐ終わりますから」
 そしてしばしの沈黙のあと「1年振りかー」と久しぶりに温泉にでも浸かったような部長のため息混じりの声が、1瞬部屋の静寂をやぶりますが、そのあとは物音ひとつ聞こえません。
 私はドライヤーのスイッチを入れ整髪してから、歯を磨き、大きな声を出してウガイをして2人に私の入室の近いことを知らせます。
 それから部長が帳場へ電話をしている声が聞こえます。
 ふすまを開けると部長に合い槌をうっている妻の顔は蒼ざめていますが、髪、化粧、着付けの乱れもなく、1方の部長もなんら変わった様子は見られません。
 「早かったね。暑いでしょう。窓を開けておいたから、汗が引いたら閉めましょう」と上機嫌で私に声を掛けます。
 仲居が料理を運んでくると、あまり飲めない妻のために梅酒の炭酸ソーダ割が用意されています。
 懐石料理は1時間半くらいで終りましたが、この間の話題は私たちの在欧生活の経験談が中心で、近々海外に赴任する部長は聞役に徹します。
 食事が終ると仲居はお茶と水割りセットを座卓に置くと「どうぞごゆっくりなさってくださいまし。今日はお客さんも少ないので静かでございましょう。なにか御用があれば呼んでいただければすぐ伺いますから。・・・失礼いたします」といって部屋をでます。
 バーボンの水割りをつくりながら「さっきね、奥さんと1年前の思い出話をしていたのだけど。・・・思い出なんていう域を超えていてね。ほんの1ヶ月前のことのように細かいことまで鮮明なのよ、2人とも」といいながら話を切り出します。
 「話しているうちに私もカラダが熱くなってね。1瞬の情交を奥さんに求めたのだが、なかなか許してもらえなくてね。『ご主人の許しがあればいいの?』と聞くと奥さん返事をしないの。そのうちあなたの気配がしたので中断したがね」と残念そう。
 「そうですか、それはお生憎さまです。普段は長風呂なのですが、私には熱すぎて。それとも虫が知らせたのかなー」と部長をからかいます。
 「あなた部長さんのお話、嘘ですからね。冗談ですよ。お酔いになっていらしゃるのよ」と妻が取繕います。
 「響子、嘘でも、冗談でも部長がそう仰るのだから受け入れてあげなさい。取締役就任のお祝いと海外赴任の餞別として、これ以上の誠はないのだから」と妻を諭します。
 先刻の「1年振りかー」という部長の感歎の声と部長を受け入れている妻の姿を想像すると、2人に対する嫉妬の念が湧いてきて、ことば遣いも乱暴になり「部長、4の5のと言ったら力ずくでも思いを遂げてください。私が責任を取りますから」と、かって与田氏にレイプさる妻をみているので強気に言います。
 「・・・」
 妻はまぶたにほんのり酔いの余韻を残し、うつむいています。
 「もう1風呂浴びてきます。それから部長のお手並みを拝見しますから。それでいいね、響子」と言い残して浴室に消えます。
 30分後に戻ると照明は消されているが、隣室の寝間の明かりが欄間を透して部屋の天井を照らしているのがわかります。
 欄間とふすまごしにもれてくる部長の「ホーレ、ホーレ・・・」という掛け声と肉体どうしが奏でる音を聞きながら水割りをつくり喉をうるおします。
 人心地ついたところで振り返り『そーっ』と背後の襖を少し開けると、十畳くらいの和室に夜具が2組しかれており、2つの行灯の光が幻想的な空間をつくりだしています。
 そして奥の布団の上で、薄い鶯色の長襦袢を腰までまくられて、部長に尻を抱えらている妻がいます。
 両手で枕を抱えるようにして、胸から頭まで夜具の上に投げ出し、必死にて耐えている妻がいる。
 バックスタイルは妻が嫌う体位で、私とも経験がないのでそのように見えるのかもしれない。
 「奥さん、こっちを向いて」と浴衣を着たまま、妻をゆっくり貫きながら呼びかけます。
 応じないでいると「ねえー、奥さん、顔を見せて」と催促します。
 ゆっくり両肘を立ててから、顔を枕から離すと喘ぎ声がもれます。
 そして両腕を立ててから、ゆっくり顔を部長に向けると、布団地の紅色が妻の横顔に映えます。
 部長は両膝をつき、上半身をまっすぐ伸ばしたまま体を動かしながら「奥さん、思ったよりいいでしょう。痛くないでしょう、ほら」と数回、強く突きますが、妻は部長を見ながら喘ぎ声をあげて頷き「部長さん、恥ずかしいわー」と答えます。
 「奥さん、これをとって」と妻の伊達締めを外そうとする部長と、切なそうな息つかいのなか片手でそれに協力する妻。
 部長は前屈みになり、両手で妻の乳房をつかみながら腰のリズムをとります。
 そして時折指先で乳首をつまむと、感極まった妻は「部長さん、もうだめよー」と言いながら上半身を床に突っ伏します。
 乳房に手の届かなくなった部長は腰の動きはそのままに、浴衣を脱ぎ捨てると「奥さん、これを脱いでください」と妻に全裸になることを求めます。
 再び4つん這いにさせると、長襦袢を取り去り「奥さん、ここを手で押さえて」と下腹部に手をやります。
 それに従う妻に「奥さん、もう少しお尻を高く突き出して」といいながら1旦抜いた1物をゆっくり埋め込みます。
 「奥さんの中に私が入っていくのが手の感触でわかるでしょう」と問いかける部長に素直にうなずく妻。
 その様子を見た部長は「奥さんのあそこ最高、絶品ですよ」と言いながら、激しく妻をせめ立てます。
 「いいわー、手に感じるわー。いきそうだわー。許して、ねえーあなた許して」と部長に顔を向け、受ける衝撃に声を震わせて哀願する妻。
 「響子、今夜は僕の愛人だからね。まだ許さないよ。・・・手を戻して体の下を覗いてごらん。・・・ほら、響子」と声を弾ませながら指示をする部長。
 アタマの先を床に付けるようにして、うな垂れる妻に「僕のものが見える?響子の中に入っていく僕が見える?」と問いかける部長。
 喘ぎ声のみで反応がないのをみてとった部長が「膝をもう少し広げて」と指示するとそれに従う妻。
 「あー、あなた。もうだめよー、いきそうだわー。許して。ねえー、あなた許して」と先ほどと同じフレーズを繰り返しますが、声が鼻に抜けている分、登りつめた様子が私にはわかります。
 部長も1年前の経験から自分の1物に妻の緊張を感じたのか「響子、見えるね。もう少し我慢してね」と言いながら上体を前倒しにして、妻の両肩を掴むと馬を駆る騎手のように妻を攻め立てます。
 そして「響子。・・・私の顔を見ながら往きなさい」と息を弾ませます。
 それに応じた妻は、部長の抜き差し成らぬ様相を目にして「もうだめ、往くわー。ユルシテー」といいながら床に崩れ伏すと妻の頭が行灯に当たります。
 初めて経験する体位で果てた妻を見て、もしかして半年前、妻は与田氏に無理やりこんな体位でハードレイプされたのかなとの想いがアタマ過ぎります。
 往きそびれて妻の背中に倒れこんだ部長は、しばらくしてから数回腰を振ると思いを遂げたみたいである。
 コンドームが外れないように慎重に1物を抜くと、傍らの浴衣を着て床に仰向けになります。
 その気配を感じた妻はゆっくり身を起こすと、長襦袢をはおり腰紐で簡単に身繕いすると部長の後始末をします。
 「奥さん、よかったですよ。感激です。奥さんの人格ですね」と静かに下から語りかけます。
 「恥ずかしいわー、部長さんの仰る通りにしただけなのに。我慢が足りなくてごめんなさいね」と指先を動かしながら応じます。
 後始末が終ると、部長は半身を起こし妻の肩口を抱き寄せキスを求めます。
 半身になって狂おしいキスを受け入れている妻に嫉妬を感じますが、2人のたたずまいに見とれていたのも事実です。
 「1年ぶりのキスどうです、お味は。あのときのキス最高でした。1生忘れないな」と問いかける部長に、無言でテイシュを抜き取り部長の唇についたルージュを拭います。
 それを見て私は2人に背を向けて水割りを飲み始めると、程なく妻が横を通り抜けトイレに向かうようです。
 部長は私に向かい合って座卓に座ると、飲み残した水割りを1気に飲み干し「僕の眼の前で奥さんを抱いてあげてよ」と唐突に言い出します。
 「あなたの仕込みがいいのだと思うけど、最高だよ奥さん。もっとも灯台下暗しということもあるがね」と私を見透かしたように笑いかけます。
 しばらくして戻った妻が着替えるつもりで寝間に入ると「奥さん、まだそのままでね。ご主人の御用が済んでないみたいですよ」呼びかけます。
 そして立ち上がり、部屋を覗き込んで「こちらの方の布団でお願いします」と指示しますが、妻がためらっているのか「今日は僕の言うことを聞いてくださいね。私も介添えしますからね」と妻に言い聞かせるよう部屋にはいります。
 私は意を決し、トイレで用を足しながら、先ほどの妻の姿態を思い浮かべると下半身に力がみなぎります。
 寝間に入ると、夜具に収まり目を閉じている妻の傍らに部長が座っています。
 掛けてある布団をめくり妻の全身をあらわにします。
 そして長襦袢の裾を開き、妻の体に割って入り、おぼしき箇所に1物をあてがい、静かに少しずつ進入します。
 妻は「あっ」という小さな吐息をもらすと、伸ばし切っていた両足を少しずつ引き寄せ膝を立てていきます。
 部長は2人の結合部分と妻の足の動きを見ているようです。
 そして妻の中にすべてが納まる同時に「恥ずかしいわー」といいながら半身をよじって座っている部長の膝頭に顔を押し付け、両手で膝にすがり付こうとします。
 「響子、響子は僕の恋人だからね。恥ずかしくないよ」といいながら、妻の髪を愛しむように撫でつけます。
 部長の目が潤んでいるのが分かります。
 私は妻の急激な動きに1物が締め付けられたのに加え、2人の仕草に刺激されて、中で暴発しそうになり、あわてて引き抜き両手で押さえますが、間に合わずそれは手の中に放出されます。
 「失礼」と言い残して私は浴室に駆け込みます。
 10分位して部屋に戻ると、部長の「入った、入ってる?」という声が聞こえます。
 そのまま寝間に入ると、部長の脇腹を挟むように『く』の字に膝を立てた妻の足が目に入ります。
 私はとなりの布団に腰を下ろします。
 それを見た部長は交代の意思表示をしますが、自信がないので断わると「奥さん、1年前の私たちをご主人に見てもらいましょう」と言うと、おもむろに妻の左足を肩にのせると右足も肩に担ぎます。
 そして前かがみになって、体重を妻の両脚にかけると1物の全長を使うようなゆっくりしたピストン運動をしながら「奥さん、いい按配ですよ。痛くないですね」と言い、妻が頷くと「慣らし運転はこれくらいにして本番いきますからね」というと緩急、強弱を交えた連打を加えます。
 妻の尻は床を離れ、部長の後ろ姿と妻の掲げられた両足のシルエットが部屋の壁から天井にかけて、すすり泣くよう声に合わせて揺れています。
 「響子、そんなにいいの。響子の中に誰の何が入っているの?」とのぞきこむようにして部長が言うと、両手を相手の首に回し、表情で許しを請う妻。
 「響子、恥ずかしいの?1年前は言ってくれたのに」と長襦袢の胸元を広げ両乳房をワシ掴みすると腰の動きを速めます。
 「だめよー、部長さん。だめよー、許してね。・・・許して」と首に回した手を放すと、息も絶え絶えに訴えます。
 「許さないよ。響子、言うまでは」と激しく腰を振って攻め立てます。
 「許して、往きそうよ。往かせて」と首を振り仰け反りながら哀願する妻。
 「響子、それなら僕にも覚悟があるよ」というと腰の動きを止めて、両脚を肩から下ろすと立っている妻の両膝を目1杯開き、その膝を押さえながらゆっくりと律動を始めます。
 そして1物が妻の中に埋没する様子を見ながら「響子、ほら見てごらん。アタマをあげてごらん。分かるから」と云いますが恥ずかしがって応じません。
 「ご主人が見ているから恥ずかしいの?」と言うと、私に介添えをするように頼みます。
 私は枕元に正座すると、肩口から背中に両手を差し入れ、妻の体を起こし45度くらいの角度に保ちます。
 部長はその長さを見せ付けるように、妻の愛液で充分過ぎるほど濡れた1物を2度、3度いっぱいに引き出し、又ゆっくりもとの鞘に納めます。
 そしてゴムを装着したそれは、朝露が降りたように淡い光のなかでキラメキを放っています。
 それを目にした妻は感極まったのか「私もうだめだわー。ユルシテー」と両手を後ろに着き、口を空けたまま頭をのけぞらせます。
 そして部長が「ホーレ、ホーレ」の掛け声と共に、手ごたえのある挿入を繰り返すと「部長さん、堪忍してー」消え入るような声でつぶやくと、支えている私にぐったりカラダを預けてきます。
 それを見た部長は1物を抜くと、正座して妻のフクラハギを両脇に抱えながら「奥さんをこっちに貸して」と命じます。
 中腰になり、両脇から腕を差し入れ、妻のカラダを浮かせると、部長が抱えた両足を引き寄せ、妻が部長の膝をまたいで腰掛ける格好になります。
 部長の腕の中で、長い接吻を受け入れている妻。
 部長はキスをしながら自分の両膝を開くと、1物に右手を添えて挿入を試みますが、妻も腰を動かしそれに協力します。
 「入ったね。今度は響子が僕を喜ばす番だ」と言って妻を引き寄せ、腰と腰を密着させてから自分の膝をさらに開きます。
 「どう、深い挿入感があるでしょう。この状態でも締め付けられるよ」
 「自信ないわー、どうすればいいのかしら?」
 簡単に要領を教えられた妻は、リズムを自分で作り出せないのか、加減が分からないのか何度やっても途中で外れてしまいます。
 部長は妻を全裸にして髪を解くと、ヒップを両手でつかむようにして2人の体をピタリと付けて、両手で尻にリズムを伝えると今度はスムースに事がはこびます。
 「上手いじゃないの。初めてじゃないな。これは」と私の方を見ながら「いいねー、響子。気持ちいいよー」と目を閉じます。
 「ハッ、ハッ」と短い息をはきながら、部長の首にしがみ付き、腰を上下する妻の立ったフクラハギが艶かしい。
 「響子、もうだめ。1分ももたないよう」と告げる部長の股間から1物が見え隠れしています。
 「あなた、あなた」と喘ぎながら腰を振って自分でリズムをつくっている妻。
 「イク、イク。イクヨー」の部長の叫びと「いいわー、いいわー」のすすり泣く様な声と共に、2人は果ててしっかり抱き合っています。
 しばくして部長はそのままの状態で、妻を布団に仰向けにすると「奥さん、最高の贈り物をいただきました。奥さんの顔を見ながら往きたかったけど」という部長に、左手を差し伸べる妻の2つの瞳はしっとりぬれていた。

終わり

あとがき
 妻がなみだ目になって往ったのを初めてみて見てショックでした。
 与田氏にレイプされた影響かなと思いましたが、あとで聞いてみると乳首が部長の浴衣のえりと擦れ合って涙が出るほど気持ちよかったようです。
 それから初体験の体位を2つとも無難に受け入れた妻を見て、与田氏が電話で「冗談ですよ」といっていた意味が分かったような気がします。
 こればかりは妻に聞くことは出来ません。

⑧妻とのダイアログⅡ
 「⑦妻と部長のコンチェルト」に記載したように、妻は1年ぶりに取引先の部長に抱かれましたが、その時の妻の心の動き等を報告します。
 ここまでに至る経緯過程については「②妻とのダイアログ」と「③案ずるよりも産むが易し」を参照してください。
 部長が海外に赴任する日が、偶然、私たちの結婚記念日であった。
 私は1計を案じ、1年前、妻が部長の1夜妻として仕えた某ホテルの8021号室を予約しておいた。
 空港にはたくさんの見送りの人がいて、その筋の綺麗どころも何人かいて雰気に華をそえています。
 輪の中に、私たちの存在に気が付いた部長は目礼を送ってきます。
 体育会系の学生の応援歌の斉唱が始まり、人の動きが1寸止まったのを見計らって、妻のところまで来ると「奥さん、この前は本当にお世話になりました。貴重なお品を頂いて光栄です」と言って、すばやくもとのところに戻ります。
 周囲から見ればごく普通の会話ですが、妻の首筋が上気するのが分かります。
 部長を見送ったあと、高輪にあるホテルのラウンジで食事をしながら、結婚記念日の祝杯を挙げます。
 「今日は君を少し酔わせて、本音を聞きたいものだ」といいながらポートワインを妻のグラスに注ぎます。
 「本音?なんですかそれ」
 「君と部長のこと・・・」
 「本音も建前もありません。あなたの強い意向に従っただけですから。シナリオを書いて演出したのは、あなたですからね」と人もいない周囲を気にして、小さな声で言い「部長さんも精1杯演技をしていただけ。私はそれに応えていただけ。演技者に本音も建前もないのよ」と念を押します。
 「じゃー、響子と部長の名演技に乾杯!」といってグラスを傾け、しばらくは海外勤務時の思い出話等をした。
 「ところで部長の奥さん魅力あるねえー。美人だし、旅館の女将みたいに粋で隙があってないような人だなあー」と再度話題を部長に向けると「部長さんも罪作りな人ねえー。あんな申し分のない奥様がありながなら私なんかと・・・」とため息混じりにつぶやきます。
 「演じているだけだから」と私がとりなすと「この前、飯田橋のとき、部長さん涙目になったでしょう・・・」と恥ずかしそうにテーブルに置かれた指先をみながらいいます。
 「あの場面ね。あれはおそらく君が無意識で『恥ずかしいわぁー』といいながら部長の膝にすがり付いたので、君の今までの所作言動が演技ではないことを確信した感動と感謝の涙だよ、あれは」と断言します。
 「そうかしら・・・」とあいまいに言って先刻の演技説を蒸し返しません。
 だいぶ酔いが廻ってきたようです。
 頃合いをみて「ねぇー、響子。例の部屋を予約して置いたけど。もうチェックインできる時間だよ。どうする?」と聞くと「あなたって悪趣味ね」といいながらも目は受け入れています。
 部屋に入ると中の様子は1年前とまったく同じで、中央にほぼ正方形の大きなダブルベットがあった。
 私は上掛けを目いっぱいまくり、白いシーツをむき出しにすると「プロレスのリングみたいだね、このベッド。・・・ここで部長と上になり下になりの60分3本勝負か。1本目は海老固めだったりして」と妻をからかいます。
 「あなたのためにね。・・・でもそんな言い方しないで。はじめての経験なのよあなた」と私に寄り添います。
 「そうだね。響子の初舞台だね、女を演じた」
 「部長さん、邪魔だからといってこの上掛けをはいでベッドの下に落としちゃうのよ。もうベッドインじゃなくてベッドオンの感じね」
 「最初から?」と言いながら私は上掛けを取り払います。
 「そうよ、このフロアーランプも点けたままよ」といって歩み寄り、点灯しますがその足取りが酔いの為かちょっと乱れます。
 「ほう、純白の舞台だね。スポットライトの点いた。・・・こんな明るい所で抵抗なかったの?」
 「だって、お願いしても聞き入れてくれないのよ」と甘えるように肩を揺らします。
 「部長はAV男優を意識していたのかな?・・・さっき響子がいったように演技していたのかも。・・・だって考えてごらんよ。アダルトのベッドシーンは照明も十分で、上掛けもないよ。見せるためにね」
 「私は見たことないから判らないけど、そうなの?」と妻が驚きます。
 「この辺に固定カメラがあるものとして、君の姿態や表情がよく撮れるように位置を工夫したりして。それから恥ずかしいセリフを言わせられたり、言われ続けたといっていたが具体的にはどんなこと?・・・飯田橋を参考にすると大体想像はつくけど」
 「それは部長さんと私のプライバシーよ。あなたは想像してください」と妻は答えます。
 夫婦の営みが終ったあと、少し眠りたいといって、背を向けた妻にぴったり寄り添いながら「1年前、ここでの部長とのとっかかりはどうだったの?」とピロートークを試みます。
 セックスに起承転結があるとすれば、転結の部分を盗み見しただけなので興味があった。
 「とっかかり?」と低い声でつぶやきます。
 「序章というかオープニング」といいながら左手を回して、妻の乳房をつかみます。
 しばらく間をおいてから、思い起こすようにゆっくり語り始めます。
 「バスルームに入ってきたのよ。ほんとうにびっくりしたわあー、あの時は」としばし感慨にひたっているようす。
 「それから?」と左手に力を込めながら先を促します。
 「あとはあなたにレクされたように流れに身をまかせたわ」
 「シャワーの?」
 「意地悪ねぇー」といって私の左手の動きを抑えます
 「『殿方は繊細だから流れを止めないように』とあなたおしゃったでしょう?」
 「そんなこといったかなあー?・・・それで部長の言いなりになったの?」
 「それが私のお勤めでしょう?」
 ここにきて起承転結がつながり、私が目にし、耳にした後半部分が鮮やかによみがえります。
 「具体的にその流れを話してよ。2人の様子をもっと」
 「そんなこと私の口からいえないわ。オフレコにしようと約束したの。部長さんは役者よ。かりそめにでも、1旦口から出た言葉にはそのとき魂が宿っているそうよ」
 「わかった。要するにここで2人の魂がサウンドしたわけだ」と耳元で囁くと背を向けたまま小さく頷くと「あなたの感想を聞かせて」と消え入るようや声で呟きます。
 「この部屋に戻ったとき、君たちはすっかり身支度を整えて、私を待っていたよね。君が部長をドアの所まで送ったとき、ノブに手をやりながら思い返したように振り向いて、君を抱き寄せ長いキスをしたでしょう。2人の身のこなしが流れるようにスムースなので、ちょっと妬けたな。2人とも決まっていたし。君も役者だな」
 「どうして妬けるの?」
 「ベッドの上なら、裸で抱き合ってキスしているのを見てもなにも感じないと思う。オンの状態だから。約束ごとだから。着替えてもう部屋を出ようとしているときはオフの状態だよ『部長ちょっと待ってよオンとオフをわきまえてよ!』といった感じ。夫としての聖域、侵されているような不思議な感覚かな。しかし、君の後姿を眺めていたら、2人ともいいセックスをしたのだと思うようになったよ。キスが終って、部長が帰ろうとすると『ちょっとお待ちになって』とか言って、テイシュボックスのところに行ってから、娘のように小走りに戻り、部長についたルージュを拭いている君を見て、響子を開く合鍵みたいなものを部長が手に入れてしまったのかなと心配になってきたけど」
 長い沈黙のあと、向こうをむいたまま妻は感慨深げに語り始めます。
 「そうね、1年前、ここで部長に私の暗証番号を盗まれたかもしれないわ。・・・この前の飯田橋とき、あなたが浴室に行ったあと、しばらくして部長がトイレにいったの。・・・戻ってきてふすまを閉めると『ご主人湯加減はどうかな』といいながら私の後ろを通る時、いきなり両肩をつかむの。・・・そして『僕も奥さんの中に入りたい』とか哀願するようにいうのよ・・・」
 私は相槌をいれることもなく、身動きを止めて聞いています。
 そんな私の気配を感じて、私がショウゲキを受けたとでも思ったのか「厭ねわたし、あなたに乗せられてこんなことを話して。まだ酔いが醒めないのよ。少し眠らせて」と上掛けを引き上げます。
 「ねえー、こんな機会めったにないから話して。しらふでは話せないこともあるし」と慌てて妻を引き止めます。
 私の真剣な様子に負けたように、妻は話を続けます。
 「子供が母親におねだりするように、さっきのフレーズを繰り返すのよ耳元で、部長。『部長さん、だめですよ。人が来ますよ』とたしなめたのに、言うことを聞いてくれないの。・・・ことばの優しさと裏腹に強引なのよ」
 「もっと具体的に話してよ」
 「逃げようとして体をひねったら、後ろに引き倒され、仰向けになったところを半身なって押さえ込まれたの」
 「拒絶の意志を伝え、抵抗したのだろう?」
 「それはそうよ。でも大きな声を出すわけにいかないしでしょう。・・・そのうち『人がこなければいいの?』といいながら、右の膝頭を手のひらでギュウーと掴まれたら、体の力が抜けてしまってもう抵抗する気力もないの。・・・あとは部長にされるまま」
 「どうしてそうなるの」
 「さっき、1年前、ここで部長がバスルームに入ってきてびっくりしたことをあなたに話したわよね?」
 「ウン、少しショックだったけど」
 「いろいろ遣り取りがあった後、私がシャワーを使っているとき部長に膝頭をつかまれたら全身の力が抜けちゃって立っていられなくなったのよ」
 「部長が君の前に膝まづいていたとしたら、それだけが原因かね?立っていられなくなった」
 「バカねえー、あなた。まじめに聞いていないのなら止めるわよ、わたし」
 「ゴメン、つい話しに引き込まれちゃって。・・・こっちを向いて話してよ」
 妻は仰向けになると、天井の1点を見つめながら話を進めます。
 「飯田橋のときも同じよ。これ、あの時の感覚と同じだとすぐわっかたの。もうこの人には敵わないと観念しちゃったのね。アタマのどこかできっと」
 「催眠術をかけられた感じ?」
 「経験がないからわからないわ」
 「結果として盗塁されたわけだ。そして」とさきを促します。
 「2言、3言何か言うと、じーとしたまま動かないの部長さん。あんな明るいところで恥しかったわあー」
 「ネコが捕らえたネズミをイタブッテいるみたいだね。・・・君はどうしたの?」
 「目のやり場がないから、目を閉じて私もじっとしていたわ」
 「重苦しい沈黙の世界だね。・・・どのくらい続いたの?」
 「5分くらいかな、あなたの気配がしたら止めたけど」
 「『奥さん、お湯も豊富で結構な湯加減でした』なんて言うのよ耳元で。あなたがきてからは、道化役から本来のご自分に見事に切り替えることができるの。部長さん、役者よ」と讃えるようにつぶやきます。
 「響子、もうひとつだけ聞いていい?このまえ終って身繕いをしていたら『いい風呂だから、汗をながしてから帰りなさい』と部長に言われ断れなくて入浴したよね」
 「ちょうど湯加減もよくて立派なお風呂ね。部長さんが熱心に勧めたのも分かる気がするわ。私始めてよ、檜造りの浴室」
 「しばらくして、部長が入っていったでしょう。・・・最後の仕上げをして差し上げたの?」
 「バカねえー、あなた・・・」
 「さっきもそうだが『君のバカねえー』はそんなこと当たり前でしょう。そんなことをするわけないでしょう。のうちどっち?」
 「言わぬが花ということもあるわよ」
 「ところで、部長とこうなったことについて後悔していない?」
 「その辺のところは上手くいえないのだけど、ここまで来るのに私の心のささえになったことが3つあるの」
 「聞かせて」
 しばらく間をおいて、妻は自分の考えを語りはじめます。
 「1つはあなたの妻であり2児の母である私が、悪い方向に向かうようなことを興味本位で進めるはずがないという信仰に近い確信ね」
 「響子、信用してもらって嬉しいよ。ほんとに」と妻の手を握ります。
 「もうひとつは『人に迷惑をかけなければ夫婦の間にタブーはない。人生様々だよ』と言ったあなたのことばね」
 「もうひとつは」
 「写真とはいえ私を見て、私をほしいと求められたことね、部長があなたに」
 「そして結論は?」と答えを促すと「あなたを信用してよかったわ。・・・でも誤解しないでね。他の方とこんなこと、もう金輪際しませんからね」
 「部長とは?」
 「部長さんのオファーがあれば、1年に1度ならいいかなという感じよ」
 「七夕婚かロマンチックだね。この1年で何か変化があった?」
 「そうねえー、よく夢をみるようになったの。顔見知りの男性との。求められるのよ、かなり強引に。・・・後味は悪くないのだけど、部長とのことがトラウマになっているのかしら。あなたフロイトを持っていたわね」
 「持っているよ。夢判断かい。・・・その他は?」
 「あるけど不謹慎なことなので止めときます。」
 「僕と部長とのセックスの違いは?」
 「あなたは夫であるとともに子供の父親よね。子供の成長につれて夫より子供のお父さんというイメージが強くなってくるの。『逆は真なり』であなたもわたしをそう見ているはずよ」
 「そういわれればそうだね。子供の前では『お父さん』と呼ぶことが多いよね」
 「そんな意識がどこかアタマの片隅にあって、毎日朝食をとるような生活の1部になっているのよ、私とあなたのセックスが。それはそれでいいの。そうあるべきなのよ」
 「なるほど」
 「私から見れば部長は男よ。1年に1度食べるか食べられないかのデイナーよ。でもどっちかを選べといわれたら、毎日の朝食よね」
 「それはそうだ。酔うと雄弁になるね『お母さん』」
 「少し眠りましょうよ。お父さん」
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2022/06/01 (Wed) 16:57:10

⑨妻とのダイアログⅢ
 「⑥ソフトレイプされた妻」の後日談です。
 12月に私の携帯に妻から「2人で忘年会をしよう」との申し入れがあった。
 2人での忘年会など初めてのことなので、少々驚いたが、銀座の某ビアーレストランに予約を入れました。
 「いい雰囲気のお店ね。私はモーゼルをお願いして。あなたはビール?」とご機嫌の妻に気をよくした私は、ワインリストから値頃のボトルを注文します。
 しばらくしてワインが運ばれてくると、妻はおもむろにジャケットを脱ぎそれを脇に置くと、白いカシミヤのセーターからバランスよく自己主張しているバストが、テーブルのともし火を受けて妻の顔に映えます。
 2人は過ぎし1年の出来事を回想しながらグラスを傾けます。
 最後の料理が運ばれてくるころには、アコーデオンの伴奏に乗って、民族衣装を身にまとった女性が歌うドイツ民謡が流れています。
 ときには『ローレライ』や『故郷を離れる歌』を店内の客と唱和しますが、妻のメゾソプラノはよく通り、2人のリードボーカルがいるようです。
 「声が出ないわ」
 「そうでもないよ」
 「毎週、教会で賛美歌を歌っているからわかるのよ。・・・あなたビールはいいの?」とグラスを置きながらいいます。
 「今日は響子が半分飲んじゃったから、1杯もらおうかな 」と大ジョッキをオーダーすると「私もこんなにいただいたのはじめてね。真っ直ぐ歩けるかしら?」と驚いたように目を輝かせます。
 「君からのデートの申し込みなんて滅多にないからね。どういう風の吹き回しかと思ったよ。・・・なにかいいことでもあったの?」とからかうように言うと、妻は1瞬戸惑いを見せますが、すぐほっとした表情にもどります。
 そして胸元の繊細なゴールドのネックレスを左手で持て遊びながら、そこから視線を上目つかいに私に移すと「今日誘ったのは、あなたに謝りたいことがあったからなの・・・」と呟きます。
 「なにを?」と聞くとしばらく逡巡してから、改めて意を決したように「間違いを起こしちゃったの。・・・男の人と1度」と申し訳なさそうに自分の指先を見つめながらいいます。
 私はそのことばに内心深く動揺しますが、店内の喧騒のためよく聞こえなかった振りをして「なんだって?」と耳に手を当て聞きなおします。
 「与田さんと間違いを起こしちゃったの。・・・書類をお届けしたときよ」と身を乗り出し、私の耳元に口を寄せるようにして囁きます。
 私は自分のこの場でとるべきアクションを考ながらも、与田の名を耳にしてほっとしますが「こんな話ここではまずいよ。とにかくここを出よう」と言うと妻は素直に従います。
 2人は近くのカラオケルームに入ると、ビールとコーラを注文します。
 「何か1曲歌ったら。とりあえず」と余裕のあるところ見せると、妻もほっとしたようすで「そうね、あなたとこういうところに入るのは何年ぶりかしら?」といいながら立ち上がると、ビートルズの『HELP!』を歌います。
 歌い終わると不確かな足取りでソファーに戻り「息継ぎが苦しいの。だめね、私」とため息をつきます。
 「今の心境?うまいよ。君がこんな歌を唄うなんて知らなかったな。発音も良いし・・・ 」
 「最近テレビのCMで流れているのよ・・・」
 「1曲唄って落ち着いたろう?さっきの続きを話してよ。僕にも責任が有りそうだし。・・・どんな話でも冷静に聞けると思うよ」と妻の肩に左手を回しながら語り掛けます。
 「私が軽率だったの。・・・与田さんの部屋まで入ったのよ、私。あなたに頼まれた書類をもって」
 「ホテルの?」
 「そう。ロビーでお渡しするつもりでいたのよ。でも『部屋まで来てください』と譲らないのよ、与田さん。時間に追われていたし、顔見知りなので私に油断があったのね。きっと・・・」と私に寄り添うようにして語ります。
 「あなたに電話で与田さんに書類を届けるようにいわれたとき、嫌な予感がしたの」
 「どうして?」
 「何年かまえ、大阪で与田さんと食事の後、3人でカラオケに行ったわよね。・・・そういえばあれ以来ね、あなたとカラオケに来るの。・・・5年位前かしら。私が『フィーリング』を唄い始めるとあなたが部屋を出ていったのよ。タバコでも買いに行ったのね。私は与田さんを見つめながら歌ったわ。歌詞はアタマに入っているし」
 「そういうことがあったね。あれ以来かね」と驚いたようにうなずきます。
 「歌い終わって席に戻ると、与田さんが『奥さん、僕のために歌ってくれたの。感激だね』と言って隣に座るの」
 「そして『奥さん、歌がすごく上手いですね。大人の歌ですね。しびれました』といっていきなり乳房を右手で掴むのよ」
 「君も痺れたりして」とあいのてをいれ、妻をリラックスさせるように務めます。
 「私は大人の対応をしたわ。褒められたことも嬉しかったし、少し酔っていたのよ。座興の歌で与田さんを挑発したのも事実よ。・・・結果として」
 「どんな歌なの?」
 「外国の曲よ。日本では中西れい訳詩で山本潤子がカバーしているわ」
 「僕のために歌ってみてよ」と関心を示すと
 「もう若くないから同じようにはできないわよ・・・」といいながらジャケットを脱ぐと選曲して歌い始めます。

      『ただ一度だけの
       たわむれだと 知っていたわ
       もう 逢えないこと
       知ってたけど 許したのよ
       そうよ 愛はひとときの
       その場かぎりのまぼろしなの
       Feelings woh woh Feelings
       woh woh Feelings
       泣かないわ
       今 あなたと私が
       美しければ それでいい
       そうよ 愛は男と
       女が傷つけあう ふれあいなの
       今 あなたと私が
       美しければ それでいい
       Feelings woh woh Feelings
       woh woh Feelings
       泣かないわ
       Feelings woh woh Feelings
       woh woh Feelings
       泣かないわ』

 「上手いねー。大人の詩だねー。歌い掛けられたら男ならしびれるねー」と与田氏と同じ台詞を口にすると「からかっているのね?」と拗ねたような声で呟きます。
 「違うよ。与田氏の気持ちが僕にもわかるということを言いたかったの」と立ち上がり、妻の手をとりソファーに導きます。
 「歌の上手いのは分かっていたが、本当に情感がこもっているよ。特にさびの部分がハスキーになって色っぽいな」と本音をいうと「アルコールと年のせいよ」とアタマを私の肩にあずけます。
 「そのような伏線があった上での『嫌な予感』は意味深長だね。僕に言わせれば」
 「どうしてなの?」と私の顔をのぞきこみます。
 「電話で君に頼んだとき、そんな事実が過去にあったことをどうして言ってくれないの?」
 「言うなら5年前にあなたに打ち明けているわよ」
 「何故黙っていたの?」
 「あなたがお世話になった取引先の方でしょう?そんな話をしたらあなたのお仕事にさしさわりがあると思ったの」
 「それでいろいろの場面を想定して出かけたわけだ」
 「女が男の方と会う場合はそういうものよ。お茶とか食事に誘われるとかね」
 「ことの始まりは?」
 「帰り際に呼び止められ、いきなり後ろから抱きつかれたの・・・」
 「そんな予兆あったの?」
 「ゼンゼン。だからびっくりしたわー。声が出ないのよ。カスレチャッテ。手を振り解こうとしたら、両膝を着いて脚にしがみつかれたのね。そして、いろいろなセリフで言い寄るのよ」
 「たとえば?」
 「そんな事言えないわ」
 「もみ合っているうちにバランスを崩して、側のソファーに仰向けに倒れたの」
 「倒されたのかい?」
 「分からないわ。夢中だったから。ただヒールの高い靴を履いていたのね」
 「君はあらたまった席には、何時もハイヒールを履くね」
 「そうかしら?・・・あなたよく見ているわね」
 「それから?」と先を促します。
 「頭を打ったから、アタマの中が真っ白になったわ」
 「危ないね。まったく」
 「でも、与田さんが床に倒れないようにフォローしてくれたのよ」
 「なるほど、白馬の騎士だね」
 「気がつくと眼の前に与田さんがいるの」
 「また迫られたわけだ。殺し文句で」
 「逃げ場がないから必死で抵抗したのよ」
 「そのうち『キスだけでいいから』と言うの」
 「なるほど敵は値切ってきたか」と私がうなずくと「それでもわたし許さなかったのよ」と私の反応をみます。
 「簡単に許したら響子の値が下がるからね」
 「からかわないでね。恥を忍んで告白しているのよ・・・」
 「そうだったね」と妻を抱きよせます。
 「男の人ってああなると、もう押さえがきかないのね。そうなの?」
 「誘導尋問かい?経験がないからね僕には。・・・ただ1般論で言えばね」といってから、私はビールを口にし、1息いれてから話を続けます。
 「サッカーを例にとるよ。DFをかわしてゴール前でキーパーと1対1になったとするよ。そのとき幸運にもキーパーが滑って仰向けに倒れ意識が朦朧としているとしたら、キーパーの不運に同情してゴールを外す男はいないよ。・・・ただ得点の仕方はそれぞれ違うよ。思いの丈をぶつけるような弾丸シュートでネットを大きく揺らす男。ドリブルでボールを運び、ゴールの片隅に申し訳なさそうにやさしく入れる男。キーパーにとって自陣のゴールは自分のカラダの1部だからね。ドリブルだろうがシュートだろうが球がゴールに入るのは辛いよね」と妻の同意を求めます。
 「私をキーパーに見立てて、あなた相変わらず例え話がお上手ね。感心するは本当に」とほめ殺し気味に言うと、グラスのコーラを飲み干してから「ちなみにゴールは私のなんなの?」とまじめな顔をして問いかけます。
 「・・・文字通りに言えば最終目標、文学的表現なら『狭き門』とか『奥の細道』かな?要するに響子の突詰めた所、エッセンスだよ」
 「抽象的でよく分からないわよ」
 「響子が大切なお客様をおもてなしするところ。家でいえば奥の間かな。与田氏が『奥の間は諦めるから、せめて次の間に通して』と泣き付いているところだろ」と話を本線に戻します。
 「そうなの。ダメといってもご自身を抑えることができないのね」とため息をつきます。
 「いろいろなステップを切って、フェイントをかけ、防戦に追われている君を翻弄している様子が目に浮かぶよ」
 「想像力がゆたかね。その通りだわ。本当に大変だったの」と嘆息します。
 「初めての経験だし。気は動転しているし」とフォローすると「あなたって優しいのね。・・・私シアワセだわー」と涙をうかべます。
 「響子、酔うと情緒が不安定になるね。辛かったらもういいよ」
 「今日はそのつもりであなたを誘ったのよ。この前2人で話し合いをしたでしょう。あれで気持ちが随分楽になったの。話をさせて」と先にすすみます。
 「思い通りにならないと、いきなり両手で私のコメカミを押さえつけ強引なのよ」
 「手ごわいキーパーに、敵はゴール直前でハンドという反則を犯したか!」とわたしは場の雰囲気を変えようと努めます。
 「クチビルを奪われ続け、精も根も尽きたのね。わたし」
 「既成事実をつくられちゃうとね。・・・それで?」と妻を見つめます。
 「こんな姿を誰にも見られたくないから、ドアのロックをお願いしたのよ」
 「聞き入れてくれたの?」
 「ええ、与田さんが離れると、私はこれから罰を受けようとしているのだわ。与田さんは神の遣わした下僕なのだと思ったの。・・・そうしたら涙がでてくるのよ。とめどなく・・・」
 「どうしてそう思うの?」
 妻はしばし想いをめぐらしてから答えます。
 「あなたに頼まれ、部長さんとのことがあってから、いつかきっと神罰を受けるような漠然とした不安みたいなものがあったの・・・」
 「なるほど。・・・それで神の下僕はどうしたの?」
 「戻ると、私の涙をみて驚いたみたいね。やさしく扱ってくれたわ」
 「それで安心して次の間にお通ししたのだね?失礼のないようにオモテナシできた?」
 「女としての手順を踏んでからよ」
 「・・・」
 「女って不思議ね。・・・寝かされちゃうと脳の思考回路が変わるのよ」
 「受身になるの?」
 「受身というか、情緒的になるの。視覚の問題もあるのね、きっと」と過去を思い起こすようにしみじみと語ります。
 「私が下から見上げたことのある男性は貴方と部長さんとお医者さんぐらいよ」
 「うまいこと言うねー。与田氏もその栄誉に浴したわけだ。情緒的には先例に準じて扱わないとバランスがとれないよね」
 「・・・?」
 「診察を受けていると思えばいい分けだ。ソファーで!」と感心して見せると「そのお医者さんが、ここを診察がしたいといいだしたの。もちろん無言でよ」と妻は胸を押さえ私の話に乗ってきます。
 「この上から?」と妻の胸に手をやると「あなたバカね。ホテルの蜜室よ。キスをしながら相手の手が遊んでいたわけではよいのよ。ブラウスのボタンを外すとか同時進行しているのよ。サインを出しているのよ」
 「君はどうしたの?」と驚いてみせると「与田さんの舌をオモテナシするのに精1杯よ」と今度は私をからかいます。
 「響子、言うねー。君も・・・」とビールを口にして呼吸を整えます。
 「長いキスが終ったとき、胸元はほぼ開放されていたわ・・・」
 「いよいよ先生の触診が始まるわけだ」
 「ちょっと待って。・・・さっきも言ったけどあなた天才ね!比喩の」と驚いた顔をしてから話を続けます。
 「キスしているときは、お互いに目を閉じているからそれほど抵抗はないの。たわらにひまづかれて、乳房を手で愛撫されているときなんて、大人のお医者さんごっこみたいですごく恥かしいのよ、あなた。くすぐったいの」
 「気持ちわかるな。服は着たままだし」
 「部長さんのときみたいに、ベッドでならまた別よ」
 「そうオンの状態だからね」とフォローします。
 「わたしを見下ろしながら、表情を観察しているの。左手で乳房を愛撫しながら。わたしの戸惑う様子をよ」
 「右手は?」
 「だめもとで色々なところに奔放にね。サインを出して私の反応を見ているの」
 「奥の間に入りたいって?」
 「私が目をつぶって無表情でいるから、何か言わせたいのよ」
 「そこはだめだとか、ヤメテとか?」と話を誘導します。
 「そう、私の表情やカラダに動きを出すために、右手がイタズラをするのね」
 「ここと思えばあそこと、与田氏は老練だな」
 「そのうち乳房を口にふくまれたのよ」
 「君の泣き所だな。反射的に与田さんのアタマを抱きしめたの?」
 「ウン。弱点を見破られて、あっというまだったわ」
 「部長も知らないのに。5年前に情報を盗まれた?」
 「意地悪ねぇー。ただ手で触られただけよ。与田さんも満足したのね。約束どおり放してくれたのよ、1旦は」
 「1旦?」
 「そうなの。わたしが身なりを整え、靴を履こうとしているとまたソファーに押し倒されたのよ」
 「なんで?」
 「『我慢出来ない』って」
 「与田氏の気持ちは理解できるな。自分が同じ行動にでるかどうかは別にして。君はどう?」と妻の見解を求めます。
 「あなた、当事者のわたしに聞くのは酷よ。・・・ただね」といいながら私のグラスにビールを注ぎます。
 「与田さんが後で言うのよ。靴を履きながら私が自分の時計を見たと言うの」
 「ウン」
 「2時からバザーがあるから、時間を気にしていたかもしれないわ。でもわたしは時計を見たという覚えはないのよ。その時の私の横顔が切なそうで、私にそういう思いをさせる対象を勝手に想像して嫉妬したというのよ」
 私は妻から与田氏の上記の述懐を耳にして、これはピロートークだ。
 あの日、電話で与田氏が「冗談ですよ。奥さんによろしく」と言ってきたことが冗談でないことを確信します。
 そして私が目にしていない部分を、ここで妻に語らせてはいけないと思います。
 与田氏に確かめてからだと。
 「ただ、トイレに駆け込みたかっただけかもしれないのにね。靴を履き終わった後で、おもむろに時計に目をやれば、差し迫ったことにならなかったのかな?与田の論旨は。・・・美しいものはどのアングルから見てもそれぞれに趣きがあって味わい深いものだよ」と妻を慰めるように先を促します。
 「もう圧倒されちゃって。女としてのカタチをつくるのに精1杯なの」
 「降伏の手順を踏むという意味?」
 「あなたはいつも核心をつくのね・・・」と私をにらみます。
 「殺し文句で1番効いたのは?」
 「『奥さん!1度だけ』のくりかえしかな」
 「押しの1手か。単純で明解なのがいいね。それできみはどうしたの?」
 「『シャワーを使わせて』とお願いしたの」
 「条件付降伏を申し入れたわけだ」
 「しょうがないでしょう。収まりがつかないのよ」
 「だから君は『世間知らずのお嬢さん育ちだ』といわれるのだよ」
 「どうして?」とちょっと不満そうにいいます。
 「君のいっていることは『こんなところでは大したオモテナシも出来ませんから、取り敢えず1風呂浴びて寝室でいかが』という意味にとられてもしかたがないよ」
 「どうすればよかったの?」
 「・・・申し出を聞き入れてくれた?だめだろう?」
 妻は小さく頷くと「本当にどうしてわかるの?」と驚きます。
 「『我慢できない。何度言ったらわかるのだ』ぐらいに高飛車なのよ。与田さん。男の人ってそうなの?そうなるの?あなたと部長さんだけしか経験がないから想像がつかないのよ」と涙ぐみます。
 「どうせ許すなら美しく与えたかったのだね?さっきの歌のように」と妻を抱き寄せしばらく静寂なときが流れます。
 「響子『高飛車』という将棋のことばが出たからいうけどね。ちょっと長くなるけど聞いてくれる?」
 「・・・」
 「君がソファーに倒されたときに、2人の将棋は詰んでいると思うよ。勿論、与田氏の勝ちだよ。彼も勝利を確信していたと思う。彼の関心事はいかに美しく終局させるかということね。言い換えれば厳しい手で最短の手数で相手玉を取ることね。余談だけど、高校の時の数学のテストで、ある問題の解答式が僕のが1番短かったのよ。先生がみんなの前でほめたよ『美しい、エレガント』だって」
 妻はただ黙って聞いています。
 「彼も自分の中に美しい棋譜を残したかったのだよ」
 「キフ?」
 「楽譜、スコアーというの英語で?将棋で言えば戦いの記録かな。君は音楽に詳しいからいうけど『ベートーベンの第9』ね」といって腰をずらすと、妻と向かい合います。
 「第1楽章で与田が主題を提起して、第2楽章でそれを展開する。それを受けて第3楽章で君の葛藤というか苦悩が切々と語られ、第4楽章で2人はひとつになって歓喜の歌を高らかに歌い上げる、といった構図が目に浮かぶね。・・・ちなみ僕は女のすすり泣くような第3楽章が好きだがね」と酔いのためか自分たちいる空間が幻想的に見え、妻の顔も他人のように見えて心がときめきます。
 「驚いたわー、あなたクラシックに詳しいのね。私もあの部分が1番好きね。第9のなかでは。人間の苦悩とか迷いを表現しているのね。でも何回もきかないとそういう境地にはならないものよ」
 「実を言うとね、ベルリンの壁崩壊のとき、現地からの中継を見ていたらBGMとして流れていたのよ。物悲しい旋律でね。画像とすごくマッチしていて。そのうち第4楽章に移ったから分かったわけよ、白状すると」
 「それでもすごいわ、そういう捉え方のできるあなたの感性」
 「それで第3楽章から2人の第4楽章にスムースに移行できたの?」と話をもどします。
 「女としての体裁というかカタチをつくらせてもらいましたから、あとは流れに身をまかせたわ」
 「体裁とかカタチって、殺し文句と腕力で徐々にカラダに火をつけられてメルトダウンし始めたこと?」
 「そんなことは貴方に教えたくありません」と1言1言を区切って言います。
 「ソファーの上で?」ときくと、頭をふり「カーペット」と答えます。
 「2人とも着たまま?」と聴くと頷きます。
 「君の感想を聞かせてよ」と言うと、しばらく考えてからしみじみと語り始めます。
 「終ってね。与田さんの体重を受け止めているときそっと目を開けたの。・・・まだ動悸は収まっていないのよ。窓の外は抜けるような青空でお日様が眩しいの。・・・そのうち涙が出てくるのよ」
 「ゴールネットをゆらされた余韻かい?」
 「そうじゃないの。神がこの部屋のどこかでご覧になっていると思ったの。私が天罰を受けた様子を」
 私は1瞬、虚をつかれハットとしますが「不覚をとって僕に申し訳ないという意味合いもその涙にはあるの?」と彼女の反応を見ます。
 「それはそうよ。あなたの感性ならお分りのはずよ」
 「分かっているけど、君の口からね・・・」
 「しばらくして与田さんが顔を上げる気配がしたので、目を閉じたのね。そしたら目尻から涙がこぼれるのよ。カラダを起こしてそれに気がついた与田さん、優しかったわ」
 「そういうのを同床異夢というのかな?30女の涙は複雑だからね。どのように優しかったの?」
 「1旦言葉にすると壊れてしまう事ってあるでしょう?」
 「5年まえの君の歌を覚えていて、涙をみて感激したのかな?・・・それで2人は美しかったの?」と先の歌詞に掛けて問います。
 「あなた流に言えば与田さんは自分の思いをエレガントに遂げましたからね」
 「それで『ただ1度だけのたわむれ』ですんだのかい?」
 「どうして?」
 「今までの流れを聞いていて、なんとなくね」
 「あなた、感がいいのね。・・・神罰はこんな生易しいものではなかったわ」とため息をつきます。
 「響子、時間も遅いし続きは今度きかせてもらうとして、最後にひとつだけ聞いていいかな?」
 「どうぞなんなりと」
 「受け留めたの?与田氏の証しを」
 しばらく考えたあと「許したのよ。・・・与田さん、ハンカチを握りしめていたけど。・・・美しいフィナーレを迎えたいし」
 「2人が?・・・部長にも許してないのに?」
 「あなた、ちゃんと計算しているからだいじょうぶよ」というと立ち上がります。
 私はハンガーから妻のコートをとり「こういう痴的な話はお互いある程度IQがないと成り立たないからね。そういう意味でも僕はシアワセだな」といいながら肩に掛けます。
 妻は袖に手を通しながら「知的なお話?」といぶかしがります。
 私は妻のコメカミを両手で押さえ、強引こちらを向かせ「エッチのチだよ!」というと、照れ隠しに乱暴にクチビルを重ねます。
 今まで立ったままキスをした記憶をたどりながら。
 残念ながら思い出せない。
 あったのか、なかったのか。

*余談*
 銀座の山野楽器店で山本潤子「Junko Yamamoto The Best」というタイトルのCDを購入した。
 2人のあいだでは与田氏のイニシャルをとって“Yテーマ”とよんでいます。
 たまに房事のBGMに使うと具合がいいようです。
4:col :

2022/06/01 (Wed) 17:09:19

⑩与田氏、妻を語る
 「⑨妻とのダイアログⅢ」の続きです。
 年が明けてから大阪に与田氏を訪ねました。
 電話で前もって事の次第を伝えると「1年近くたってから?・・・さすがにアタマがいいですね。奥さんは。・・・賢いという意味ですよ。・・・いつでもいらっしゃい。奥さんを肴に飲みましょう」と屈託のない様子にほっとして電話を置きます。
 当日は市内で所用を済ませてから、大阪駅で18時に待ち合わせ駅裏にある大衆焼肉店に案内されます。
 店内はまだ客もまばらで、前後を低い衝立で仕切られた小上がりに通されます。
 お酒を熱燗で注文すると、与田氏は上着を脱ぎ、裏を表にして小さくタタミながら「あなたを煙に巻くつもりはないけど、こういう所もたまにはいいでしょう。偉くなるとこのような店とも縁遠くなるし」と独りごとのように言うのを受けて「サラリーマンには気の置けない赤提灯が1番ですよ」とフォローします。
 「ところで、新しい名刺もらえる?」
 「あっ!すいません。遅れまして。・・・お陰さまで」といいながら名刺を差し出すと1瞥した後、丁寧にそれを名刺入れに収めます。
 「あとはオンボードですな」
 「なかなか、私なんかには」と顔の前で手を振って否定すると「志は大きく持たないと。・・・能力は申し分ないし『一豊の妻』はいるし」とニヤリとします。
 酒が来ると私を左手で制しながら、徳利をとり2人の盃に酒をみたします。
 「私も暮れに辞令が出てね。・・・広島の責任者としてね」
 「そうですか!それはおめでとうございます」
 「3,4年で本社に戻れないと、そのまま上がりのポストだからね」と心なしか寂しげです。
 「ともかく再会を祝して」といってから盃をあけます。
 そのあとは業界の情報や人の消息などの話題で30分ほど経過すると、客席も半分ぐらい埋まり、遠い席の客が煙で霞んで見えるそれらしい雰囲気になります。
 ただ、アルコールがまだ進んでいないのか、人数の割には静かです。
 私は最終の『のぞみ』で帰る予定なので、本題を切り出すタイミングを見計らっています。
 耳を澄ますと衝立の後の話も聞き取れるので躊躇していましたが、大ジョッキが運ばれてきたのを機に話を切り出します。
 「与田さん、昨年お願いした車の件ですけど。・・・どうでしたか?」と与田氏の得意とする分野に話題を振ります。
 1瞬、怪訝な表情を見せますが、すぐ了解したようで「ご依頼の件ね?電話で概略はお話をしていますよね?」と真顔でいいます。
 「変な癖がついたのではないかと、ご心配のようでしたけど」
 「異状ないですか?」
 「あなたもご覧になったように、加速、制動、ハンドル、スプリング、足廻り、ホーン等まったくね。潤滑油も十分だし。以前にくらべるとエンジンの音が変わったようだし。ハンドルの遊びが小さくなったような気がして・・・」
 「山本さんが大事に乗りすぎて、車の良さを引き出していないよ。これある意味車にとって不幸なことでね。・・・第1にハンドルの遊びが小さくなったということは、それだけシャープな反応をするわけ。言い換えればスポーツカーに近かづいたわけで歓迎すべきことじゃないですか」
 「・・・」
 「山本さん、誰かに車を貸したことがありますか?」
 「ええ、1度だけ取引先の部長に」
 「その人が東名で目1杯ぶっ飛ばしたのかな。・・・私も乗ってみてそんな誘惑に駆られたな。・・・レスポンスが抜群なのよ。アクセルを踏み込むと車体が沈み込むように加速するけど、ドライバーにショックはないのよ。タイヤと緩衝器がいいのか、車体の剛性がしなやかなのか」というとジョッキを口に運びます。
 「乗っていてね、オーナーさんが羨ましくてね。・・・よく乗るの?」
 「週に1度あるかないかですね。平均すると月に2、3度かな。それもごく近場ですけど」と応じます。
 「長距離を乗って加速・減速をしながら高速を飛ばさないと、あの車のよさは分かりませんよ」
 「法定速度厳守で1般道でもいつも煽られています」と笑います。
 「それじゃー、追い越しとか進路変更なんか滅多にしないのでしょう?」
 「そうですね、もっぱら正面を見て安全運転を意識していますね」
 「それじゃー、あの車の良さを堪能できないね。・・・ギィヤーをバックに入れてもスムースだし」と真剣な眼差しで私を見つめます。
 私はバックという言葉に1瞬戸惑いますが、冷静に対応します。
 「そうですか。それは、・・・どうも」
 「オーナーさん経験ないの?」
 「・・・車が嫌がるのですよ」
 「ちゃんと手順を踏んでないのかな?2速からいきなり入れようとすると。・・・それとも人をみるのかね?・・・馬は乗り手の技量を瞬時に見分けて対応するらしいけど」と私をからかうように言うと、ロースターからヒョイと焼肉を摘み上げ、口にしてから火の加減を調節します。
 「30分くらい運転して車の性能の良さに感激してね。もちろん外観も抜群なのは言うまでもないよね。そうしたら『オフロードに乗り入れてこの車の突き詰めた所を知りたい』という衝動に駆られてね。あなたの目を盗んで乗り入れたわけ。このチャンスを逃すと2度とないからね。・・・この件は先日電話をもらった時打ち明けたよね」
 「・・・」
 私はだまって頷きます。
 「車は私の意図を知るとびっくりして、あばれましたがね。強引にハンドルを押さえて。泥で汚れるといけないからアクセサリーは全部はずしてから、ドライバーもごく身軽になってね」
 「・・・」
 私はビールをゴクリと喉に流し込みます。
 「さすがにオフロードを初体験の車は悲鳴をあげたよ。車に掛かる負荷が凄いからね。斜面を流されないようにブレーキを踏みながら、だまし、だまし窪みまで降りたのよ」と両手を前に出すとそれを交互に上下させながら話します。
 「目の前はかなりの登りでね。ギヤーを入れようとしてもなかなか入らないのよ」と与田氏は左手を膝に下ろすと拳をつくり前後に揺すります。
 「困りますねえー。・・・ベテランドライバーがどうしたのですか?」と私は焼き上がった肉を与田氏の皿に移すと、与田氏はアタマを左右に振り「車がイヤイヤをして抵抗するのよ。こうなると私も意地でね。闇雲にね」と両手でハンドルを握る動作をしながら、コブシを前後に動かします。
 「そのうちはずみでツルッと入ったのよ。・・・ギィヤーボックスのオイルも適温、適量でね」
 「ひとまずテストドライバーとしての体面を保ったわけですね?」
 「それがそうは行かないのよ。普通はこういう状態になれば車さんもなんとか折り合いをつけてくれるよね。・・・30分前にはしっかり噛み合っていたのだから」
 「だめですか?」
 「ソフトウエアーをいきなり強引に外したのがご機嫌を損じたみたいでね。・・・外そうとするわけよ、ギヤーを。カラダを捻ったり、せり上がったりして」
 「すくい上げた鯉が網から逃れようとしているみたいですね」とあいのてを入れると与田氏はビールを1口飲んでから「山本さん、ヘラ鮒釣りやりますよね。掛かると竿が満月のようにしなって、穂先が前後左右に揺れ、手元にバンバン手応えがあって・・・」
 「やみつきになりますね」
 「分かりますよね!山本さんの奥さんと私のシュチュエイションがまさにそれでね」
 「竿先にビンビンきますか?若鮎のようですね」
 「もうたまらんですよ。・・・奥方は必死で気がつきませんがね」と与田氏の口調も熱を帯びてきて、いつのまにか相手の主語が車から妻に代わっています。
 「なるほど・・・」
 「そんなやり取りを味わっていると、おとなしくなってきたので油断したのね。急にカラダを捻られたらバレちゃって」
 「鮎が跳ねたわけですね。・・・針が小さすぎたかな?」と私は主語を鮎に変えるように誘導します。
 「子鮎じゃないからね。・・・でも魚になめられてはいけないでしょう」と主語が変わりますが、またすぐ戻ります。
 「押さえつけて、奥さんの基礎にこんなに太いボルトを打ち込んでからね・・・」と剣道の竹刀を握るような仕草をすると「背中からこの様に手を回してね。奥さんの両肩をアンカーで固定したのよ」と鉄棒に逆手にぶら下がり、懸垂をするような格好をします。
 私は手にしたジョッキを置くと、大きく頷きながら思わず身を乗り出します。
 店内は既に満席状態で、話す声も聞き取りにくい状態です。
 「さすがに建築資材を扱う与田さん、もうがっちりですね」
 「あとはこうしてアンカーを締め上げれば、もう外れないでしょう?」と両腕でガッツポーズのようなカタチをつくりますが、与田氏の顔はもう酔いのため紅潮し、身振りを交えた語り口も滑らかです。
 私は妻の姿態が目に浮かびますが、冷静に対応します。
 「シーツにピンで留められた何かの標本みたいですね」と言うと与田氏は思わず吹きだし「さすが慶応出の山本さん、俯瞰しましたか、視点がちがいますなあー・・・」と感心してみせますが、すぐ「顔と4肢だけしか観察出来ない標本もねえー・・・」と言って私の反応を探ります。
 「押さえ込みで観念したのですか?」
 「そう。・・・1分ぐらいホールドしたらね。カラダの下で奥さんが柔らかくなってね。やっと折り合いをつけてくれたのだと感じたね」と目を輝かせます。
 「『電話をさせてください』というのよ。奥さん、かすれた声で」
 「・・・?これOKサインでしょう?」
 「そう、奥さんアタマがいいでしょう?」と言いビールを飲み干し手の甲で口を拭うと話を続けます。
 「でもね、この申し出を無視して身動きせずに同じ体勢を取り続けたのよ」
 「『奥さん、先に動きなさい。心の扉を開きなさい』というサインですか?」
 「さすがですね、山本さん」
 「無言で揺るぎない意思を示して、妻をコントロールしたわけですね」
 「山本さん『その気があるの?』と聞くと無言で否定します。僕には奥さんの顔は見えないのだけど『お願いですから電話をさせてください』とだんだん声がハナにかかり哀願調になって、涙ぐむ様子がわかるのよ。涙腺がゆるむとハナからも出るからね」
 「・・・」
 「普通の男ならここで折り合いをつけちゃうでしょう?でも奥さんの突き詰めた所、本質を探ってほしいとのご依頼でしたからね、あなたの」と言ってニヤリとします。
 「そうですね」
 「それでも取り合わないでいたら、なにもいわなくなってね。しばらくするとしゃくりあげる様に嗚咽するのよ」
 「シャックリみたいに?」と妻の泣きじゃくる顔を見たことのない私は、掛け値なしに驚いてみせます。
 「そう、そのシャクリ上げる時ね、ボルトに言葉で言い表せないようなテンションがかかるのよ」と与田氏は充血した目を細めて微妙な表情をしています。
 「リズムカルにね。奥さんの魂の律動がボルトから押し寄せる波のように私の脳にとどくわけ。・・・男って1般に発信しているときは強いのだけど、受信に専念している時はもうだらしないね。チャンネルを切り替えて、他のことをアタマに浮かべないと暴発しそうでね・・・」
 「分かりますよ」
 「奥さんの顔を見たかったけれど、見たらもう、もたないからね。僕の負けだから」と酔いが廻ってきたのか言い回しがワンフレーズ気味になってきますが、話が佳境に入ってきたので余計な言葉を挟まず、ただ頷いて聞いています。
 「それからしばらくしてね、シーツに投げ出されていた奥さんの両手が私の腰に回されてね。・・・それがゆっくり手探りするように、背中から肩先まで移動するのよ。指先を軽く立てて優しく。泣きじゃくりながら」
 「与田さんの思惑通りですね」
 「僕はもう自分の下唇を噛んでね。耐えたよ。・・・奥さんすごいね。アタマがいいね。そしてね、その手を後頭部から首に移動させるとね。・・・指先を1杯に開いて抱きしめるのよ、強く」と胸前で雑巾を絞るような格好をします。
 「奥さんの涙が僕のコメカミを濡らすのよ。自分のクチビルから血が滲み出ているが分かるのよ。味がするから。アンカーを解いて、サイドテーブルから奥さんのバックを取ろうとしたが、手が届かなくてね。奥さんのカラダを斜めに移動しようとすると協力的なのよ」
 「もう泣いていないのですね?」
 「そう、僕の意図が分かったのでしょうね」
 「ボルトは?」
 「そのまましっかりとね」
 「携帯を無言で渡したら、涙をぬぐい無言で受けとってね。・・・ぼくは電話の邪魔にならないように元の体勢になって」
 「アンカーを掛けて?」
 「そうだね。・・・奥さん左手で器用に携帯を操作していたよ」
 「見ていたのですか?」
 「見えないよ。操作音で分ります。・・・話し始めしばらくすると右手で私の頭を抱きしめて。あれ何でしょうねえー?」と与田氏は首を傾げます。
 「何でしょうねえー?・・・ボルトから電流でも流しましたか?」というとしばらく間をおいて「山本さん、ヘラブナ釣りの話ね。アタリすごく微妙ですよねえー。浮きがちょっと沈んだり、浮き上がったり。風を受けたように斜めになったりして」
 「繊細な浮きを使って、微妙な当たりをとる。釣り冥利につきますなあー。・・・のめり込むゆえんでしょう」と私は応じます。
 「奥さんが話し出すとその微妙な当たりが来てね、ボルトの頭に。ハエがとまったり、飛び去ったりしてムズ痒いような感覚が・・・」
 「きっと基礎の底が糸電話の膜みたいになっていて振動をボルトに伝えるのでしょう。・・・膜も異物を感知して大脳に伝え、右手が無意識のうちに与田さんの頭にね・・・」
 「さすがですね山本さん。・・・さっきも言いましたが受信中はつらいですね。今度は左側のクチビルを噛んで。電話長くてね。大事な約束があったみたいで申し訳なさそうに謝っていましたよ、奥さん」としみじみと与田氏は語ります。
 私の後ろの4人連れの客が帰り支度を始めたので何気なく時計をみると「泊まりでしょう?」と与田氏が聞くのでそれを否定すると、ロースターの火を落とし、空いた皿など整理すると、タバコに火をつけてから改まった調子で話しはじめます。
 「あなたとも長い付き合いで、随分、女談義をしたね。ほとんど聞き役で話半分に聞いていたでしょう。あれほとんど受け売りですよ。源氏物語にもあるでしょう。雨の夜長に男たちが自分の経験をまじえて女のタナオロシをするくだり。あれ最近まで日本の文化でね。男が3人集まると伝聞、仄聞をまじえて針小棒大に話が盛り上がってね。宴会というと猥歌を歌って。いまは情報の氾濫でそんなこともないでしょう・・・」となんとなく寂しげに語ります。
 「あの日、奥さんに『鍵を閉めて』といわれて立ち上がったとき、足が震えてね。ドアのところまで行っても手が震えてドアチェーンがうまく掛からなくて。見ていてわかったでしょう。話があったとき、ホラ話をした手前あとに引けなくてね。もちろん奥さんの魅力も捨てがたいし。ひとつ間違えれば身の破滅、家庭崩壊だからねえー。あなたが立ち会ってくれるという事がたよりでしたね、引き受けた。ビックマウスほどアースのホールが小さくて、気も小さいのよ。でもそんな気配少しも見せなかったでしょう。・・・だけど今迄の話はオブラートに包んだ部分もあるし、主観的に誇張した箇所もあるがほぼ事実ですよ。1幕目を見ているから分かりますよね」と言って笑います。
 「それにしても奥さん、いい女だねえー。1穴主義のあなたには分からないな。奥さん以外と経験がないのだから比較のしようがないもの。顔とかプローポーションのことをいっているのではないですよ。カラダの柔らかさ、寝間での何気ない身のこなしと声、それから手頃な身長と体重、これ見落としがちだが房事には大切な要素でね。流れを止めずスムースに女性を次のバリエイションへと誘うためにね。軽すぎると充実感というか有り難味が少しね。・・・あなた奥さんを抱き起こしたり、抱き上げたことないでしょう」
 私は目で肯定します。
 「山本さんも2、3人経験したほうがいいね。奥さんのよさが分かるから。お金ですむことですから」
 「生理的にだめですよ」
 「商売女が?」
 「いやそういう意味じゃなくて」
 「奥さんには勧めても、ご自分はだめ?・・・どうも分からないですなあー、私には」
 「・・・」
 「そうか!奥さんのお墨付きの女性なら・・・」
 「まあ、そんなことにしておきましょう」
 「ずいぶんいってくれますねぇー。・・・本当に」
 「それより先ほどの話の続きは・・・」と先を促すと与田氏はしばらく考えてから語りはじめます。
 「2幕目のはなしね。わたしもこんな経験なくてね。あえていえばいまの女房とあったかな。だから、先輩や同僚の体験談を参考にしたがね、これも実体は伝聞や虚構かもしれませんよ。でも心配だった1幕目はあなたもご覧になったように大成功だったでしょう」
 「私も興奮しました。終わり良ければ総て良しの世界ですものね」
 「奥さんを手の内にいれたという実感があって、自信が湧いてきましたね。ただ、今度は山本さんがいませんからね。1気呵成にことを運ばなければというあせりがありましたよ。奥さんがバスルームに居るうちに、手荷物とコートをクロゼットに隠すとかいろいろ段取りを考えてね」
 「かなり知能犯ですね」
 「奥さんは電話連絡がすむとほっとしたのでしょうね。携帯をもった手で私の背中をたたくから、カラダを起こし、それを受け取りバックに入れてサイドテーブルにもどしましたよ」
 「つながったまま?」
 「そう。・・・奥さんは電話をしたくて泣いていたみたいですよ、後で聞くと。顔を見ると目は閉じていますが現実を受け入れているのがわかりました。最初に言われたとき聞き入れてあげれば、泣かずにすんだのにと思うとなんだか不憫でね。可哀そうなことをしたと後味がわるかったな」
 「でも、おかげで絶妙の感触を・・・」とわたしがフォローします。
 「今度は私が主導権をとる番ですからね。自分のペースで動くときは我慢がききますから。こう両足を肩に担いで、から自分のアタマが奥さんの真上くらいに来るようにカラダを前倒しにして・・・」
 「そんなに無理でしょう」
 「だからさっきもいったでしょう!カラダが柔らかいのよ、奥さん」
 「・・・」
 「奥さんの顔を覗き込むようにして『ゴメンネエー、奥さん、ゴメンネエー』を繰り返し言ったの。腰の動きに合わせて、声に強弱、緩急をつけて」
 「かなりエロイですね」
 「経験ないの?」と呆れ顔をする与田氏。
 「・・・」
 「下の方は、ずーと前から申し分ないのよ。奥さんも分かっているはずよ。拗ねているのか、焦らしているのか、怒っているのか、上の方はまったく反応がないのよ。いわゆるマグロ状態ね」
 「勝手にどうぞみたいな?」
 「そういうわけでもないけど、ここで掛ける言葉が途切れたらだめだからね」
 「1幕目で拝見していますから、与田さんの姿が目に浮かびますよ」
 「次の殺し文句が見つかるまで『ゴメンネエー、奥さん』をバリエイションをつけながら繰り返したの」と言うと与田氏は2本目のタバコに火をつけます。
 店内は相変わらず満席に近く、相席を求められやしないかと心配です。
 「奥さんの脚にさらに体重をのせて、体をより前倒してから囁いたの『怖い思いをさせちゃって、ゴメンネエー。奥さん、ツライネエー、ツラカッタネエー』と謝罪といたわりの気持ちを込めてね。数回、語順を変えたりして」
 「腰のうごきは?」
 「自分のことばに合わせてユックリ静かに」
 「なるほど。・・・弱くても発信し続けないと」
 「そのうち左の乳首が膨らんでくるのよ。自然と・・・」
 「よく見てますねえー!顔を見て語りかけながら・・・」
 「バロメーターだからね」
 「なるほど・・・」
 「でもこのとき乳房に触れたり掴んだりしたらだめよ」
 「混信するから?」
 「山本さん、さすが鋭いね」
 「ボキャ貧でうまく表現できないけど、投げ掛けている言葉を指先から奥さんの乳首を経由してハートに送っている感じかな。だから『ゴメンネエー、ゴメンネエー』ようにね」と言葉に合わせて指をうごかします。
 「乳首はアンテナですか?」
 「思わぬところにもアンテナはありますけどね」
 「ボルトも?」
 「そうですよ。合わせるように軽くアクセントをつけて。こう・・・」と身振りで示します。
 「それでどうなりました?」
 「奥さんのクチビルの緊張が少し緩んでね。アタマが左に少し傾いて、口の端が少しひらくのよ」
 「微妙なサインですね」
 「この機をとらえさらに体重を掛けてね。奥さんをアタマが左右に揺れるぐらい、激しく腰を使ったのですよ『ゴメンね、ゴメンね』といいながら」
 「ピアニッシモからフォルテに1気にシフトしたわけですね」
 「そうしたら、口を開けてね。息を吐いていましたね。これ以降、奥さんが口を閉じる場面はないですよ」
 「随分、手順をふませましたね」
 「こうなればもう心配ないね。もう少し楽な姿勢に戻して言葉を選びながら優しくケアーすればね」
 「そういうものですかね」と感心してみせます。
 「そうですよ。私がね『奥さん、気持ちいいですよー。すごっくいいですよー』と繰り返しながらゆっくり腰を動かしていたら、奥さんが静かに目をあけてね、視線がまだまだ定まっていませんけれどね。それでね、奥さんを見ながら『気持ちいいですよー、アリガトネー。奥さん、すごっくいいですよー』と感謝の眼差しでいってからね『ゴメンネエー、奥さんも気持ちよくしますからねー。待っててくださいねー』と言ってね『ホレ、ホレ』と掛け声をだしながら動きを強めたんですよ」
 「ピアノからフォルテへ。・・・なるほど」
 「するとね。目は閉じているのだが、掛け声に合わせて『ハッ、ハッ、ハッ』と吐息が声になって、だんだん大きくなってね。口は鉢から飛び出した金魚みたいに」
 「なるほど。・・・息切れ状態?」
 「それで動きを元に戻してね『ホーレ、ホーレ』の掛け声でゆっくり腰を入れながら『奥さん、気持ちいいですかー。気持ちいいですかー』と問いかけるとうっすらまた目を開けてね、アタマを少し傾げて、照れくさいというのか、恥ずかしそうというのか、うまく表現できないが、はにかむような笑みを浮かべてね。奥さんの目を見ながら『気持ちいい?』と聞いたのよ。そしたら何もいわずにね、アタマを更にもう少し傾げて、両手をおもむろに上げると、私の首に回すのよ。私を見つめながら。なんともいえない表情で」
 私は飯田橋で、私の目の前で部長に組み敷かれながら、放送禁止用語を口にするよう求められているときの妻のしぐさや表情を思いだします。
 「分かりますねえー、その感じ。与田さんの言い草じゃないけど、もうたまらんでしょう?」
 「タ・マ・リ・マ・ヘ・ン・ナ」と与田氏は目を見張ります。
 「あなたに首ったけということですかね?」
 「そうじゃないね。私の問いに対して答えているよ『気持ちいいわー』って『でもまだ口に出して言えないのよー』って『あなたのこともう許しているのよー』って」
 「与田さんの受け留め方って凄いですね」と掛け値なしに驚きます。
 「それより奥さんをほめてあげてくださいよ。本当にすごいでしょう?これがあなたの奥様の本質です。つまりギフト、天からの授かり物をもっていらっしゃる『雨降って地固まる』とはよく言ったものでね。この時点から30分くらい経過すると、奥さんも私の問いかけに『気持ちいいわー』と言えるようになってね。私に心を開いてくれたのよ。・・・時間がないようだから、ここまでにして後は次の機会にしましょう」と言うと与田氏はライターとタバコをポケットにしまいます。
 「ちょっと待ってください、与田さん。・・・まとめとしてセックスってなんですか?」
 「山本さん、セックスは駆け引きをともなった対話ですよ。あらゆるチャンネルを使った男と女の。だから言葉が途切れたらだめね。ホーレ、ホレ、ハーイ、ハイ、ソーレ、ソレなどの掛け声も、感極まって出る声も吐息も寝間では言葉です。もっというと衣擦れの音、ベッドのきしむ音、チャピチャピ、ピチャピチャという音も2人が発信している言葉なのね。若い頃かなり深刻な夫婦喧嘩をしたとき、女房を張り倒してレイプ紛いのことをしてね。足で蹴られたり、引っかかれたりしたけど。とにかく入れちゃったのよ。そうしたらいんだよねえー、これが『ごめんねえー』が素直に言えて。後は奥さんの時のようにゆっくりなだめすかしてね。終って私の傷の手当てをしている女房を見て、またムラムラとね。若いっていいね?それ以来女房、気が強くなってね。夫婦喧嘩が絶えなくて困ったね。意味判るでしょう?」と与田氏はウインクします。
 「与田さん、最後にひとつ質問していいですか?」
 「どうぞ・・・」
 「与田さんが1番印象に残ったことは?」
 与田氏はしばらく思い起こすように考えてから答えます。
 「奥さんをドアのところまで送っていったときこういったのよ『ごめんなさいね。与田さん、私の思慮が足りなくてこんなことになって。忘れてくださいね』って。これ皮肉や嫌味じゃないよ。頭にガーンときて呆然自失よ」
5:col :

2022/06/01 (Wed) 17:46:51

⑪妻とのダイアログⅣ
 「⑩与田氏、妻を語る」の続きです。
 横浜で知人の絵の個展を見た帰り、湾岸道路を経由して京浜島によります。
 妻から与田氏との出来事の結末をきくためです。
 このことは前夜妻に言ってあります。
 目的地に着くと日はすでに暮れています。
 低く垂れ込めた雲をコンビナートの明りが照らしだしていて、目の前は羽田空港です。
 水路を隔てたはるか遠くに、ナトリューム灯のオレンジの光が、ターミナルビルを中心に帯のように広がり、揺らめいています。
 そしてキィーンというエンジン音のなか、左から右へジェット機がゆっくり降下しながら、滑走路と思しき方向をめざしています。
 客席の窓の明かりも見え、しばらくしてその明かりが水平になると、十数秒後にゴオーという逆噴射の音が届きます。
 左に目をやると、後続機が翼灯を点滅させバンクを取りながら、大きく旋回しランデイングアプローチに入ろうとしています。
 私たちは飛行機を目で追いながら、十数年前に来たときの様子を思い浮かべ、その変わり様についてあれこれ話をします。
 私は近くの自販機から缶コーヒーを求め、それを妻に手渡すのを機に話を切り出します。
 車の外は身を切るような寒さです。
 「今日は2人ともしらふだからね。今までとは勝手が違うけど飛行機のコックピットの中にいると思って気楽に話して」と言うと、妻はヘッドレストに頭をゆだねるとゆっくりこちらを向き「そうね・・・」と言うと、しばらく間を置いてから話はじめます。
 「シャワーを浴びて、お化粧を直してから外に出ると靴がないのよ。スリッパが置いてあって」
 「そこへバスローブ姿の与田さんが来て『お茶でも飲んで待っていて下さい』といって、バスルームに入ったの。私と入れ替わるようにして」
 「含みのある1言だね」
 「テーブルに、紅茶セットとトーストサンドがあるのよ」
 「食べたの?」と聞くと「食べるわけがないでしょう。そんな心境じゃないのよ。時間もないし」と聞かれたことがよほど心外だったようです。
 「靴を探したけど見つからないの。与田さん聞いたら『ベッドルームだ』というのよ」
 「入ったの?」と聞くと頷きます。
 「暖房が効き過ぎてあついのよ。奥のベッドの上には与田さんの脱いだものがあって、手前のはシーツがむき出しになっているのね」
 「あったの?」
 「見当たらないのよ。クローゼットを開けたらコートとジャケットはあるの」
 「・・・」
 「それを取ってクローゼットを閉めたら、与田さんが入り口に立っているのよ」
 「随分、早いね」
 「心臓が止まりそうなくらいびっくりしたわよ」
 「サスペンスドラマのワンシーンだね」
 「そうね。まだそこにいるはずがない人がそこにいるとね」
 「『奥さん帰るの?』と聞くから事情を説明したのよ」といってから缶、コーヒーの蓋を開けると1口飲みます。
 「そうしたら『約束が違うだろうが、奥さん!』と私のところに来ると、コートと上着をひったくるようにとって、奥のベッドに投げるのよ。怖かったわー。本当よ、あなた」と私をのぞきこむように言います。
 「なにか約束をしていたの?」
 「してないわよ!『シャワーを使わせて』とお願いしたことを逆手にとって、言い掛かりをつけているのよ」
 「だからこの前いったでしょう。あれは拙いよって。誤解を受けるよって」
 「・・・」
 「メインデイシュだと思って、ゆっくり味わって食べようとしていた魚料理を前に、もう1皿ステーキが用意されていると知らされたら、魚料理はそこそこにして、次の料理に期待するよね」
 「また、たとえ話ね」
 「1回目のとき、与田氏は君に執着した?意外に早く終わったのじゃない?」と聞くと「そうね『もう我慢できない』と言っていましたからね」と答えます。
 「早く次のオモテナシにありつきたくて、気もそぞろといった感じだね」
 「そうなの?」と他人ごとのように呟く妻。
 「それがシャワーを浴びて、さあこれからと思っていたのに出鼻を挫かれ逆上した訳だ」と与田氏に同情してみせます。
 「腰をギューと抱き締められ、ベッドに押し倒されてから、あっという間に脱がされちゃって」
 「1度経験済だからね。与田氏手馴れているね」とフォローします。
 「与田さん、私を見下ろしながらバスローブの紐を解こうとしているのよ」
 「ウン」と頷くと、私はコーヒーを飲みます。
 「カラダを起こして、ベッドに腰掛けるような格好でいったの『今日は帰して』って」
 「響子、君は学習できていないよ。そんな1時凌ぎのことを言って。相手につけいる隙を与えるだけだよ。次の日を期待するよ」と私は驚きます。
 「そおしたら、いきなりパーンと叩かれたの」と頬に手をやる妻。
 「ヴァイオレンスだね。・・・与田氏は全身で怒っているの?」
 「?・・・そうよ。もう目の前で、思わず目をつぶったわ」としんみりとします。
 「それで?」
 「肩を突かれてそのまま倒されたの。何で叩かれなきゃいけないのと思うと、悔しくて精1杯抵抗したのよ。・・・でもだめね。手首を押さえられちゃうと」と遠くを見るような目つきで話します。
 前を見ると、いつの間にか大粒の雨がフロントガラスを濡らしています。
 「外堀を埋められちゃているしね。あとは1直線かー。でも精1杯って、噛み付いたり、大声を出したりしたの?」と聞くと首を振ります。
 「どうして?」とさらに聞くと、しばらく考えたあと思い起こすように述懐します。
 「中3のときね。日曜日に友達と映画を見たのよ。帰り、1人で夜道を歩いていたら、車が近寄ってきて声をかけるの『乗っていかない?』って」
 私は15,6歳時の妻のアルバムを思い出し、結婚する6年前かと脈絡のないことを1瞬考えます。
 「送り狼かい?」
 「年の割には大人に見られていたから、そうかもしれないし、単なるナンパかもね。無視して歩いたら、車がスーと前に出ると止るのね」
 「・・・」
 「怖いから知らないお宅に飛び込んで、家に電話してもらったのよ」
 「お祖母ちゃんしかいなくてね。そこのご主人が車で送ってくれたの」
 「翌日、夕食のあとお祖母ちゃんの部屋に呼ばれて教わったのよ。色々」
 「なにを?」
 「女の危機管理についてよ。・・・与田さんと私のケースみたいなときの」
 「それで『シャワーを使わせて』とか『今日は帰して』とか事態を先送りしようとしたの?」
 「刹那、刹那に出たことですからね。わからないわ。とにかく、引っ掻いたり、噛み付いたり、大声をだしたら駄目だといわれたの。気が小さい男は逆上して最悪のことになるから、冷静になって状況を判断しなさい。場合によっては諦めなさい。そうすれば命までとられないからって。その状況も具体的によ」
 「お祖母ちゃんの経験からかな?」
 「そうじゃないわよ。当時いろいろ事件があったのよ。こう言う話は母はできないのよ、わたしに」
 「君はできるの?2人の娘に?」
 「できないわね・・・」と言うとしばらく沈黙が続きます。
 「まえにもいったと思うけど、小さいときから『女のカラダは大切なお嫁入りの道具だからね。傷つけちゃだめだよ』と言われながら育ったの。膝を擦りむいたりしたときね、お祖母ちゃんに。5年生になった時『お医者さん以外の男にカラダを触らせてはだめだよ。響子のお婿さん以外はね』て、お風呂で言われたわ。孫が現実的な場面に遭遇して、何が1番大切なのか教えたかったのよ、身の処し方を。教えてきた事を軌道修正したのね、高校のときはね、夫に可愛がってもらえる妻について色々とね。・・・だからあなたは幸せなのよ」と私をいたずらっぽい目をしてからかいます。
 「僕もお祖母ちゃんに感謝しないといけないな。響子、この前、与田氏が終わったあと涙が出たとか言っていたよね?」と話を1月前の2人に戻します。
 「・・・そうね」
 「その涙ね・・・『不注意でこんな事になってしまったけど、教えられたように出来ましたからね』と、天国にいるお祖母ちゃんに対するお詫びと感謝の涙じゃないの?」
 「・・・そうね。・・・あなたすごいわね。そういう私の気がつかない深層心理までおわかりになって。だからいつも優しいのね。好きよ、そういうあなた」と持ち上げられ、気恥ずかしくなり「それでどうしたの?」と話を元に戻します。
 「もう諦めたの。身動きが出来ないのよ。じーっとしていたわ。重たいのよ与田さん。そうしたらパーンという叩かれた音が甦ってきてね。頬があついのよ」
 「初めてなの、暴力を振るわれたの?」と聞くと黙って頷きます。
 「バザーに間に合いそうにないから、電話連絡をしたいのよ。だけど全然無視されて口をきいてくれないの。怒っているのね」
 「電話なんてしなくたって、たかがバザーぐらいで」
 「あなた責任者のひとりなのよ。無断で欠席したら信用をなくすわよ。女の世界って厳しいのよ。あなたが考えているよりも・・・」
 「相変わらず上昇志向が強いね」
 「もう泣きたくなったわ」
 「与田氏を受け入れちゃっているの?」と聞くと頷きます。
 「デッドロック状態だね。何か打開策を講じないと。飛行機ならエンジンストールで滑空中だからね」
 「・・・」
 「『鳴かぬなら泣くまで待とうホトトギス』の心境かな与田氏は」と与田氏との話を思い出しながら妻に語りかけます。
 「そうね、とくかく電話をしなければいけないと思うと切なくてね。あなた、本当に泣けてくるのよ」
 「泣いたの?」と聞くと黙って頷き「ベソをかいたの。子供のとき以来ね」と呟くと目を閉じます。
 「『泣く子と地頭には勝てない』と昔の人は言うけど、電話をさせてもらえたの?」
 「しばらくしてからよ。・・・『階段を踏み外して捻挫したようだから、しばらく様子をみてから医者に行きますから』ということで」
 「君らしいね」
 「電話に出た武藤さんが『頭は打ってないの。本当に辛そうね。ご主人に連絡したの?』と本当に心配そうなのよ。なんだか申し訳なくて」
 「そうだね、与田氏に組敷かれたままではね。恐れ多いね、先輩に対して」と妻に同情すると「寝て話すと声がいくらか違うでしょう。まして胸を圧迫されているし。なんだか変な臨場感が出ちゃって」と弁解する妻。
 私は明かり採りに点けていたナビを消すと、コンソールの僅かな光が妻の横顔をうつします。
 「それで?」
 「ブラウスを脱がされてね、お相手をしたわ。与田さんの汗でシミが付いているのよ」
 「電話も済んだし。後は楽しまないとね」と妻をからかうと「あなた本気でいっているの!」と少し気色ばります。
 「冗談ですよ。・・・少し話が湿っぽくなったからさ」
 「・・・」
 「与田氏は口を開いたの?」
 「そうね、何か言っていたわね?」
 「どんなこと?」
 「よく覚えていないわ」
 「君は?」
 「叩かれたのよ。生まれてはじめて。黙っておまかせするだけよ」と唇をかみしめます。
 「辛かった?」と妻の肩に手をやると「色々ね。・・・ベッドから上半身落とされたりして」としんみりと答えます。
 私は飯田橋での夜、部長の指示に恥じらいながらも、素直に応じている妻が頭に浮かびます。
 「『瀕死の白鳥』のプリマだね、色白だし。支えられてうまく舞えた?」
 「・・・」
 「響子の姿が目に浮かぶよ。飯田橋の君を見ているからね」
 「どういうこと?」といぶかしがります。
 「僕が普段、君を抱くときは1メートル以内の響子しか見られないからね。しかも上半身だけね」
 「飯田橋のとき襖を少し開けて見たのよ。3、4メートル位先で部長に抱かれている響子を」
 「見ていたの!」と目を見開いて驚きます。
 「ふすま越しに部長の声も聞こえるし、時々欄間を通して君の声も天井から聞こえたりしてね。ふすまというフィルターを通して聞く寝間の息遣いは、影絵を見ているような幻覚におそわれてね。それに加えて僕のいた部屋は電気が消されていたからね。欄間から光が漏れてね、天井に影がゆれるのよ。衣擦れの音に合わせて。もう我慢できなくて、覗いたわけ」
 「・・・」
 妻は黙って聞いています。
 「至福の時でね。1幅の絵を見ているみたいで。全身が見えるからね、柔らかく波打っている君の。これが僕の妻かと思うと誇らしくてね、部長に。部長も興奮しているし」と妻を讃えると「あなたはいつでもいうことがオーバーなのよ」と静かに言います。
 「『隣の芝生はよく見える』とはよくいったものだね?」と妻の同意をもとめます。
 「遠くから見るとアラが見えないということ?」
 「そうじゃなくて、他人に委ねて距離を置いて見ると、今まで気がつかなかった君のいい点が見えてくるということ」
 「具体的にいってね」
 「全体的にバランスがいいの。動きがしなやかで。うまく言えないけど。足だとかフクラハギがセクシーであることもわかったし」
 「それなら、あなたの目の前で部長に抱かれている私はどうなの?」と妻は1歩踏み込みます。
 「目の前だからね。今どの筋肉が緊張しているのかということまで見えてね。脚のこの辺の静脈がウッスラ透けてみえたりして」と私は自分の内股に手をやります。
 「よく見ているのね」とあきれ顔の妻。
 「見ているだけじゃないよ。こうして目をつぶるとね。枕元の水差しとグラスが『カチ、カチ』とクリスタルな音を出しているのが聞こえたり、香水のフレェイバーだとか2人の醸し出す微妙なスメルが届いたりしてね」
 「・・・」
 「君が部長に何か言わされようとしているから目を開くと、1輪差しが揺れていてね」
 「・・・」
 「攻められていたね。どうして言ってあげなかったの?」と聞くとしばらく間をおいてから答えます。
 「そんなこと口には出せないわ。子供の父親であるあなたの前ではね」
 「僕を通して子供を意識しているわけ?」
 「言葉という字は言霊(コトダマ)に由来していて、口からでると魂が宿るそうよ。これ部長さんの受け売りよ」
 「それでボデートーキングをしていたの?」
 「・・・?」
 「こう部長の首に手を回してさ、甘えるような仕草で『許して、それはいえないわー』というような表情で部長に訴えていたね。そういうのをボデートーキングというの」
 「そんなことしたかしら?・・・よく覚えていないわ」と笑います。
 「相手が僕だったら『だめ』と言うか、せいぜい首を振るぐらいかな」と妻をからかうと「そうね、子供の父親ですからね。部長さんは他人よ。お客様よ。」と真面目な顔でいいます。
 「あなたはどうなの?目の前で自分の子供の母親が男に抱かれているという感傷はないの?」と私を見据えます。
 私はしばらく考えてから話をはじめます。
 「また例え話だけど、僕が君から帝劇のチケットをプレゼントされて見に行ったとするよ。帰宅して『すごくよかったよ。感動して涙が止まらなくてね。余韻に浸って日比谷通りを2駅歩いたから遅くなったよ』と言ったら、自分の事のように嬉しいよね。出来れば自分もその場にいたかったと・・・」
 「そうね・・・」
 「帝劇を部長とすると、2人で帝劇に行ってね、隣の妻が感動するさまを見るのが僕の喜びかな。それを見て性的に自分が興奮するわけでないし、子供の母親という意識は全くないよ」
 「・・・」
 「・・・それで与田氏はどうしたの?」と話をもどすと、シートを少し倒してから素直に語りはじめます。
 「『気持ちいい?』と聞くのよ。・・・無視していると、繰り返し何回も。もうしょうがないから『気持ちいいわー』と言ってあげたの」
 「気持ちよかったの?」
 「成り行きでね」
 「それで?」
 「そうしたらね『教会のバザーをサボって気持ちがいいなんて不謹慎だね。僕が神に代わってお仕置きをしますからね』といって激しく責められたの」
 「往かされたの?」と聞くと頷きます。
 「もうぐったりしてね。なにも考えられないのよ。ただ呼吸が整うのを待っている感じね。目を閉じて。そして動悸が少し収まってきてからね『今、私、何をされたのかな?』といった感じね。」
 「そんなに深いエクスタシーを与えられたの?」
 「与田さん、本当に神がかりなのよ。・・・目をひらくと私のスカーフで手首を縛ろうとしているの『奥さんもちゃんとこうしてしっかりお祈りしないとね』といいながら」
 「君はどうしたの?」
 「頭がまだぼんやりしいて、されるままね」
 「でもすぐ、ベルトを持っているのがわかったの」
 「怖かったわー。それでパーン、パーンと枕を叩くのよ。おもわず目をつぶったわ。そしたら『主の前で膝を崩すと失礼だからね』といってこの辺をバインドされたのね。そのベルトで」と両手を黒いピケのタイトスカートの裾に置き指先を左右に開きます。
 「そのとき意識はハッキリしていたのに、抵抗しなかったの?」
 「『叩かれない、よかった』という思いが先立ってほっとしたのね。協力したのよ。今思うと不思議ね」
 「『叩かないで、はやくそれで縛って』みたいな心理がはたらいたのかな?」と聞くと「分からないけど、そうかしら・・・」と呟きます。
 「ギューと縛られたら頭がしびれるような感じなの。毛穴がキューッと締っていくような」
 「そのスカーフ、今でもあるの?」
 「あるわよ。・・・あなた、なにを考えているの?」といぶかしがります。
 「そういうことじゃなくて、忌まわしい思い出がまとわり付いたものだからね。・・・棄てたかと」
 「・・・」
 「ともかく、手足を縛られて手籠にされたわけだ」
 「テ・ゴ・メ?」
 「Violation」
 「そう言う意味ね。・・・状況は少し違いますけど?」
 「いや少しも違わないよ。テゴメって字で書くとハンドの手と馬籠宿の籠ね。この籠という漢字はカゴとも読むよね、竹で編んだ。カゴは竹のしなやか性質を利用して編むから丸いよね。ここから籠という字には真っ直ぐなものを『丸める』だとか『丸くする』と言う意味もあのよ」
 「そうなの」
 「だからなだめすかして言い包めることを『籠絡(ロウラク)』するというでしょう。口先で丸め込んじゃうわけよ。呑めないものも呑めるように」
 「あなた、その手つきちょっといやらしいわよ」
 「だから真っ直ぐな君のカラダも脚をたたまれ、茹で卵のように丸められて・・・」
 「・・・」
 妻は黙って聞いています。
 「手を合わせ、膝を折って、許しを請うたの?神の下僕に」
 「言わされたのよ。あなた・・・」
 「全身全霊でコミニュケイトしたの?なんて?」
 「たくさんあって忘れたわ。でもね、このとき『山本さんの奥さん』と呼びかけるのよ。今までは『奥さん』だったのに」
 「響子に人妻であることを意識させるためかね。それとも、僕の妻を犯しているという感覚かな?」
 「分からないわ。でもね、手足の自由を奪われ窮屈な格好でカラダを支配されちゃうと、精神は逆に解放されるのよ。不思議ね。子供みたいに」としみじみと言います。
 「胎児みたいな格好だからね。中国語で手籠のことを籠子と言うのだけど大人のカラダを子供のように小さくして、気持ちも子供のように従順にさせるという意味かな?」
 「そうね、師と弟子の関係みたいね。いわれるままに素直になれるのよ」
 私はまた飯田橋での妻の様子を思い浮かべます。
 「響子、君は『グッド・ストーリー・テラー』だね。・・・僕の想像をかきたてて」
 「・・・?」
 「ベッドに正座して、ままならぬ両手を添えて清く正しくお仕えしたの?神の下僕に?」
 妻は左手の指の背でゆっくりサイドウインドウのくもりを拭うと、水路を行く船の灯りを目で追っているようです。
 「あなた、与田さんに話したの?」と横を向いたまま静かに云います。
 「そんなこと絶対にないよ。そんなこと僕の立場を考えれば分かるだろう?」と否定すると、ほっとしたのか妻の肩の力が抜けるのが分かります。
 そして前を向き、ため息まじりに「そうよね・・・」と呟きます。
 「どう手籠めにされた感想は?」
 「はじめから終わりまで、ほとんど手籠め状態ですからね。疲れたわ」
 「そういえば、あの日僕が帰ると腰が痛いとか、首が痛いと言っていたな」とからかうと「そんなこといった覚えはないわよ」と強く否定します。
 読者諸兄諸姉には「6.ソフトレイプされた妻」の最後の段での2人の会話を思い起こしてほしい。
 「君にとって部長と与田氏の違いはどんな点かな?」と聞くと、しばらく想いをめぐらせてから話はじめます。
 「飯田橋のとき、あなたがだめで出ていった後ね、部長さんが私を抱き起こしてくれたのよ。何も言わずに」
 「ウン」
 「それから私をこうギュウーと抱きしめながら『すまない、恥ずかしい思いをさせちゃって、ご主人がどうしてもときかないものだから。・・・響子もう離さないよ。・・・いいね?』というのよ」
 私は『部長、それはないでしょう!』と1瞬ムッとしたが、妻の話の腰を折ってもいけないので黙って頷きます。
 「救いようのない格好で晒されているわたしを助けてくれたの。それくらい女の気持ちがお分りになるのよ、部長さん」
 「・・・」
 「ただ『いいね?』がもう1度部長さんのお相手をすることだとは思わなかったわ」
 「どう思ったの?」
 「『離さないよ』という言葉をプラトニックなものとしてうけとめたのね。だからうなずいたのよ。でも今思うと、そのときはそんな難しいことを考えていたわけでないのよ」
 「部長も男として現実的であったわけだ」
 「そうね。寝かされるとき『アレっ』て思ったの」
 「夢から現実に呼び戻されたね。・・・それから」
 「あとはあなたもおわかりでしょう?」
 「長い間所有されたねえー、部長に。黒子の身にもなってよ」と妻をからかいます。
 「そういうことは部長さんにいってね・・・」と私をにらむと、また前を向き話を続けます。
 「あれが与田さんの場合なら、あなたが出て行ったあとすぐ私に身を重ねてきたでしょうね『いいかい?』といいながら。それくらい違うのよ、部長さんと与田さん。終ったあとね、のどが渇いて水が欲しいのよ。だけどあなた、その水を飲みにいく気力がないの。ぐったりしちゃって」
 「長いバトルもあったしね。でも後始末をしてあげたの?」と飯田橋での妻を思い浮かべながら聞きます。
 「そうね、それはね・・・」
 「いたわってあげたわけだ。昨日の敵は今日の友みたいに慈しみながら」
 「あなた妬ける?」
 「いや、君のカタチだからね。・・・それで」
 「眠ったわ。与田さんに後ろからぴったり抱きつかれながら」
 「寝物語は?」
 「していたみたい。でも私には心地のいい子守唄よ」
 「そうか、抱かれながら眠りに落ちたか」
 「フロントからのコールで目が覚めたの。1時間以上たってからね『クリーンナップのお時間です』って」
 「ウン」
 「身なりを整え終わってからね、与田さんがミネラルウオーターの栓を抜いて私に渡すのよ。私も寝起きしたばかりであたまがボーッとした状態だから黙って受け取って1口飲んだの」
 「珍しいね。こういう場面で君がラッパ飲みするの。子供にはいつも注意するのに」
 「だから、まだ頭が目覚めていないのよ。のどは渇いているし」
 「・・・」
 「そうしたらね、与田さんそのボトルを私からとってね、1口飲んで私に返すの『俺の女だろう』って言われているみたいで嫌な感じ」
 「オンとオフをわきまえてみたいな?」
 「そうね。・・・部長さんならそういうことはしないはずよ」
 「僕の知っている響子なら、まず2つのグラスに均等に注いで、相手に渡してから自分も飲むよね」
 「そうね、確かに」
 「そうしなかったということは響子が与田氏に隙を見せたというか、心を許したというのか、いまくいえないけど」
 「あなたのいうように与田さんに籠絡されカラダは許しましたが、心まではね」
 「気持ちは分かるよ。でもすべてを曝け出したのでしょう与田氏の前に?」
 「そうね。・・・言われたとおりにするのが1番楽ですからね」
 「僕に言わせるとね『2人の仲はもうこんな関係よね』と口飲みをして、君が与田氏に語りかけている姿が目に浮かぶね。それを受けての与田氏のアクションは君の問い掛けに対してスマートに答えているよ」
 「あなた相変わらず想像力が豊かなこと」と私の方を向くとからかうような視線を送ります。
 「与田さんが下までついてきそうな気がしたから、ドアの所で挨拶して部屋を出たのよ」
 「ウン」
 「タイミングよくエレヴェーターが来たから乗ったのね。行き先を確認してから前を見ると、与田さんがE.Vホールの入り口で土下座しているのよ」
 「黙って?」
 「そう、びっくりしたわー。本当に」
 「君はどうしたの?」
 「無視したわよ。私と係わりのない人のように」
 「そのE.Vに外国の老夫婦が乗っていて目を丸くしていたわ」
 「『OH MY GOD!』といった感じ?」と大げさな身振りをすると「そうね。私もあわてたのね。CLOSEとOPENを押し違えたりして」
 「響子、最後にひとつだけ教えて」
 「・・・?」
 「靴はどこにあったの?」
 「デスクの引き出しの中よ。もうー、本当に悪知恵が働くのよ。与田さんたら。・・・でも今考えてみると、与田さんも憎めないひとね」と遠くを見るような目で呟きます。
 「リスクを冒してまで、君をもとめたから?」
 「・・・」

*余談*
 帰路、雨の週末ということで渋滞に巻き込まれ、ファミレスで食事ということになりました。
 妻がスカーフに手をやるので「お気に入り?」と聞くとクスッと笑って答えません。

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