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妻がオブジェに

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2022/06/03 (Fri) 10:27:09


 まさかと思った。
 夕食後にリビングでひいきのチームのプロ野球の試合をテレビで見ている時だった。
 小学5年になった一人息子は自室でTVゲームでもしているのだろう。
 リビングにはとっくに倦怠期を迎えた夫婦二人しかいなかった。
 「ねえ、どう思う?」
 最近連敗が続いているひいきチームが、1点差ビハインドの状況でスコワーリングポジションにランナーをためて、期待の4番がバッターボックスに入った時だった。
 「大河原先生がどうしても私にモデルになって欲しいって言うのよ」
 大河原と言うのは妻が趣味で通っている陶芸教室の先生だ。
 「あっそー」
 それより僕はテレビに夢中で妻の言っていることが耳に入ってこなかった。
 次の妻の言葉を聞くまでは。
 「モデルってヌードなのよ」
 4番バッターが打った大飛球は俊足のセンターにあっさり捕られてしまった。
 また今夜も負けが濃厚になった瞬間だった。
 「ヌードって何の話だ?」
 僕は飲みかけのビールを口にしながら妻に話の続きを聞いてみた。
 「やっぱり聞いてなかったのね・・・」
 妻は息子の同級生の母親仲間に誘われて、最近陶芸教室に通うようになっていた。
 こっちは苦労して働いている時間に『気楽なものだ』と思ってあまり気にしていなかった。
 なんでも、その陶芸教室の先生というのが本職は造形物を専門とする芸術家で、銅像などを手がけていると言う。
 名前が通っているような有名な芸術家ではないので、収入はあまりないらしい。
 現在は隣の県に出来る市営の公園に飾られる銅像の製作に携わっていて、その傍ら妻たちが通う陶芸教室で指導をしているのだという。
 「それで何でお前がモデルなんだ?」
 妻の話を聞いていてもいまいち良く分からない。
 その陶芸家の先生が、どっかの公園の水辺に新しく作られる銅像のモデルを妻に頼んでいるというのだ。
 だいたい芸術のモデルを素人の人間を使うなどということがあるのだろうか。
 「とにかく先生はあなたと話がしたいって言ってるのよ」
 「なんで俺と?」
 「だからモデルの話よ」
 「俺がモデルをするのか?」
 「だから、何回言わせるのよ、私がモデルを頼まれてるの、先生の作品の」
 テレビを見ながら妻の話を聞き流していると、なかなか上手く話が進まない。
 僕たち夫婦の間ではすこぶる日常的だった。
 今回妻が切り出した話題を除いては。


 結婚して15年も経つと妻を女として意識しなくなってしまうものだ。
 妻は現在38歳である。
 しかし、額の後退が進んでいく自分と比べると、妻はまだまだ若々しい。
 「なんで俺が陶芸の先生と話ししなきゃならないんだよ」
 その時の僕は妻がその陶芸家からモデルを頼まれているということを現実として受け止めていなかった。
 ただ、陶芸という自分には全く興味のない分野の人間と会って話をするなどという面倒なことは、できれば避けたいと言う思いの方が強かった。
 「じゃあ、あたしがモデルになってもいいの?」
 「べつにお前がモデルをしたいと言うなら俺はかまわないよ」
 「したくないわ、もちろん、だってヌードなのよ」
 「だったら断ればいいじゃないか」
 「だから、あなたからきちんと断って欲しいのよ」
 ここまで話を聞いたが、全く僕には良く分からない。
 妻はいったい僕に何を望んでいるのか。
 僕は妻にもう少しわかりやすく説明するように言った。
 妻の説明を聞いてみたがやっぱりなんとなく良く分からない。

 内容をまとめるとだいたいこういうことらしい。
 陶芸の先生が製作することになったその銅像は、先生がこれから芸術家としてステップアップするのにはとても大切な作品になるらしい。
 もちろん教室の人間はみな先生を芸術家としてその才能を認めていて尊敬しているし、なにより大成することを願っている。
 そのモデル役を頼まれている妻は、まわりから羨望のまなざしで見られ、とても断れる雰囲気ではないという。
 「なんで断れないんだよ、そんなの嫌だと言えばすむことだろ、裸になるのが恥ずかしいって」
 「そんなこと言ったらみんなに笑われるわ、それにわたしが断って先生の作品が上手くいかなかったらどうするの」
 「知ったことか、だいたいなんでお前なんかがモデルになるんだよ、もっと若い子ならともかく」
 「そうよね、わたしも10年若かったら考えたけど・・・でもね、先生は40歳前後の女性の身体が一番綺麗だって言うのよ」
 「ふっ、お前もまんざらじゃないと思ってるんだろ、だったらやればいいじゃないか」
 「べつにそんな風に思っている訳ではないけど、ねぇお願い、あなたから断ってよ」
 結局僕は次の土曜日にその陶芸家と会わなければいけないことになった。


 僕は妻に連れられて土曜日の午前中に陶芸教室に行ってみた。
 大河原という男は僕よりも10歳以上年上で名前の通り大柄で身長は180cm近くあるだろう。
 僕とは反対に豊富な髪の毛を長く伸ばしていて、後ろで束ねている。
 見ようによっては男前だ。
 しかし、芸術家というのは何を言っているのか全く分からない、僕とは共通するものが一つもない。
 とりあえず僕は大河原という男の話にあいまいな相槌しか出来なかった。
 「はぁ、そうなんですか・・・」
 「旦那さんもぜひご理解してください」
 結局一方的に大河原の話を聞いただけで僕たちは昼前に陶芸教室を後にした。
 「なんなのよ、今日のあなた・・・」
 「なに?」
 「断るつもりで行ったのに『はぁ、そうですか』ばっかりで・・・」
 「向こうの言ってることがよく分からなくて、しかたないじゃないか」
 「どうするのよ、結局」
 「どうするって、お前のことだろ、お前が嫌なら断ればいいだけだし」
 「冷たいわね、もう」
 家に帰り息子と三人で昼食をとった。
 息子は「午後から友達の家に遊びに行ってもいいか」と妻に聞いていた。
 「昼食の後、夕方5時までには帰ってくるように」と妻が息子に伝えると、息子はいきよいよく家を飛び出して行った。
 「なあ、そんなにモデルをするのが嫌なのか?」
 僕はさっきの自分の対応が少し気になっていたので、妻にもう一度真意を聞いてみた。
 「嫌というか、だって裸になるのよ、誰だってためらうでしょ」
 「ヌードだから嫌なのか?ヌードじゃなかったらモデルになってもよかったのか?」
 「まあ、そういうことになるわね、この年でヌードなんて無理よ」
 結婚したころの妻というのは、ほっそりとした痩せ型の美人だった。
 しかし子供を産み、それなりに年を重ねた現在の妻はそこそこお尻の周りに脂肪が付き始めていて、最近では巻くだけで身体が細くなるなどというバンドを腰から下に巻いていることもある。
 結局は自分の体型を気にしてのことなのだろうと、僕はその時単純にそう思った。
 「ちょっと俺の前で裸になってくれないか?」
 「えっ、何よ、こんな時間に」
 「ちょうど孝太もいないし、別にいいだろ、夫婦なんだから」
 息子が生まれてからめっきりセックスの回数は減った。
 特に息子が小学校に入ってからは年に一度あるかないかで、ここ2年以上はご無沙汰だ。
 僕は冷静に今の妻の裸を見てみたいと思った。


 「な、何、いきなり・・・」
 僕は亭主関白でもなく、妻の尻に敷かれている亭主でもなかった。
 ただ日常ではほとんどが妻が主導権を握っている。
 もちろん給料もすべて妻に渡している。
 けど、それはめんどくさいことはすべて妻に任せているだけで、本当に大切だと思ったら僕は口を出す。
 そんな時の僕の表情は妻もすぐに察しがつく。
 今回僕が妻に裸になってくれと頼んだときの表情がそうだったのだろう。
 妻は普段と違ううろたえた表情を僕に見せた。
 「2階に行こう」
 僕はそう言って2階の寝室に向かった。
 しばらくすると妻がついてきた。
 「何なのよ、いきなり」
 寝室に入るなり妻が僕に言ってきた。
 「今のお前が裸のモデルになれるのかどうか、見てみたくなったんだよ」
 「あなたに何がわかるのよ」
 「ああ、俺には芸術のことはさっぱりわからん、だけど、お前が魅力的な身体なのかどうかは知っておきたいんだ」
 僕はそう言ってベッドの上に腰掛けると妻を見上げた。
 「そんなこと言って、本当はエッチなこと考えているんじゃないの」
 妻は文句をいいながらも僕に従ってくれた。
 昼下がりの時間、目の前で裸になっていく妻を見て僕はいいようのない興奮を感じていた。
 全裸になった妻は、確かに以前よりも少し太ったかもしれない。
 けど、それによってなんとも女性らしい丸みを帯びた身体になっていた。
 手入れされていない陰毛こそ卑猥に見えるが、それ以外はまだまだ申し分のない身体だった。
 いつの間にか僕は立ち上がり、妻の身体に触れていた。
 二つの形のよい乳房はまだ張りのある弾力を保っており、その中心にある小指大の乳首がつんと上を向いていた。
 僕がそれを口に含むと妻の力が徐々に抜けていき、僕たちはそのままベッドの上に倒れこんだ。
 僕はあわただしくズボンを脱ぐと、すでに我慢できなくなっているペニスを妻の身体に差し込んだ。
 まだ前戯らしい前戯はほとんどしていないと言うのに、妻の身体は充分に濡れていて、そして熱かった。

 「結局したかっただけなんでしょ」
 一通り事が終わってから妻がベッドの上で僕に言ってきた。
 「まあ流れでそう言うことになったけど、でもお前の身体久しぶりに見たけど、まだまだ全然綺麗だぞ」
 「まあ珍しい、あなたがわたしの事を誉めるなんて」
 「そんなことないよ、俺はいいと思ったことはいいときちんと言うんだよ、まだお前の身体は充分綺麗だし若いよ」
 「あなたはすっかり貫録が出てきたけどね」
 そう言って妻は僕の額に手を当てていたずらっぽく笑うとベッドを降りて寝室から出て行った。


 「ねえ、本当にわたしがモデルをしてもあなたはいいの?」
 その日の夕食が終わり、息子が自室にいってから、リビングでいつものようにテレビを見ながらビールを飲んでいると妻が話しかけてきた。
 「なんだ、モデルやる気になったのか?」
 「そう言うわけではないけど、今日あなたが綺麗だなんてわたしの身体のことを誉めるから」
 「やっぱりやる気になったんじゃないか、ああ、別に俺はかまわないよ、どうせ出来上がった銅像は隣の県の知らない土地に置かれるんだし、そもそも黒い像のモデルがお前だなんて気がつかれないだろ」
 そう言った僕は、まだその時妻がヌードのモデルをするということを現実としてとらえていなかった。
 テレビに映っている野球の試合の方が、僕の興味を支配していた。
 「じゃあ、お風呂入ってるから」
 妻は食事の後片付けなどが終わり、ソファーに座っている僕にそう言った。
 そして、キッチンの奥から浴槽につながっている洗面室へ入っていった。

 僕は再びテレビに顔を向けたが、頭の中には昼過ぎに見た妻の身体が浮かんできた。
 僕は立ち上がって2本目のビールを取りに冷蔵庫に向かった。
 冷蔵庫からビールを取り出すと、なにげなく横にある洗面室のドアを開けてみた。
 妻がちょうどパンティを下ろしているところだった。
 「ちょっと、なにっ!」
 妻がむっとした顔で僕を睨みつけてきた。
 「い、いや、べつに・・・」
 「変なことしないでよ!上に孝太がいるのよ!早く閉めて!」
 「あ、ああ・・・」
 僕はそう言うと、ビールを持った反対の手で洗面室のドアをゆっくり閉めて、またリビングへ向かった。
 ソファーに座って、今見た妻の裸を思い浮かべていた。
 『あの裸を今日会った大河原という男が見るのか』
 そう思うと、僕は急に妻がヌードのモデルをするということを現実としてとらえだしていた。


 妻が僕以外の男の前で裸になる。
 今までそんなこと考えもしなかった、長男の出産の時ですら。
 あの大河原という男と会った日、僕は日中の家の中で妻を裸にしてみた。
 40歳前後の女性の身体が一番美しいと大河原が言っていたそうだが、その時その言葉の意味が分かったような気がした。
 僕はそれまで、20歳前後の若い女性の方が綺麗にきまっていると決めつけていた。
 だから、歳をとっていく妻への興味が徐々になくなっていた。
 しかし、その時見た妻の裸は、僕たちが付き合いだした頃に初めて見た若かった妻の裸よりも遥かに僕を興奮させた。
 そして何より妻自身が僕の前で裸になることで興奮していたのだ。
 そんな熟れた人妻があの大男の前で全裸になり秘部を濡らしてしまう。
 よくよくそう考えるとヌードモデルなんて全く危ない話だ。
 僕は今回の話が気になって仕方なくなってきた。

 「なあ、今週、陶芸教室だろ?結局どうするんだ?」
 陶芸教室は月に2回第一週と第三週にあると聞いていた。
 とすれば今週は陶芸教室のある週なのだ。
 「もちろん断るつもりよ、やっぱり出来ないもん」
 安心した。
 やはり他人である男の前で裸になる、などと言うことをすればその先どうなるかわかったものではない。
 「そっか、でも断れるのか?」
 僕は一息ついてから妻に聞いてみた。
 「それは断りづらいけど・・・」

 そう言えば妻は周りに流されてしまう性格でもある。
 大河原という芸術家以外にも、教室の人間やあるいは別の組織的な人たちに言葉にまんまと流され、自分がモデルにふさわしいと勘違いをして舞台に上がってしまう可能性も充分に考えられる。
 ここはきっちり断らせる覚悟をさせることが必要だと考えた。
 「なんなら俺の名前を出せばいいよ、旦那がダメだって言ってると言えば」
 「うん、そうさせてもらう」
 「それでも何か言ってくれば、また俺が先生のところに行ってもいいから」
 僕はこんな時期になってようやく妻が置かれている立場を理解したのだった。
 「ふっ、変なあなたねー、今まで全く関心なかったくせに、でもやっぱり今回の話は断るわ」

 妻がそう言って会話が終わると、これで今回の妻のヌードモデルの話はなくなったと思った。
 そう、一時的な僕の取り越し苦労なのだと僕は考え直した。
 そして僕はその後しばらくして陶芸のこととか、モデルのことなど頭の中になくなってしまった。
 いつもの日常生活に戻っていった。
 それから一ヵ月が過ぎたある日の妻の言葉を聞くまでは。


 ある休日の日に、僕たち家族は買い物のためショッピングセンターに来ていた。
 「あっ、ケーキ食べたいな」
 息子が1階に入っている有名な洋菓子店のウインドウに入っているケーキを見つけると、妻に言ってきた。
 「いいわよ、この前お母さんのバイト代が入ったから、今日はケーキ買ってあげる」
 「やったー!」
 息子は無邪気に喜んでいる。
 小学校5年と言ってもまだまだ子供だなと思った。
 それよりバイトって何だろう。
 そういえば「孝太も大きくなったのでそろそろ働きたい」と前から言っていたが「最近の不景気でなかなか主婦が都合よく働ける所が見つからない」と言っていた。
 でも良い仕事先が見つかったのだろうか。
 「バイトって何の仕事を始めたんだ?」
 僕はなにげなく妻に聞いてみた。
 「例のモデルの仕事よ、結局断れなくてやっちゃったの」
 買い物のカートを押しながらそう言う妻は悪びれた様子もなかった。
 「おい、モ、モデルってあのヌー・・・っか?」
 僕は一瞬妻が何を言っているのかわからなかったが、すぐに自分の脳が反応し、一ヶ月以上前に妻がヌードモデルを依頼されていたと言う話を思い出した。
 「そうよ、あなた別にいいって言っていたじゃない」
 「ああ、確かにそう言ったけど・・・でも、断るって言ってたじゃないか、なんで俺に一言の相談もなしに」
 「一回は断ったけど、だってあなたもその後のことあまり聞いてこなかったじゃない」
 「でもやる前に一言相談してくれても」
 「相談したじゃない、それにもう遅いわよ」
 「ねえ、どうしたの?お母さんのバイトって何?」
 「お母さんが通っている陶芸の先生のお仕事のお手伝いしただけよ」
 突然息子が僕らの会話に割って入ってきた。
 その場では僕はこれ以上妻に話を聞くことが出来なくなった。
 「ふーん、そーなんだ」
 僕は二人が楽しそうにケーキを選んでいるのを、ただ呆然と眺めていた。


 いつの間にか僕の知らない間に妻はモデルの仕事を引き受けていた。
 もう終わってしまったことと流せる話などではない。
 モデルはモデルでも裸のモデルなのだ。
 僕の妻が他人の前で一糸まとわぬ裸体を晒したということだ。
 暑い季節が始まるその日、妻はTシャツにプリント柄されたロングスカートをカジュアルに着ていた。
 巨乳ではないが、Tシャツの上からでも良く分かる形のよいバストやその中央にある乳首、くびれたウエストや子供を産んで少し大きくなったヒップなどすべてをあの男に見せたというのか。
 僕は買い物から帰ってからもそのことが気になって気になってしかたがなかった。
 子供がいない時を見計らって何度も妻に聞いてみるが、上手くはぐらかされてなかなか答えてくれない。
 僕はそんな妻の態度にだんだんイライラしてきていた。
 「なあ、どういうことだったのかいいかげん教えてくれよ」
 夜になり息子も寝てから、ようやく僕は妻にはっきりとモデルの件を問いただすことが出来た。
 「何よ、あなたの考えているようなやらしい事なんか一切なかったんだから」
 妻は単に僕が今回のことを興味本位で聞いていると思っているようだった。
 確かにそれもある。
 自分の女房が他人の前で裸を晒したなどという話は興奮するものがあるが、それ以上に僕は妻の身を心配して今回のことを知りたかったのだ。
 「別にやらしい事なんか考えてないよ、でも裸になったんだろ?」
 「そうよ、裸婦像のモデルなんだから」
 妻はあっさり裸になったことを認めた。
 やっぱりアイツの前で裸になったと言うのだ。
 「は、裸ってことは、つまり、そ、その、なんつーか、全部裸ってことか?」
 動揺していた僕は、言葉に詰まりながら妙な身振りを入れて妻に聞いている。
 「全部?」
 妻が怪訝そうな顔つきで僕に聞いてきた。
 「だから、真っ裸ってことなのか?」
 ついつい声に力が入ってしまった。
 「大きな声ださないでよ、孝太が起きちゃうでしょ」
 「全裸になったのか?」
 「当たり前でしょ」
 平然と答える妻に嫉妬心が沸いてくる。
 「あそこの毛も見せたのか?」
 「ほら、やらしい事考えてる」
 「違うって」
 結局僕がその先を聞いても妻は相手にしてくれなかった。


 僕たち夫婦は子供が生まれてから別々の部屋で寝ている。
 小学校5年になる息子は一人っ子のせいなのか、いまだに母親と一緒に寝ている。
 結局、その日妻はさっさと息子が寝ている部屋に行ってしまった。
 僕は自分の寝室のベッドで横になり、妻のモデルの事を考えながらその日眠りについた。
 次の日の朝妻を見ると、いつもと何一つ変わっていないはずなのに、何故かとても妻が綺麗に見えた。
 「お母さんが陶芸の先生のお手伝いをしたこと、誰かに言っちゃダメよ」
 「どうして?」
 「他のお母さん達には内緒にしてるの、お母さんだけお金もらったら不公平でしょ」
 「わかった」
 朝食の時に妻が息子に話していた。
 「陶芸教室の人には内緒なのか?」
 僕は妻と息子の会話に割って入った。
 「ええ、先生に言って内緒にしてもらったの」
 どうも実際にモデルをした事は陶芸教室の他の母親連中には内緒にしているらしい。
 モデルになったことを内緒にしているのか、ヌードになったことを内緒にしているのかはさだかではないが。
 ただ、それはそれで良かったと思った。
 ご近所連中にあそこの奥さん、ヌードモデルになったらしいよなどと吹聴されても困るものだ。
 「お母さん、また先生のお手伝いの仕事しないの?」
 息子が朝食をとりなが妻に聞いている。
 「さあ、もうしないかな」
 「すればいいじゃん」
 「どうして?」
 「そしたら僕に買って欲しいものがあるんだ」
 息子は単純に妻のバイト代を当てにしている。
 それが裸のモデルだということも知らずに。
 「先生がまたお母さんに手伝って欲しいって言われれば考えるけど、もうお母さんが手伝える仕事はないみたいだからね」
 「ちぇ、そうなんだ」
 おいおい、また大河原にモデルを頼まれたらやるつもりなのか?
 妻と息子の話に僕はまた不安になった。
 「なあ、先生との仕事って、先生と二人っきりだったのか?」
 僕は息子の前にもかかわらず、我慢できず妻に聞いてみた。
 妻はキッと僕を睨み付けて答えてくれない。
 「ん?どうなの?」
 僕はとぼけた表情で続けた。
 「違うわ、美術関係の人が何人かいたわ、わたしの知らない人だけど」
 「男なのか?女なのか?」
 「あなた、それより早くしないと会社遅れるわよ」
 結局その後、僕は追い立てられるように家を出されてしまった。


 その日家に帰ってからもなんとなく妻はよそよそしい、なにより僕と二人っきりにならないようにしている。
 僕はそれでもすきをみてはしつこくモデルの話を聞きだそうとした。
 「なあ、なんでちゃんと話してくれないんだ?」
 子供が寝た後、深夜にやっと妻をつかまえて問いただすことが出来た。
 「あなたがやらしく考えているからよ」
 「別にやらしくなんて考えてないさ、自分の女房が他人の前で裸になったなんてこと、普通の男だったら心配になるだろ、だからどういうことだったのかきちんと教えて欲しいんだよ、俺はお前の亭主なんだぞ」
 そう言うと妻はしばらく考え込んでからやっと口を開いた。
 「ごめん、そうだよね、話すよ・・・でも何が聞きたいの?」
 あらたまってそう言われるととっさに質問が思いつかない。
 「そう言えば何でモデルを引き受けたのか、きちんと聞いてないよ」
 僕は妻がモデルを引き受けた詳しい経緯を聞いてみた。
 「最初は断ったの、先生に『やっぱりちょっと自信がない』って、でも先生の方からわざわざうちに来たりとかされて、結局陶芸教室の他の人には内緒でと言うことで引き受けたの、だから終わるまであなたにも内緒にしておこうと決めたの」
 そう言って妻は話してくれた。

 しかし大河原がうちに来た、まして僕に内緒にしておこうだなんてとても納得できる話ではない。
 「うちに?」
 僕はちょっと怪訝そうな表情で妻に聞いてみた。
 「あなたは変なことを疑ったりするでしょ?だから内緒にしてたの、でもね、誓って言うけど絶対にあなたが考えているようなことはなかったのよ、本当にただのモデルだったの」
 僕たちは上で寝ている息子に声が聞こえないように、リビングの内ドアを閉めて話していた。
 「別に変なことなんか考えていないよ、で、モデルは1回だけだったのか?」
 「3回あったわ」
 芸術のモデルがどんな風に行われるのかさっぱり想像が出来ないが、妻は3回も大河原の前で裸になったと言うのか。
 「さ、3回も・・・3回とも服を脱いだのか?」
 「いえ、最初は脱がなかったわ」
 最初の1回は脱がなかったということは、言い返せばその後の2回は脱いだということだ、こう言うことを具体的に聞いてるとなんとも興奮してくるものだ。
 「なんで最初は脱がなかったんだ?」
 「初日は『イメージを作るだけだから脱がなくてもいい』って言われてたんだけど・・・」
 「言われてたけど?」
 妻の言葉の語尾が気になったのでもう少し詳しく聞いてみた。
 「最後に『やっぱり脱いで欲しい』って頼まれたんだけど・・・でも、わたしも準備してなかったから、出来ないって断ったの」
 やっぱり最初から脱がそうとしたのか、大河原に対する腹立たしい嫉妬心と同時に僕の興奮も高められていった。
 「準備って何の準備なんだ?」
 「こころの準備とかあるでしょ」
 「ねえ、お母さんたちまだ寝ないの?」
 いつの間にか子供が目を覚まして下に来ていた。
 結局、その日は息子にに邪魔された形で妻との話はそれ以降できなかった。


 それから二日後、息子が寝てから妻と二人になる時間が出来た。
 あの夜、子供に邪魔をされてから僕は妻にモデルの時の話を聞いていなかった。
 確かにとても気にはなっていた。
 妻がどのように大河原の前で裸になったのかを。
 しかし、根掘り葉掘り聞き出したところでもう終わってしまっていることだ。
 『今さら興味本位に聞き出したところで何があるのだ』と言う考えがあったのと、実際それまで聞き出すチャンスもなかったのだ。
 「やっぱり、わたしがモデルをしたこと、あなたは怒っているの?」
 おもむろに妻が聞いてきた。
 「いや、何でそう思うんだ?」
 「ううん、なんとなくあなたを見ててそう思ったから」
 この二日間妻にモデルのことを聞けなかったが、僕がずっと気になっていたことを妻は感じ取っていたようだった。
 「別に怒ってないさ、ただ、今でも気になっている、お前が他の男の前で裸になったということが」
 妻は僕の言葉を聞いて無言で僕を見ていた。
 「裸になった時、どんな気持ちだったんだ?」
 僕は一番知りたかったことをついに聞いてみた。
 「ど、どんな気持ちって言われても・・・やっぱり覚悟はしてても、最初はとにかくすごく恥ずかしい気持ちだった」
 覚悟か、男の前で裸になる覚悟と言うものはどういうことなのだろうか。
 単なるモデルになる覚悟なのか、それともその男に身をゆだねる覚悟も伴っているのだろうか。
 結局聞けば聞くほど僕の頭の中でいろんな嫉妬心がわき妄想が膨らんでいくように思えた。
 「恥ずかしいだけか?」
 「そうよ、最初はすっごく恥ずかしかった、倒れそうになるくらいね」
 妻は僕の表情とは反対に作り笑顔でそう答えた。
 しかし、僕はそんな妻の表情よりも『最初は』という妻の言葉に引っかかっていた。
 最初は恥ずかしかったけど、でも、最後は違う気持ちになったのでは、違う気持ちと言うのはどんな気持ちなんだろう、女は見られれば見られるほど感じるというが、妻も大河原に裸を見られて感じてしまったのでは。
 僕は妻の一言一言にいろんな妄想を膨らませてしまう。
 やっぱりもう終わったこととして、もう妻には聞かないようにするべきじゃないのか。
 「あっちの部屋に行こう」

 僕はそう言うと1階リビングの隣にある和室に入った。
 子供がまだ小さかった時は妻と息子が寝ていたところだ。
 僕は和室に入ると、押入れから布団のマットレスだけ敷いた。
 「なあに?上で孝太が起きてきたらどうするの?」
 妻が部屋に入るなり僕に小さな声で言ってくる。
 「大丈夫さ、孝太が起きてきてもすぐ着れるようにズボンだけ脱いでしよう」
 「やっぱりやらしい事考えて興奮したのね」
 「今日だけだ、お願い」
 そう言うと妻は仕方ないと言う顔をして部屋の電気を消そうとした。
 「もし孝太が起きたら、暗い部屋から俺たちが出てきたら変だぞ、今日は電気つけたままにしよう」
 「えー、明るいところで?」
 「モデルした時だって明るい場所なんだろ?」
 僕はそう言うと、妻を抱えるようにマットレスに寝かせるすぐさまズボンとパンティを一気に下ろした。
 明るい蛍光灯の下で妻の陰部がはっきり見えた。
 以前寝室で見たときの妻の陰毛と今日見た妻の陰毛は明らかに違っていた。
 スッと整えられているのだ。
 僕は妻に口付けをしながら陰部に手を差し入れた。
 すでに濡れていた。
 「なあ、この前見たときのヘアーと違っているぞ」
 「んっ、先生に見られるんだから、ちゃんと手入れしたのよ」
 この言葉を聞いた時、妻の裸が他人に見られたことをはっきりと実感した瞬間だった。
 僕は我慢できずにすぐさま自分のペニスを妻の膣内に挿入した。


 ゆっくりと膣奥までペニスを挿入するとそこから湿った音がした。
 僕は久しぶりの感触を味あうように、ゆっくりとペニスを前後に動かした。
 マットレスの上で妻は正常位のまま足を開いて僕を受け入れてくれた。
 僕は妻の首すじに唇を這わせながら服の上から乳房をつかんだ。
 その中央の突起が堅くなっているのがパジャマ越しからも良く分かった。
 たまらず僕は服の下に手を滑り込ませ、直接妻の乳房を触り、大きく突起した乳首を指で摘むと、妻は背中を反らせて反応した。
 「なあ、この前の時もそうだったけど、最近濡れやすくなったんじゃないか?」
 僕は挿入しながら妻に聞いてみた。
 妻は僕の動きに合わせて小さく声を上げるものの、僕の質問には答えてくれない。
 「なあ、前よりも感じやすくなったのか?」
 僕はペニスを抜いて妻にもう一度聞いてみた。
 「変なこと聞かないでよ、エッチ!」
 「エッチって、だって今エッチしてるんだろ」
 「大きい声ださないで、上に孝太がいるんだから」
 「わかってるよ、でも久しぶりにしてるんだからさ、俺の話に答えてくれよ、そうすれば気分も高揚してくるんだから」
 僕はそう言って興奮が衰えないペニスを再び妻の膣内に沈めていった。

 ぬるっと僕のペニスを包み込む妻の身体はやはり熱くてとても気持ちいい。
 今日は出来るだけこの快感を持続させたいので、ゆっくりとした動きでピストン運動を続けるつもりだった。
 「やっぱり濡れやすくなったのか?」
 僕は小声で妻に聞いてみる。
 「ち、違うわ、別に変わってないもん、女はね、気分だけで濡れることだってあるのよ」
 やっと妻が答えてくれた。
 気分だけでも濡れるとは、じゃあやっぱりモデルをしていた時にも濡れてたということなのか?
 それとも、今、僕の気分を高めてくれるためにそう言ったのか?
 どっちにしても僕は妻が答えてくれたことが素直にうれしかった。
 「なぁ、モ、モデルしてる時に、せ、先生に触られたりしなかったのか?」
 僕は妻の耳元で聞いてみた。

 今度はなかなか妻は答えてくれなかった。
 目をつむって、僕を受け入れてくれ、時々小さく声を出すだけだった。
 それでも僕はゆっくりとペニスを動かしながらしつこく同じ質問をした。
 「だって、しかたないじゃない、いろいろポーズ付けるんだから・・・」
 妻がようやく僕の質問に答えてくれた。
 しかし、その答えは僕の質問に対する否定ではなかった。
 大河原に裸の肌を触られたと言うのだ。
 「ど、どこを触られたんだ?」
 僕は興奮から逝きそうになったが、動きを止めてなんとかしのいだ。
 しかし、妻は僕の質問にすぐに答えてくれなかった。
 目をつむって肩を大きく揺らしていた。
 膣内には僕のペニスを深々とくわえ込んだままだった。
 「ここなのか?」
 僕はそう言ってゆっくり腰を動かした。
 「う、うんっ」
 妻が返事ともとれる様な声を出した。
 それを聞いた瞬間たまらず僕のペニスはドクンッと反応した。
 少しでも動かしたら妻の中で果ててしまいそうだった。


 「ほ、本当にここを触られたのか?」
 僕はそう言うのと同時に妻の膣奥深くにペニスを突き刺した。
 なんとも言えない快感が身体中を駆け巡る。
 「んっ、んっ・・・いきそう・・・」
 妻も僕の言葉に反応する。
 「お、俺もいきそうだよ・・・」
 「だ、だめ・・・な、中に出しちゃ・・・」
 僕はそう言われると腰の動きを一気に早め、射精寸前にペニスを引き抜くと勢いよく精子を外にぶちまけた。

 快感の後にはなんとも言えない虚脱感が襲ってくる。
 僕たちは無言で後始末を済ませた。
 しかし、その間でも僕は妻がモデルをしている間に大河原に身体を触られたと言うことがとても気になっていた。
 本当なのだろうか。
 「じゃあ、わたしそろそろ寝るから」
 キッチンで冷たい麦茶を飲んでいると、妻が言ってきた。
 「なあ、さっきのこと、本当なのか?」
 まだ妻が下にいるのかと思っていたから、あせって僕は妻に聞いてみた。
 「えっ?さっきって?」
 妻は立ち止まり、怪訝そうな顔をして僕に振り向いた。
 「だから、触られたって話だよ」
 「あー、そのこと、それよりさっきのあなたすごくエッチだったけど、なーに?あれ?」
 妻は僕の質問をはぐらかし、逆にふざけるように聞いてきた。
 「なにって、お前のモデルの時の話を聞いてただけだろ」
 「だって、エッチしている間は話してくれ、そうすれば興奮するから、みたいなこと言っちゃって、すごく変だったわよ」
 「おい、そんな風に言うなよ、で、どうなんだよ」
 「なにが?」
 「何がじゃないだろ、あの大河原に身体を触られたのか?」
 「さーどーかしらね、あまり変なことばかり考えないでよ、おやすみ」
 妻はそう言ってささっと2階の子供が寝ている部屋に行ってしまった。


 結局、その後も僕は何度か妻にモデルの時の話を聞いてみた。
 モデルの最中に大河原に触れられたと言う件だが、それは「ポーズを付ける時だけ手や足を触られただけだ」と言っていた。
 それでも、裸の妻の身体が他人に触られたと言うことだけで、僕には刺激的だった。
 どんな風に触られたのかと具体的に聞くと「いやらしい想像しないで」とはぐらかされてしまう。
 なかなか僕が知りたい部分に入れないでいた。

 「来週陶芸教室じゃなかった?」
 しばらくしたある日の夕食の後に、妻に切り出してみた。
 例のモデルの件もずいぶん聞きにくくなってしまっていたので、その辺から少し探りを入れてみることにしたのだ。
 「しばらく陶芸教室はお休みなの」
 妻から思いもしない返答が帰ってきた。
 「どうして?」
 僕はとっさに聞いてみた。
 「先生が7月に入るまでには例の作品に集中したいみたいで、だから陶芸の仕事はキャンセルにしてるみたい」
 例の作品とは妻が裸のモデルになった作品であることは、僕たちの間では明白だった。
 「例のオブジェ、いよいよ完成するのか?」
 僕は妻の言葉にすぐに反応して質問した。
 「う~ん、良くわからないけど・・・ただ公園に飾られるのはまだまだだいぶ先だけどね」
 「だいぶ先って?」
 「来年になるんじゃない」
 そう言えば隣県に出来る新しい公園と言うのは、来年出来ると前に聞いていたことを思い出した。
 「そっか、それまではオブジェも見れないのか」
 僕は晩酌のビールをすすりながら、なんとも残念そうな声をだしていた。
 妻をモデルにしたそのオブジェの完成を、実は楽しみにしていたのだ。
 「なあに?まるで楽しみにしてたみたいに」
 「そりゃ、お前をモデルにした作品なんだから、一度見てみたいと思ってたさ」
 「本当にただそれだけなの?」
 「それだけって何?」
 「この前からあなた、なんか先生の作品をいやらしく考えてるみたいだったから」
 「そんなことないさ、俺は真剣に芸術的な先生の作品を楽しみにしてただけだよ」
 自分でも歯が浮くような全く心にもないことを口走っていた。
 「最初は全く興味なしって、態度だったのにね」
 洗い物をしながら妻はあきれた顔で僕にそう言ってきた。
 しかし、水道を止めてから言った妻の次の言葉に僕は一瞬にして頭を叩かれる思いがした。
 「先生から『今度アトリエに遊びに来てもいい』って言われてるの」


 「えっ、なんだって?」
 夕食の後、リビングで夫婦二人だけの時に妻が言った言葉に、僕はビックリして聞き返していた。
 「何よ、そんなに大きな声だして」
 再び妻は水を流して残りの食器を洗い出した。
 「ああ、ごめん・・・それより先生のアトリエに遊びに行っても良いって、それいつ言われたんだ?」
 「もう、だいぶ前よ」
 対面キッチンのため妻の表情がよくわかる。
 特に悪びれる様子もなく妻が答えた。
 「お前だけか?」
 「わたしだけって?」
 「いや、ほら、陶芸教室の他の人とかも誘われてるのか?」
 「わたしだけよ、だってまだわたしがモデルしたことは内緒にしてるから」
 妻は僕の表情など気にもせずに答えていた。
 「まだ?まだってことは、いずれモデルしたことをみんなに明かすのか?」
 流していた水を止めて、妻は言葉のトーンを少し下げた。
 「やっぱり裸になったことは内緒にしてもらう、孝太の学校で変な噂がたったら嫌だからね、でも先生はわたしをモチーフにした作品を作りたいって前からみんなにも言ってたし、だから先生のイメージの中でわたしを脱がせてモデルにしたってことになってるの」

 イメージの中で他人の女房を裸にするというのも決して気分良いものではないが、それでも何となく興奮するものだ。
 でも事実は本当に妻を裸にしてるんだから、真実とは小説より奇なりとはまさにこのことかとも思えた。
 それよりも妻一人で大河原のアトリエに行くだなんて、そっちの方が僕にとって大いに気がかりだ。
 「一人で行くつもりなのか?」
 僕は妻に念を押して聞いてみた。
 「なんで?ダメなの?」
 「別にダメってことじゃないけど・・・いつ行くんだ?」
 「う~ん、この前の話では、まだ製作で煮詰まっている部分があるらしいから、邪魔しちゃ悪いし、もう少し後にしようかと思ってるの」
 さすがに製作中ではモデルである妻もアトリエに入れないとは、まったく芸術家というのは身勝手な人種だなと僕は思った。
 「なあ、俺も見に行ってもいいか?」
 たまらず僕は妻に聞いていた。
 作品を目の前にすれば妻はその時の状況を詳しく語ってくれるかもしれない。
 なによりそこに大河原もいるのだから、妻ではない人間からその時の状況を聞けばまた違った事実も出てくるかもしれない。
 僕は心の底からその作品(オブジェ)を見てみたいと思った。
 「え~、あなたが?」
 「そんな声だすなよ、モデルの家族なんだから見たっていいじゃないか」
 ここで断られてはみもふたもない、僕は自分が見学できる正当な理由を探した。
 だが出てくる言葉はどうも子供じみたものばっかりだった。
 「でもまだ製作中でしょ、あなたみたいな素人がアトリエに入ったら失礼よ」
 「お前だって素人みたいなもんだろ」
 ついムキになってしまった。
 その後、僕はすぐに反省し、妻にあやまった。
 そして何度も作品を見たいという僕の気持ちを妻に伝えた。
 「もー、わかったわ、そんなに言うなら明日先生に電話して聞いてみるから」


 僕は次の日の夕方、妻の返事が待ちきれず、用事を作って家に電話してみた。
 どんな用事だったか、今ではもう思い出せない。
 そのくらいささいな用件で家に電話してみた。
 「・・・あなた、そう言えばさっき大河原先生に電話したんだけど『孝太が夏休みに入る頃にはたぶん雛形が完成するだろうから、その時にでも家族で見に来てください』って言ってたわ」
 用件を聞いたあとに妻から話してくれた。
 「ああ・・・そのことか・・・わかった・・・じゃあ」
 僕は電話した用件なんかよりも、そのことが一番気になっていたのに、別に気にもしていないような口ぶりで電話を終わらせた。
 夏休みまであと一ヶ月近くあるのか。
 まあ仕方ないか、と僕はその時に納得した。
 その日、仕事は定時で終わり、僕は家族と一緒に家で夕食と取ることができた。
 「ねえ、孝太わかった?明日帰ってきてもお母さんいないかもしれないから、遊びに行く時はちゃんと鍵をかけていくのよ」
 「うん、わかった、お母さんいつ帰ってくるの?」
 「う~ん、わからないけど、夕方には帰るようにするから」
 「お母さん何処に行くの?」
 「陶芸の先生のお仕事を手伝いにちょっとね」
 僕はそれを聞いたときに、思わず味噌汁をのどに詰まらせてしまった。
 「おいっ!手伝いって!」
 「えっ、バイトなの?」
 すぐに息子が僕の言葉に割って入ってきた。
 「今回はお手伝いするだけだから、バイトじゃないのよ」
 妻は僕の言葉を無視して息子に答えていた。
 「ちぇ、バイトならいいのに」
 「あのねぇ孝太、お金のことばっかり考えちゃダメよ、それとお友達にもお母さんが先生からお金もらったとか、先生のお手伝いしてるなんて言っちゃ絶対ダメよ!わかった?」
 「わかったよ」
 妻はいつものように息子をしかりつけているが、僕にとってその内容はいつもの日常とは全く違っていた。
 「おい、それより手伝いって何なんだ?」
 僕はたまらず妻と息子の会話に割って入った。
 「後でちゃんと話すから」
 とりあえず息子がいるので詳しい話は後で聞くことになったが、僕は気になってその後の食事の味など全く分からなかった。


 「なあ、明日先生の手伝いをするってどういうことなんだ?」
 夕食が終わり、ようやく息子が2階に上がったのを見計らって僕は妻に聞いてみた。
 「あまり大きな声を出さないでね、ちゃんと話すから」
 妻はそう言うと食器洗いを後にして、ダイニングテーブルをはさんで僕の向かいに座った。
 「今日昼間に先生に電話したんだけどね『あなたが作品を見たがってる』って言ったら『見せてあげられるような作品にまだなっていない』って言うのよ。雛形作成の期限が7月中ってことだから先生もかなり深刻になってて・・・」
 妻はそう言って、今日昼間に大河原と電話で話した内容を僕に教えてくれた。
 「それでね、どうしてもイメージに行き詰ってるらしくて、わたしにもう一度ヒントをもらいたいってお願いするの」
 「ヒント?」
 「そう、ヒント」
 「それって、もう一度モデルになれってことじゃないか?」
 「さあ、そうなのかははっきり言わなかったけど」
 芸術家がモデルにもう一度ヒントが欲しいと言えば、普通に考えれば、もう一度モデルになってくれと言うことは誰にでも察しがつくことだった。
 「で、とにかく急ぐから明日アトリエに来て欲しいっていうのよ」
 「それで、返事したのか?」
 「だって、しかたないじゃない、あなたにも作品見せて欲しいなんてお願いもしてるし」
 おいおい、この期に及んで俺をダシにするなんて、と僕は思ったがあえて口にはしなかった。
 「とにかく、明日一日だけだからいいでしょ、あなた」
 妻はそう言って説明を終わらせようとした。
 「俺も行くよ」
 僕は自然と口にしていた。
 「えっ?あなたが?」
 「うん、俺も一緒に行くよ、心配だから」
 「心配だなんて、子供じゃあるまいし、大丈夫よ」
 「子供じゃないから、心配なんだろっ!!」
 僕は突然形相を変えて大きな声を出してしまった。
 しばらく沈黙が続いたが、幸い上にいる息子には気がつかれなかったようだ。
 「ご、ごめんなさい・・・でも、あなた仕事は?」
 僕の表情を見てさすがに妻は謝ってきた。
 「休むさ」
 「休めるの?」
 「そりゃ、やす・・・あっ・・・明日大事な会議だった・・・」
 勢いで仕事を休むと言ってしまったが、明日、月一回の重要な会議があることをすぐに思い出した。
 簡単に会議を欠席することは出来ない。
 「ほら、やっぱり無理なんでしょ・・・大丈夫よ、それにあなたが来たら先生も意識して、結局製作が進まなかったらわたしが行った意味がなくなっちゃうわよ」
 妻の口ぶりからは、まるで僕が一緒に行くことを嫌がっているように思えた。
 ならば、ますます妻一人では行かすことは出来ない。
 僕はどうしても明日時間を作って大河原のアトリエに行く決心をした。
 「大丈夫だよ、先生の邪魔にならないようにするから、とにかく一緒には行けないかもしれないが、必ず明日行くようにするから、アトリエの場所と時間だけ教えてくれ」


 妻はその日、昼から大河原のアトリエに出かけているはずだ。
 本当は僕も一緒に行きたかったのだが、どうしても抜けられない仕事があった。
 でも、僕はそれをなんとしても早く終わらせ、絶対にアトリエに駆けつけるつもりだった。
 しかし、結局アトリエに着いたのは夕方4時近くになっていた。

 貸しテナントがたくさん空いている雑居ビルの3階フロアーに、大河原のアトリエがあった。
 ドア越しに中の様子がうかがったが、中から音がする気配もない。
 もう終わってしまったのだろうか?
 それとも本当にここなのだろうか?
 場所を間違えたのか?
 僕は何ともいえない嫌な胸騒ぎを感じていた。
 意を決して目の前にあるモスグリーンのドアをノックしてみた。
 「はい、どなた?」
 すると、すぐに中から大河原の声が聞こえた。
 間違いなくここで良かったんだ。
 僕は一瞬ほっとした。
 「大久保です、大久保久美子の亭主です」
 僕がそう言うと、しばらくしてドアが開いた。
 「ああ、大久保さんのご主人ですか、どうも奥様にはとてもお世話になっています」
 大河原は僕を見るなり笑顔でそう言ってきて、僕を中へ向かいいれてくれた。

 僕は恐る恐るアトリエの中へ入ってみた。
 『アトリエと言うのは、いろんなにおいが入り混ざった、何とも変な匂いがするものだ』とその時思った。
 中には所狭しと、大河原が製作しているであろう造形物などが無造作に置かれていた。
 しかし、それらは人間の形のものはほとんどなく、なんだかよくわからない抽象的な形をしたものが多かった。
 それよりも、周りを見回しても妻の姿はなかった。
 大河原の作っただろう造形物なんかよりも、僕の心配は妻のことだけだった。
 現在製作しているだろう妻のオブジェらしきもないし、妻の姿もない。
 もうだいぶ前に終わってしまったのだろう、やはり来るのが遅すぎたのか。
 僕は早く来ることが出来なかった自分を恨んだ。
 「今、終わりにしたことろなんですよ、まだお見せ出来ませんけど、やっと僕の気に入った作品ができそうです」
 笑顔でそう言ってくる大河原は、一仕事を終えたような充実感を漂わせている。
 『やはりもうだいぶ前に終わって、妻はとっくに帰ってしまったんだ』と僕はそう思った。
 空調をあまりきつくしていないその部屋で、笑顔で語る大河原は背中まで汗をシャツに滲ませていた。
 「冷たい物がいいですか?」
 そう言って、大河原は部屋の隅に置かれてある冷蔵庫から飲み物を出してくれた。
 「いえどうぞお構いなく、すぐに失礼するので」
 僕は飲み物を遠慮した。
 そして『妻はすっかりいないものだ』と思い込み、アトリエを出ようとした。
 「奥さん、今着替えに行ってるんですよ」
 大河原がそう言って僕を呼び止めた。
 僕は妻がまだここに居たということにも驚いたが、それ以上に、今着替えに行っているという事に驚きと興奮が入り混じった感覚に襲われた。
 「まだいたんですか?」
 僕は一度背中を向けた体を向きなおして大河原に聞いてみた。
 「ええ、だからさっき終わったばっかりだったんですよ。今日は奥さんを急にお呼びだてしてしまって申し訳ありません。でも、おかげでとても良いイメージが出来ました。ちょっと奥さんには無理させちゃったかもしれません。今シャワー浴びてると思いますから、もう少しそこでお待ちください」


 昨日、急に大河原から手伝いを頼まれた妻が心配で、大河原のアトリエに駆けつけたのだが、結局仕事の都合でアトリエに着いたのは夕方になってしまった。
 意を決して、アトリエの中にのり込んだが、妻はそこにはいなかった。 しかたなく帰ろうとしたところに、大河原から思いもよらない言葉を聞いた。
 今手伝いが終わり、妻はシャワーを浴びていると言うのだ。
 「い、今まで家内は、モ、モデルをしていたんですか?」
 僕は恐る恐る大河原に聞いてみた。
 「はは、すみません。前に作ったものではどうも納得いかなかったので、奥さんにまた協力していただきました。でも、ご主人がとても芸術にご理解がある人で助かりました。裸婦と聞いただけで拒絶されてしまうことがあるので」

 俺が芸術に理解があるだと?
 最初に妻にモデルをしても良いと言ったことが、この男にはこのように誤解されてしまっているのか。
 妻はこの男に僕のことを何と言ったのか?
 そして、何よりいったいこの男とどんな関係になっているのか?
 僕の頭の中には次から次へといろんな疑問が沸いて出てきた。
 「ど、どんな作品なんですか?」
 どうしても、大柄で男前の大河原の前では低姿勢になってしまう自分が情けなかった。
 「まだ完成してないのでお見せ出来ませんが、この前もご主人にお話したように、日本女性のもってる美しくて、おくゆかしい、それでいて妖艶な、そんなものが表現できればと思っているんですよ。それで・・・」
 それからしばらく大河原は芸術論のような話をしていた。
 『相変わらず良くしゃべる男だ』と僕は思った。
 以前に、大河原に会った時もそうだった。

 僕のわからない芸術用語を使って、一方的に話していた。
 「あ・・・あの~」
 僕は大河原の言葉を途中でさえぎった。
 「うちの家内はモデルとしては充分なんですか?」
 僕は大河原のつまらない芸術論の話から妻の話に戻したかった。
 「何を言ってるんですか、あんな綺麗な人は他にいませんよ。なんと言っても色気がある。私はね、初めて大久保さんを見たときから素晴らしい素材だと、思っていたんですよ」
 芸術の話をしている時と同様、妻の話をする大河原の目は輝いていた。
 「そ、素材・・・って、裸の・・・ですよね?」
 「そうです、あの美しい裸こそが芸術ですよ。私はね、こんなに興奮して一人の女性の裸に夢中になったのは久しぶりですよ。美しい肌、背中からヒップにかけてのライン、バストラインやバストトップ、すべてのパーツが僕が想像してた通り完璧でした」
 亭主の目の前で、その女房の身体のことを話す大河原を見て、芸術家の言う生き物の神経が全く理解できない。
 しかし、妻のことを素材とかパーツと言っている以上、芸術としての対象としか見ていないのが分かる。
 そう言う意味では僕は少し安心しかけていた。
 「しかも、今日の大久保さんはとても良い反応を僕に見せてくれた」
 反応?
 僕はその言葉がとてもひっかかった。
 「は、反応って・・・ど、どんな?」
 「ま~、ゲスな言い方ですが、感じてくれたということですよ」


 か、感じただと!
 僕は『カッ』と頭に血が上ったが、大河原があまりに余裕たっぷりに言うので、声を出すことが出来なかった。
 「前の時は芸術員の人や大学関係の人がいたので、表情が硬かったんですが、今日は私だけでしたからリラックスしてくれたのでしょう。今まで見せてくれなかった表情をしてくれました。かなり色っぽかったですよ。ふふ・・・」
 妙な含み笑いがいっそう僕の疑問を大きくする。
 「ど、どんな風に作品を・・・?」
 僕は一呼吸入れて大河原の製作風景を探ってみた。
 「まー、芸術家と言うのは多かれ少なかれ自分のスタイルがあるんですが、私は造形物をやる時は動きを大切にしますね。というのは・・・」
 やばい、また長い話をしだした。
 「あ・・・あの・・・実際に被写体に触れたりとかは・・・?」
 僕は話を再びモデルの話に戻した。
 「あー、モデルさんの身体に触れるってことですか?」
 「そ、そうです・・・」
 いよいよ僕の一番聞きたかったことだ。
 僕は大河原を見つめ、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
 「芸術家によってはよく触る人がいるみたいですね。特に写真家にはそういう人が多い。私は必要以上に対象物を触ったりしません。ただ、今回は造形物なので質感を得るために、対象物の感触を確かめることはその都度しましたけど。でも、それは大久保さんにも前もって説明してましたから、問題ないですよ」
 も、問題ないって!
 問題大ありだろっ!
 思わず大声を出しそうになってしまった。
 「ご主人にも前にお話しましたよね?」
 急に僕に確認してきた。
 前に話した?
 そんなこと聞いてないぞ!
 「えっ?ま、まぁ、で、でも、どこまで触るのかは・・・」
 自信たっぷりに聞いてくるので、つい認めてしまった。
 でも、こうなった以上、今日は実際どこまでしていたのか確かめてやろうと逆に思った。
 「まぁ、今回は触るというよりも、ラインを確認するためにちょっとね・・・でも、それが逆に奥さんを刺激しちゃいましてね・・・はは・・」
 し、刺激?
 もう、いーかげんはっきり言ってくれよ!
 俺の妻に何したんだよ!
 僕は立ち上がって言葉に出さない分、変な身振りで大河原に伝えていたが、大河原には伝わらなかった。
 その時、部屋の隅のドアが開き妻が入ってきた。
 「あ、あなた!」
 妻が僕に気がつき声を出した。
 「どうですか?シャワーを浴びて元通りの綺麗な身体になりましたか?」
 「ええ、もう大丈夫です・・・」
 妻は大河原の質問にそう答えると、恥ずかしそうに下を向いていた。
2:col :

2022/06/03 (Fri) 10:51:59


 入ってきた妻は白いロングスカートにノースリーブのシャツを合わせていた。
 素肌の腕をむき出しにした薄手の白いシャツからは、その下のブラのレース模様まではっきりと透かしていた。
 僕はなんて危うい格好なんだと思ったが、それどころかついさっきまでここで、妻はこの男の前で全裸を晒していたのだと思いなおすと、今の格好が危ういだなんて、バカバカしいことに気がついた。
 「先生、すみませんでした、さっきは・・・」
 僕たちの近くまで歩いてきた妻はまず大河原にそう言って頭を下げた。 心なしか妻の頬はほんのり赤く染まっているように見えるが、妻が何のことを言っているのか、まだ僕には良く分からなかった。
 「いえ、別に気にしてませんよ、それより少し落ち着きましたか?」
 「ええ、すみませんでした・・・」
 僕は二人の会話の意味が良くつかめず、ただ黙って二人を眺めているだけだった。
 しかし、その言葉の雰囲気から『二人が単に陶芸教室の先生と教え子という関係以上のものがあるのではないか』と思わせるには充分だった。
 「でも、本当にもう終わりにして良かったんですか?」
 「これ以上はもう大久保さんに甘えられません、後は私一人で何とかします」
 「で、でも、中途半端になったんじゃ・・・」
 「そんなことないですよ、大久保さんの女らしい声を聞けただけでも、充分僕に新しい刺激をくれました」
 女らしい声だと!
 また僕の心を逆なでするような大河原の発言に、徐々に僕は我慢が出来なくなっていった。
 「そ、そんな・・・恥ずかしいこと言わないでください・・・」
 僕は二人の会話から、今まで二人がここで、淫らな、しかもただならぬことをしていたのだと決め付け、ついには自分の自制心が抑制出来なくなっていった。
 「二人とも、いったい何してたんだよ!」
 僕はついに大きな声で叫んでしまった。
 「あなた、大声を出さないで、先生に失礼でしょ!」
 妻のこの一言で、とうとう僕はキレてしまった。

 その後、僕は何を言ったのか良く覚えていない。
 と言うより思い出すだけで腹立たしさと恥ずかしさが入り混じっていて、とにかく思い出したくないのだ。
 大河原も突然の僕の変貌に驚いていた。
 何より妻がモデルをすることに対して、僕が好意的に受け入れてくれてるとずっと思っていたようなのだから。
 大河原が慌てて僕に今日の製作状況について説明してくれたが、その話の内容は結果的には僕にとって、さらに火に油を注ぐようなものだった。
 「まあ、ご主人、そんなに興奮しないでください」
 しばらく僕がキレて叫びまくってから、大河原がまるで暴れる犬をなだめるかのように僕に言ってきた。
 「誰だって大声だしますよ!さっきからあんたの話や二人の話を聞いてたら!いったい今日何してたのか説明してください!」
 「あなた」
 「お前は黙ってろ!」
 僕はものすごい形相で妻を制してから、大河原に詰め寄った。
 「わかりました、今日の製作に関してきちんとご説明します」
 そう言ってとうとう大河原がここで妻に何をしたのか、本当のことを話し始めた。

 「今日も奥様には私の作品のモデルをお願いしました。奥様にはそこの台に立っていただいて、私の指示通りのポーズをとっていただきました」
 「モ、モデルって、裸なんだろ!」
 「ええ、申し訳ありませんが裸婦がテーマとなっていますので、奥様には裸になっていただきました」
 「は、裸の妻の身体を触ったんだろ!」
 「そんな、人聞きの悪いようなことを言わないでください。少し奥様の肌に触れただけです」
 「触れただけ?いったい何処を触ったんだ?」
 「すべてです」
 「す、すべてだと、ぬけぬけと、胸も尻もあそこも全部触ったって言うのか?」
 「そんな下品な言い方、やめてください」
 「そうよ、あなた、先生は変なところは決して触ってないわ」
 「お前は黙ってろって言ったろ!じゃあ聞くが、女らしい声を聞いて刺激されたって何だ!コイツにあそこを触られて、おかしな声を上げたんじゃないのかっ!」
 「ご主人、はっきり言います。今日の製作中、最後に私は奥様にあるお願いをしてしまいました。それは造形物をするときに時々するのですが、出来上がった時のイメージをはっきりさせるために、対象物に色をつけることをします。今日奥様の身体に水性のペイントを施そうとしました。その際に私の配慮が浅く、奥様のとても敏感な部分に筆を入れてしまいまして、奥様を慌てさせてしまったんです。ですから、それですぐに終わりにしました。本当にそれだけなんです。誤解を与える発言をして大変申し訳ありませんでした」
 ご、誤解だと!
 誤解じゃないじゃないか!
 その筆で、妻の大事なところ刺激して楽しんでたつーことだろ!
 僕はさっきよりもまして大きな声を上げて怒鳴っていた。

 その後もしばらく大河原は僕に謝罪を続けた。
 言いたい事を言って、一人興奮していた僕の頭は徐々に冷やされ、僕たちはその場を後にした。
 数日後妻から聞いたのだが、アトリエは大河原が所有していた場所ではなく、大河原が以前勤めていた美大の所有のもので、そこに置かれていたオブジェも大河原のものではなかった。
 そして今回のオブジェの製作には美大から全面的な協力があるという。
 大河原は僕のことを気にし、出来上がったものは公開する前に必ず見せてくれると約束してくれた。

 数日後、僕たち家族は大河原が以前勤めていた美大の教室にいた。
 ようやく妻をモデルにしたオブジェの雛形が完成したというのだ。
 そこに置かれていた3体の真っ白いオブジェは、体つきこそ女性のものであったが、顔の形は全く出来てなくて卵のようなものだった。
 息子は気持ち悪いと言ってあまり見ようとはしなかった。
 当然、その3体のオブジェのモデルが自分の母親だということすら気がついていない。
 一体、一体、それなりのタイトルがつけられていたが、僕は三体目のオブジェが気になってしかたなかった。
 『拾う女』と命名されたそのオブジェは腰を起点に上半身を折り曲げ、右手を差し伸べて何かを摘むような格好に見えた。
 僕はこのオブジェがどう芸術的なのかまるで分からないが、踏ん張った左足の太ももの質感、重力に引かれて弾力を感じるバスト、女が拾おうとしているのは、その辺に落ちているささやかな幸せなのだろうか。
 と、思うが大河原の伝えたいメッセージは他にあるのかもしれない。

 ただ僕の頭にあるのは一点だけだった。
 妻が大河原の前でどのようにそのポーズを魅せていたのか?
 そして、何よりその背後である。
 無防備に晒された臀部。
 大河原はその臀部の質感を確かめるために何度妻の大事な部分を見たのか?
 いや、見ただけではない。
 大河原は感触をその手で確かめたに違いない。
 丸みを帯びた妻の臀部を、大河原の手がいくどもさすったに違いない。
 そしてその中央の割れ目に手を差し入れて、妻の感じやすい愛液をすくったのだろう。
 ペイントした筆は妻の大事な部分を刺激し続け、そしてついには妻を快楽へ導いた。
 僕はあの時にあと30分も早くあのアトリエに行けば、その光景を目の当たりにしてしまったのかもしれない。
 大河原の製作はここからが本番のようだ。
 しかし、この後は自分の想像を屈指して作り上げるしかないと言っている以上、もう妻をモデルにすることはないのだろう。
 しかし、もし・・・・
 まだまだ暑い日が終わらない今日も、妻を見るたびに一人そんな妄想にふけってしまう。

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